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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
前章

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修羅場


 石田が備前の養分と化してから数日後。


 佳代が石田宛ての入居費用請求書を持って備前の部屋までやって来て言った。


「マー君、言われたとおりに作ったけど、本当にこんなに請求しちゃっていいの? あの人が入った部屋、あんなにボロ屋なのに」


「いいんだよ。保護費では住宅費として上限金額が定められているんだ。中には周辺自治体と共有で独自基準を定めているところもあるがな。不動産に携わるなら確認しておくのは基本だ。生活保護者が来たら上限いっぱいまで請求しろ」


「それって悪いことじゃないの?」


「なんでルール内の請求が悪いんだ? ボロ屋じゃ上限が下がるなんてルールはねぇ。変に正義感を振りかざしてバカを見るのは勝手だがな」


「そうだけど……」


「安心しろ。それが悪いと言うなら欠陥ルールで運用しているほうが悪いんだ。そんなにルールを利用されたくなけりゃあ変えればいいんだからな」


「う〜ん……」


「バカを見るのはバカだけだ」


 備前はぶっきらぼうに手を差し出して言った。


「どれ、よこせ。何か言われるのが恐けりゃ俺が福祉事務所に出しといてやる」


「わかったよぅ」


 佳代は渋々、請求書を備前に渡した。


「それからね……?」


 用事が済んだというのに佳代は備前の部屋を去ろうとはしなかった。


「なんだ、まだなんかあんのか?」


「あの人のことなんだけど……」


「なんだ。亜人(あじん)のやつ、まだお前に絡んでくるのか?」


 備前はあれから石田のことを亜人と呼ぶようになった。石田亜希人の名前を略し、人間に成り損なった存在としてそう呼んでいる。


「ううん? 私がマー君の部屋に泊まるようになってからは変に疑ったりはしてないと思う」


「なら良かったな」


 備前は興味なさげに言った。


「でもあれ以来、なんかマー君のことをアニキって言うようになっちゃって……」


「ああ、それか」


「マー君にも言うんだ?」


「アイツにも生活保護を受けられるようにしてやったら変に懐かれちまってな。せっかくだから亜人は俺の下僕にした。これからは俺ができねぇような汚れ仕事はアイツにさせようと思ってな」


「つ、捕まらないの?」


「どうせ前科者だし、今や失うもののない無敵の人間だからな。使い捨てるのにも適しているだろ」


「ひ、酷いよ……」


「なんだ? 元夫がボロ雑巾のように扱われるのが嫌か?」


「それは絶対ないけどさ……」


「なら何がそんなに不安なんだ?」


「わ、私のこと、見捨てないでね? なんでもするから……」


 そう言って佳代は備前に身体を寄せた。


 備前はその意図を見抜いたうえで相変わらず興味なさげにため息をついた。


「そもそも拾ったつもりもねぇが……安心しろよ。俺は身内なら見捨てるつもりはねぇ」


「あ、ありがとう」


 佳代はおそるおそる言った。


「そうだ。ねぇマー君。……私は生活保護を受けなくてもいいの?」


「受けられる訳ねーだろ」


 備前は当然のように答える。


「持ち家、貸家、車に加え、家賃収入も最低生活費を超過してるからな、まず要否判定というのが通らない」


「私だってもっとマー君のお役に立ちたいよ」


「安心しろ、十分に助かってるよ。これからは保護を受けてない関係者も必要になる。色々と行動するのに保護者ばかりじゃ動き難いだろ」


「それならいいんだけど……」


 佳代は先ほどからモジモジとして少し歯切れが悪い。


 備前はその理由にも察しがついている。佳代は最近、好意を持って泊まりに来ている。だが備前は面倒なのでそれをまったく相手にしていない。つまり佳代のほうも色々と溜まっているのだろうと容易に予想がつくのだ。


