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リビングデッド ~生活保護を悪用してお気楽な無敵生活~  作者: nandemoE
前章

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佳代(3)


 ある日の午後、備前たちのアパートの前で誰かを呼びかける男の声がした。


 相変わらず備前の部屋で寛いでいた加奈子が窓の外を見て言った。


「ねぇパパ? 佳代さん家に誰か来てるみたい」


 大家である佳代の家は備前たちの住むアパートと同じ敷地内にある一軒家だ。


「ん? あぁ、例の元夫が来たんだな……ちょっと行ってくる」


 そう言うなり備前は身なりを整えて部屋を出て行こうとした。


「話のとおりだと危ない人なんでしょ? ひとりで大丈夫?」


「小娘がいると余計にこじれそうだからな、遠慮する」


「ひっど! 人がせっかく善意で言ってあげてんのに」


「いるんだよなぁ。ありがた迷惑が伝わらない奴。だから最底辺なんだろうがな」


「ひっど! もうパパなんか知らない! 殺されちゃってもアタシ知らないかんねっ!」


「それでいい。俺たちは互いに何かあっても涙を流すような関係じゃないからな」


 備前は加奈子に対し背中でそう淡々と告げつつ、靴を履いて部屋を出て行った。


「パパひっど……」


 加奈子はそのあと少し言葉を失って備前が出て行った部屋のドアを見つめていた。




 佳代の家の玄関前にて大声で呼びかけていた男はいかにもチンピラ風の男だった。


 他人の家の前でありながらまるで家主を威嚇するように大声を発する男は近所迷惑すら気にした様子もなく長時間騒ぎ立てていた。


 佳代も萎縮して閉じこもっていることが容易に想定できた。


「こんにちは。もしかして佳代にご用の方ですか?」


 備前は臆することなく男に近寄って紳士的に声をかけた。


「あぁ!?」


 それでも男は威圧的な態度で備前を睨み返した。


 十年以上前に佳代の結婚式で一度顔を見たことがある程度の関係ではあったが、備前は男の顔を見て確かに佳代の元夫であったことを思い出していた。


「誰?」


 しかし男のほうは備前をまるで覚えていない様子であった。


「佳代の連れです。そちらは?」


 備前が当たり前のように淡々と答えると男は露骨に舌打ちをした。


「元旦那だよ。文句あるか」


「あぁ。佳代から聞いています。たしか、石田(いしだ)亜希人(あきと)さん」


「……だからなんだよ」


「もしかして、この間借りたお金を返しに来てくれたのですか?」


 備前がそう言うと石田は露骨に顔をしかめた。返しに来たどころか更に借りに来たというのが丸わかりである。


「おや。では本日はいったい……?」


「別に。ただ近くに寄ったついでなんで。本人がいないなら用はない」


 そう言って石田は踵を返してその場から立ち去ろうとした。


「お待ちください」


 だが、備前は石田の背中を呼び止めた。


「佳代が心配しておりました。お金はいつ頃お返しいただけるのですか?」


「うっせーな。アンタには関係ねーだろ」


「関係あります。佳代の連れと言ったではありませんか。いくら貴方が元夫とはいえ、今は他人。こうして用もなく訪ねて来られるというのは以降ご遠慮願いたいのですが」


「あぁ!?」


 石田は備前の態度が勘に触った様子で、眉間に皺を寄せ、低い声で脅すような声を発した。


「お前ムカつくな」


「私のことはどう思っていただいても構いませんが、お金は返していただけるんでしょうね?」


 ただし備前は石田の威嚇に対しなんら臆する様子を見せない。査察指導員として勤務してきた経験の中にはこのような態度を取る人間が数え切れないほど存在したからである。


 恫喝に屈するにはあまりにも備前の経験は豊富すぎた。


「もしや、今回は返すどころかまた借りに来た、なんてことはありませんよね?」


「テメェ……ブン殴られてぇみてぇだな」


「腕力にものを言わせるのは賢いとは言えないですよ」


「テメェ!」


 引き際を失った石田は感情に任せるままに備前の胸ぐらを掴みあげた。


「上から言ってんじゃねーぞ」


 それには流石の備前も怯むどころか失笑をしてしまった。


