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佳代(2)


 佳代が泊まることになった日の夜、自室に戻ったはずの加奈子が備前の部屋に戻って来た。備前が玄関を開けると加奈子は悪びれた顔を見せる。


「パパー? アタシ、スマホ忘れてったかも~。上がっていい~?」


「構わんが、さっさとしろ」


「うん。さっき食器を洗ったときにキッチンに置いたのかも~」


「そそっかしい奴だな」


「ごめんごめ~ん」


 加奈子は靴を脱ぎ捨てるように部屋に上がった。そこには当然、泊まることになっていた佳代もいる。


「あれ? 佳代さん、まだお話中でした?」


「ううん? もう終わったよ?」


「そうですか~……」


 加奈子は何かを察したような顔でキッチンに向かった。


「あったあった。アタシのスマホ」


「見つかったなら、とっとと帰れ」


 備前は加奈子に淡々と言い放つ。


「はーい! 佳代さんは?」


「こいつはいいんだよ」


「ふぅん」


 加奈子は悪戯な顔をして続ける。


「もしかして、ふたりってそういう関係?」


「んなわけあるか」


 興味も抑揚もなく備前は淡々と答えるだけだ。


「そうかなぁ? 結構長い時間パパの部屋にいるから怪しいなぁって思って」


「小娘は余計な詮索をするんじゃねぇ」


「はぁい」


 加奈子は潔く引いて部屋を出て行こうとした。


「やっぱり待て」


 だが、その後ろ姿を見て思うところができた備前はそれを呼び止めた。


「ギクゥッ!?」


 加奈子は竦み上がっていた。


「な、なぁにパパ?」


「お前、なんか怪しいな。いつもなら帰れって言っても渋るくせに今日は妙に素直だし、いつもスマホを気にしているくせに忘れていく……いや、それ以前に常時ピコピコ通知音が鳴ってるくせに、さっきまで少しも音がしなかったな」


「ギクギクギクゥッ!?」


 加奈子の顔はいよいよ引き攣ってきていた。


「小娘。ちょっとそのままスマホを見せろ」


「……な、何もないよ?」


「いいからよこせ。指一本、操作しないうちにな」


「……人のスマホを見るのは良くないよ?」


「踏み潰されたくなかったら渡したほうがいいぞ?」


「あう~……」


 加奈子はしぶしぶスマホを差し出し、備前はそれを奪い取った。そしてその画面を見た備前の表情は途端に曇る。


「おい小娘」


「は、はいっ!」


 備前のドスの効いた声で加奈子は直立した。


「……なんで録音になってんだ?」


「さ、さぁ……なんかの拍子に偶然アプリが起動しちゃったのかなぁ……?」


「本当だな?」


 備前は更にドスの効いた声で尋ねる。


「だ、だって……パパたちがどんな話をするのか気になったんだもん……」


 加奈子は泣きそうな顔をした。


「殺されたいらしいな」


「うわ~ん! そんなに悪気はなかったんだよぉ~っ!」


「それは少しは悪気があったということだな?」


「うぐ……」


 それきり加奈子は押し黙り、備前はひとつため息をついた。


「ろくな育ち方をしてねぇクソガキだな」


「まぁまぁマー君。許してあげようよ。悪気はあっても悪意じゃないと思うし……」


 呆れた備前の横から少し加奈子に微笑みかけた佳代が助け舟を出した。


「いいのか? お前の悩みごと盗み聞こうとしたんだぞ?」


「そうだけど……マー君に話したら少し胸が軽くなったというか、別に隠しておきたいような問題でもなかったなって思えてきたから」


「そうか?」


「うん。それにもしかしたらあの人が加奈子ちゃんにも迷惑をかけるかも知れないし、事前に話しておいたほうがいいのかもって思えてきた」


「ま、佳代がそう言うなら好きにしろ」


「うん」


 妙にスッキリとした表情で佳代は改めて加奈子に言った。


「あのね。実は私たち、付き合うことになりました」


「仮にだっ! 誤解を招くような言い方をするんじゃねぇっ!」


 備前は怒りすら含む語気で即座に言葉を被せた。


「要するにだ。佳代が元夫にしつこく付きまとわれてるから俺が新しい男のふりをして諦めさせようって訳だ。勘違いすんなよ」


「あ~! マー君、加奈子ちゃんの前で必死だ~!」


 ブチン、と何かが切れる音を感じ取った加奈子と佳代であった。


「佳代。やっぱテメーもダメだ出て行け! これだからクソ女どもと関わるのは嫌なんだ」


「わ~! うそうそ! マー君ごめーん!」


「パパひっど! 人をクソ呼ばわりかよ~」


「うるせぇ! どいつもこいつも俺の日常を邪魔しやがって! 人並みに扱ってほしかったらそれなりの振る舞いを弁えろ!」


「「はぁい……」」


 女たちはそろって少し小さくなった。


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