 だから備前はそれを突き放すべく言った。


「佳代。用件がそれだけならもういいか? 俺はちょっと出掛けてくる」


 だが佳代も食い下がる。


「なら、私が車で送ろうか?」


「ありがたいが、今日は男ひとりで行くところだからな」


「どこ?」


「どこって……そりゃあ、買いに行くんだよ」


「買うって、何を?」


「何って……男が買うって言えばアレだろう」


「アレってなぁに?」


 備前は面倒臭そうに舌打ちする。


「……女でも買いに行くんだよ」


 それを聞いて佳代は驚いた顔をする。


「お、女って、どうして!?」


「別にこの歳で性欲うんぬんを言うわけじゃないぞ。公金を貰う身分で女を買うって実績を作っておこうと思っただけだ」


「ぜ、ぜったい嘘だよね? 男なんて若い娘が好きなのに決まってる!」


「わかってねーな。この歳になるとむしろ行為自体が面倒になってくるんだよ。あくまで実績のためだ実績の。俺の気分の問題なの」


「そ、それじゃあ私の気分はどうなるの!?」


「別に佳代に関係ないだろ」


「あるよっ! 私たち付き合ってる!」


 佳代は備前に飛び掛かりそうな勢いで迫った。


「付き合ってねぇよ。一時的に話を合わせただけだろうが」


「マー君ひどい」


「そういうのが面倒だからお前とは関係持ちたくねーんだ」


「ねぇ。私で済ませなよぉ」


 とうとう佳代はストレートにそれを口にしだした。


「嫌だ。お前もう38だろ」


「若く見られるもん!」


「まぁたしかに見た目は綺麗な部類に入るのは認める……が、お前に手を出すと婆さんの手のひらで転がされてるようで嫌だ」


「いいじゃん! 私だってもう10年以上してないし……」


「ご愁傷さまだな。じゃ、俺は若い娘を買ってくる」


「ひどい! 私がいるのに!」


「勘違い女は面倒くせーな」


「あっ! そんな言い方! もう怒った! 襲ってやる!」


 痺れを切らした佳代は備前の腰に全力でタックルを決めた。


「ぐはっ! 痛ぇ!」


 備前は堪らず床に倒れ込む。しかも備前ももう40代半ばの中年だ。慢性的に腰の痛みを抱えているものだから衝撃で一時的に動けなくなってしまう。


「ま、待て佳代。冗談じゃなく腰がヤバい。これはギックリ腰だ」


「ふふーん。それは天罰だよ。大人しく私にやられちゃえばいいんだ」


「ふざけんな! ギックリ腰で痛ぇって言ってんだろ! 動けねぇんだよ! 安静にさせろ!」


「やだ! 大人しく抜かれろー」


「うわっ! テメェ、佳代!」


 そんなふうに部屋でバタバタとやっていると。


「ねぇパパぁ? ちょっとうるさいんだけど」


 開いたままのドアから隣の部屋の加奈子が顔を出す。


 加奈子の目の前には倒れ込む備前の上に重なる佳代の構図である。


「わ。マジ?」


 加奈子は半ば呆れたような目である。


「おい小娘いいところに来た! 助けろ!」


「いやぁ……ふつう腕力的に逆じゃね? 的な」


 加奈子は困ったように目をそらして言った。


「ギックリ腰で動けねーんだ、頼む! 佳代を引き剥がしてくれ!」


 それを聞いたとたん、加奈子はとても悪い顔をした。


「ふぅん……パパ。それ、いくら?」


「は?」


「だから。パパは助けてもらうために、アタシをいくらで買うのかな〜?」


 加奈子はニヤニヤと備前を見ている。


 そしてそれを聞いてハッとする佳代。


「か、買うって、マー君もしかして……若い娘を買うって……」


「ち、違ぇっ!? 誤解すんじゃねー!」


「サイテー!」


 パシンと響く乾いた平手打ちの音。


 堕落した日々を送りたいのに備前の日常は騒がしくなる一方である。


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