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9・嵐がきても神様の結界があればへっちゃらです

「あ、嵐!?」


 思わず、大きな声を上げてしまう。


「大変! すぐに嵐の備えをしなきゃ……」

『まあ待て。もう忘れたのか?』


 ルーシーはそう溜め息を吐く。


『家の建材には結界魔法が施されている。家の中にいる限り、クラリスに被害が及ぶことはないだろう』


 あっ、そういえばそうだったね。


 家の中にいるだけ……って、やっぱりルーシーはすごい。ルーシーがいてくれて、本当によかった。


 だけど。


「他の魔物さんたちはどうなのかな……?」


 魔物だけではない。

 この森には精霊だっているんだし、まだ私が見たことのない生き物もいるだろう。


 さすがにこの奈落の森の住民たちを、全員家の中に避難させることは不可能だ。

 でも私だけ安全地帯にいて、他の生き物たちを見捨てることは耐え難かった。


『クラリスの姉御、俺たちなら心配する必要ないですよ』


 とクーちゃんが優しげな声音で答えた。


『なにも、嵐が来るのは初めてのことじゃない。その度に、俺たちはなんとかしてきました』

『そうだよー』

『あねごーは、気にしないでー』


 ミニクーちゃんたちもクーちゃんに続く。


『僕たち精霊も言わずもがなだね』

『嵐が来たくらいでどうかなるくらいなら、とっくに滅んでいますわー』


 精霊たちもそう言ってくれる。


 だけど、どうしてもみんなのことが気に引っかかる。


 私は偉くない。

 この森の王様なんかじゃない。

 それなのに、どうして私だけ安全地帯でぬくぬく過ごせるの?

 クーちゃんたちの言っていることにも一理あるけど、どうしても抵抗があった。


『……納得していないようだな』


 そんな私の感情を読んだのか。

 ルーシーが溜息を吐いて、こう続ける。


『仕方がない。我がこの森全体に結界を張ってやろう。さすれば、森の中だけは嵐による被害が及ばない』

「そんなこと出来るの!?」

『我を誰だと思っている? ……とカッコいいことを言いたいが、我の力も完全ではない。人間界で力を発揮するには、我も万全ではないのだ。ゆえに多量の魔力を消費してしまって、しばらくは寝込むことになるだろう』

「そんな……」

『しかしその問題を解決する方法がある。それが美味しいものをたくさん食べることだ』


 それって……。

 ルーシーはニヤリと笑って、私にこう告げた。


『さっきの焼きりんご、美味かったぞ。嵐が去ったら、焼きりんごをたらふく食わせてくれ。それなら力の反動も最小限に留めることが出来る』

「うん! それくらいお安いご用だよ! ルーシー、ありがとね! 好き!」


 と言って、私はルーシーに抱きつき、もふもふな体に顔を埋める。


 私を守るだけじゃなくて、我儘わがままも聞いてくれるなんて……。

 ルーシーの力にあまり頼りたくないって言ったけど、私一人じゃまだまだ力不足だ。

【聞き上手】の使い方も、これから先もっと開拓していかなきゃね。


『礼などいらぬ。それにこれから来る嵐は大きなものだ。クラリスを守れても、森の生物が全滅……となっては、さすがの我とて寝覚めが悪い』

「そんな大きい嵐も防げるなんて、ルーシーはすごいね」

『我は神だからな。力が完全なら、世界全域に結界を張ることも容易いだろう。まあ……そうなったら、あの家にいる者どもも守ることになってしまうから、どうかと思うが』


 あっ、そっか。

 そんなに大きい嵐だったら、この森だけじゃなくて実家にも被害が及ぶって考える方が自然だよね。

 お父様と妹のエイヴリルは大丈夫だろうか?


 ……いや、私が考える必要はない。


 私は追い出された身なんだし、あっちはあっちでなんとかするだろう。

 ちょっと薄情かもしれないけど、これくらいはいいよね?



 そして夜。

 嵐……が来たようだが、ルーシーの結界のおかげもあって、森の中は平和そのものだった。



 



・・・・・・・・・


《エイヴリル視点》



「よりにもよって、どうしてこんな大変な時に嵐なんて来るのよーーーーー!」


 ウィンチェスター家。

 ルーシーの予言、そしてクラリスの懸念通り、こちらにも嵐が直撃していた。


 しかし──当然なことであるが──神の結界もなく、精霊の加護も手放したウィンチェスター家は、嵐にてんてこ舞いの状況にさせられていた。


「くっ……! 今まで、こんな嵐は経験したことなかったぞ!? 屋敷が吹っ飛びそうだ!」


 父ロバートも焦りの声を発する。


「お父様! 避難しましょう!」

「バカ言うな! 今更、外に出るなんてただの自殺行為だ!」

「で、ですが床下が浸水してきましたわ! それに雨漏りだって!」

「な、なんとか持ち堪えるんだ! 嵐が去るまで耐え忍んで……」


 と父ロバートが言葉を続けようとした時。


 ()()()彼の真上の天井部分が、たまたま老朽化しており、嵐によって崩壊した。


「ぬおおおおおお!」


 激しい雨が父ロバートに襲いかかる。


「お父様!? 大丈夫ですか! 今すぐ助け……ああ! 窓も割れましたわ! こんなの、外にいるのと変わらないですわ!」


 嵐がウィンチェスター家の屋敷を蹂躙する。

 精霊の加護をなくしたことにより、状況がことごとく悪い方向へと流れていく。


(貴族であるわたくしがこんな目に遭わなくちゃいけませんのよ!? 姉がいなくなった途端、立て続けに悪いことが起こりますわ! 神よ! わたくしたちをお守りください!)


 そんな祈りが神に届くはずもないのに。


 エイヴリルは両手を合わせ、嵐が過ぎ去ってくれるのを待つしかなかった。

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