「ふっふっふ……失礼。そのようなつもりはありませんでしたが、貴方がまるで自ら掘り下がったように見えたものですから」


 その瞬間、備前は頬を殴打され後方によろけていた。


「ブッ殺すぞテメェ!」


 石田は大声を上げるが備前はそれでも動じない。


「これで傷害だな……室内から佳代が見ている。じきに警察が来てお前は終わりだ」


 備前はそう言って初めて石田を強く睨み返したが、むしろ石田のほうはそれでも油を注がれた炎のように猛っていた。


「あ~いるいる。そうやって法律守ってりゃ強いとか思ってる奴ってよぉ。だがな、勘違いすんなよ? 別に法律ってのは今起きている暴力から守ってくれるもんじゃねぇんだぞ? こっちが覚悟さえ決めちまえば終わんのはテメェだ!」


 そう言って石田はさらに備前に殴りかかった。備前は即座に防御姿勢を取るが、実際にここまでの暴力沙汰にまで発展したケースは多くなく、純粋な暴力での戦闘経験においては石田の方に分があった。


 上半身に殴りかかると思わせて備前に警戒させてから下半身への蹴り。これによって備前の身体は地に転がり、石田はすかさずその上に飛び乗ってマウントを取った。


「さぁて。警察が来るまでの間に、お前、もう立てない身体になっちまうかもな」


 そう言って石田は指を鳴らす。


「いいぜ? こちとら金に困ってんだ。ムショなら食うのに困んねぇし、出たらまたお礼に来るのが楽しみになっちまうなぁ」


 そう言って石田は無抵抗となった備前を淡々と殴る。


「オラ、さっきまでの威勢はどうしたよ? 恐いのか? オイ」


 ボコボコ、ボコボコと一方的な暴力が続く。


「あ~あ~。男としてこんなカッコ悪ぃところ佳代に見られちまって……かわいそうに」


 建物内で嗚咽しながら見ていた佳代のほうへも一瞥し、石田はさらに備前を殴る。


「はははっ! 見ろよ! 頼みの佳代もあんなんじゃ警察呼べてねーぞ、死んだなお前」


 ボコボコ。ボコボコ。


「や、めろ……」


「ははっ! なに? 言いたいことそれだけ?」


 歪んでいく備前の顔と愉悦に溺れていく石田の顔。


 事態の収拾はもはや困難だと思われたそのときだった。


「パ・パ・を! ……いじめんなっ!」


 石田の身体が宙を舞ったようにさえ見えるほどの勢いで吹き飛び、少し離れた先の地面に倒れて動かなくなっていた。


 備前が驚いて見上げれば、そこにはスコップをフルスイングで振り終えた姿勢の加奈子が鼻息を荒くして立っていた。




 加奈子が冷や汗を流しながら言った。


「あ、あれぇ~……? こいつ、動かなくなっちゃったぞ……?」


 反対に備前は冷静に石田の脈を確認している。


「大丈夫、気絶しているだけだ……にしても小娘お前すげーな。後頭部をスコップで、しかも平たいほうじゃない角度で全力フルスイングとは……下手すりゃヤバかったな」


 そこへ玄関からおそるおそる出てきた佳代が合流する。


「マ、マー君大丈夫?」


 佳代の石田への心配は皆無な様子である。


「正直、ここまで無茶苦茶な奴だとは思わなかったが……幸い、俺もそこまで重症じゃねぇ」


「ごめん……ごめんねぇ……」


 佳代はそう言って地に膝をついて泣き崩れた。


「それより佳代。まず先に警察は呼んじまったか?」


「ごめんねぇ……恐くて、恐くて呼べなかったの……」


 備前はそれに安堵した。


「よし。好都合だ……呼ばれてたら小娘がヤバかったな」


「えっ!? アタシ!?」


「そりゃあそうだろう。後頭部をいきなりスコップでバコーンだぞ? どんな考え方してやがんだ、お前は」


「ご、ごめん……アタシ、バカだから、パパを助けようと思って……」


「ああもう、みなまで言うな。そんなことだろうと思ってたよ……俺がこいつのイカれ具合を見誤ったのがそもそもの原因だからな……しかし、どーすっかな、コレ」


 三人の視線は倒れたままの石田に集まる。


「パパ、生ゴミって明後日だっけ?」


「あ、確か倉庫にノコギリとかあったと思う」


 そう言う加奈子と佳代にため息を禁じ得ないのは備前だ。


「もういい。お前らはもう何も言うな……コレは俺が処分する」


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