表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/94

8050問題(1)


 住宅街を歩く備前の後ろを小走りで追いかけながら加奈子が問う。


「パパ? 今日はどこに行くの?」


「ちょっと知り合いに頼まれてな。ついでに新しい養分を仕入れに行く」


「でもなんでアタシまで一緒?」


「お前を使って煽ろうと思ってな」


「アタシを使って? なにそれ?」


「今回のターゲットは中年童貞ニートだ」


「ぶはっ! ダサすぎぃ!」


「中年童貞には若い女を使ったほうが精神的ダメージを負わせやすそうだからな。小娘は俺の助手に任命する」


「パパ悪魔すぎぃ! 要するに、アタシはその子供部屋おじさんを煽り散らかせばいいんだね! メッチャ楽しそ〜!」


「怒りのエネルギーってのはバカを動かす原動力としてはバカにならん。子供部屋から叩き出して養分にするぞ」


「いよっしゃあ! やる気出てきたぁ!」


 加奈子は軽やかに駆けて備前の隣に並んだ。


 そこで備前は気まぐれで加奈子に問う。


「ところで小娘は8050問題はちまるごうまるもんだいってのを知ってるか?」


「あ! それ聞いたことあるかも! なんだっけ?」


「今、日本中で問題になってるだろ」


「あっ! それね! アタシめっちゃ好き! アイスのヤツだ!」


「アイス?」


「バリバリ君! 最初は50円くらいだったのに今は80円くらいになっちゃった問題だ。もう最近の物価上昇エグいってぇ〜……」


 備前は頭を抱えた。


「くそ……一瞬でもあながち間違ってねぇと思ってしまった自分が恥ずかしい」


 備前の反応を見て加奈子は飛び上がる。


「やった! 正解だ!」


 備前の憐れみの視線に気づかず、加奈子は得意げに頷きつつ続ける。


「そうだよね〜。これだけ物価が上がれば日本中で問題になる訳だよ。ね、パパ?」


「そうだな」


 備前は説明をする気すら失せてしまった。


 本当の8050問題とは、80代の親が50代の子どもを支える社会問題である。


 背景にあるのは子どものひきこもりなどだ。


 子どもに収入がなく、親の年金に頼って生活をしているため、親が死亡すると子どもの生活が成り立たなくなる危険性を孕んでいる。


 ひきこもりの子どもには社会性がないことも多く、親の死後、何も行動できずにそのままあとを追って死ぬケースが実際に存在する。


「で、どうして今バリバリ君の話をしたの?」


「親の年金で暮らしてる中年童貞ニートは自分の金で80円のバリバリ君すら買えねーわけだろ?」


「あ〜……わかる。それはヤバいね〜」


「だろ? バリバリ君も買えないのに生きてる意味があるか?」


「ないっ! そういうことか!」


 備前は鼻で笑いながら先を急いだ。




 備前が足を止めたのは住宅街にある二階建ての民家の前だ。


 築30年ほどだが綺麗に管理された明るい雰囲気のごく一般的な民家である。


 備前はその民家のインターホンを押した。するとしばらくして老婆の声がインターホンを通じて出てくる。


「はい、小森です」


「備前です。お子さんのことで相談をもらった」


「あぁ備前さん。ちょっと待ってくださいね、すぐに開けますから」


 そう言ってインターホン越しの会話が途絶えたあと、しばらくなんの物音もしなくなった。


「パパ? お婆ちゃん出てくるの遅いね」


「高齢だからな、足が悪いのかも知れん」


 しばらくして玄関の解錠をする音が聞こえ、中から白髪の老婆が現れる。


「わざわざありがとうございます。さぁどうぞ中へ」


 老婆は身なりもしっかりしており、清潔感がある。しかし備前たちを招いて中に戻ろうとする動作は足を引きずっている。


 備前たちは老婆についてリビングまで通された。


 フローリングの床に大きめのコタツが置かれ、その周りに敷かれた座布団に備前たちは座った。


「備前さんとそちらの方も、お茶でいいですか?」


 老婆がリビングから続くキッチンの冷蔵庫の前で備前と加奈子に尋ねる。


「お構いなく」


「アタシもです」


 そう断るが老婆は冷蔵庫を開けてペットボトルのお茶を取り出していた。


「パパ? 聞いてもいい?」


 加奈子が小声で備前に言う。


「パパはこの家の人に生活保護を勧めに来たんだよね?」


「そうだが?」


「でもさ。お家も綺麗だし、お婆ちゃんも上品な感じだし、アタシには生活保護が必要なようには見えないんだけど」


「ま、話を聞いてればわかる……いや小娘にはわからんだろうが、取り敢えず座ってろ」


「はぁい」


 備前たちは老婆がお茶を持ってゆっくりと戻って来るのを待った。


 老婆はお茶をそれぞれ備前たちの前に差し出して、自分はコタツの向かいに置かれたソファに腰掛ける。


「ごめんなさいね、少し足が不自由になってしまって、床に座ると起き上がるのに大変なものだから」


「気にしないでください。それより、早速ですがお話を伺いましょう」


 備前は少し姿勢を正して老婆を見た。


 やがて、老婆から家庭の状況が語られ出した。



お読みいただきありがとうございます。


言い忘れてましたが、生保申請行ったけど追い返された……とか、お困りの方は(ホントに気まぐれで極稀に)コメント相談に乗れますよ。


ただし、これは氷河期世代への応援なので、それ以外の世代は自己責任ザマァ扱いです(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ▲▲高評価もお願いします!!▲▲
 ▼▼ついでにポチっと投票も!▼▼
小説家になろう 勝手にランキング




■■■■■■ 書籍化のお知らせ ■■■■■■
読みやすく地文も整え、新たにシナリオも追加しました!
アンリミテッドならタダで読めますので、よかったら読んでください!
hyoushi
▲▲画像タップで【異世界トラック(kindle版)】へジャンプ▲▲


■■■■■■ 書籍化のお知らせ(ここまで) ■■■■■■




 ▼▼なろうサイト内のリンク▼▼
超リアリティから超ファンタジーまで!
幅広いジャンルに挑戦しています!
よろしくお願いします! ↓↓

▼▼画像タップで【異世界トラック】へジャンプ▼▼
hyoushi
運と久遠……そしてトラックはHINU?



▼▼画像タップで【リビングデッド】へジャンプ▼▼
hyoushi
備前正義と笹石加奈子のイメージ




― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