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8・新築パーティーは楽しかった

「ただいまー。みんな、美味しい果物を持ってきた、よ……って、えええええええ!?」


 家の中に入って、私は驚きで目を見開いた。


「キッチンが出来てる!?」


 二階建ての殺風景だった家の一角に、キッチンが完成している。

 簡易的な作りだったけど、最低限の洗い場もあって、さらには包丁やまな板といった調理器具もある。

 これなら料理をするのに困りそうにない。


『クラリスの姉御がいないうちに、俺たちで作ったんですよ』


 とクーちゃんが言うと、他のミニクーちゃんもえっへんと胸を張る。かわいい。精霊さんも「へっへー!」と得意げに声を上げた。かわいい。


「でもどうやって、作ったの? 特にこの洗い場」

『精霊に手伝ってもらいました。水を司る精霊もいたので、ちゃんと水も出ますよ』

「すごい……! じゃあ、この包丁は?」

『これは俺が作りました。鉱石のエーテルナイトがあったので、それを加工したんです』


 エーテルナイト……って、かなり貴重な鉱石じゃん!


 エーテルナイトは永遠の光を放つといわれる鉱石。さらには硬度も高くて、これで作った剣が目が飛び出るような高値で売られると聞いたことがある。


「これが……エーテルナイトの包丁……」


 私は包丁を握って、それをゆっくりと眺める。

 見事な輝きだ。


 それを加工するなんて……クーちゃんの器用さにもビックリしたけど、私のために貴重な鉱石を作ってくれて、心から感謝だ。


「みんな、ありがとう! よーし! 今度は私の番だね。果物もいっぱい集めてきたから、これで美味しいものを作るよ」


 と私は腕まくりをする。


『クラリス、大丈夫か? その包丁はよく切れるぞ』

「もーう! ルーシーは過保護なんだから。実家では雑用ばっかやらされていたから、包丁くらい使えるって!」


 そういや、こんな風に他人に心配されることって、今までなかったかもしれないね……。

 実家のことを思い出して少し嫌な気分になったけど、私はすぐに気持ちを切り替えて料理を始めた。



 そして二時間後。



「おまちどーさま!」


 私はクーちゃんたちが作ってくれた大きなテーブルに、料理を並べた。

 ちなみに、クーちゃんやミニクーちゃん、そしてルーシーと精霊さんもたくさんいるので、現在は外だ。


『ほほお、旨そうだな』

『見ただけで涎が零れてしまいそうです』


 とルーシーとクーちゃんが続けて言った。


 とはいっても、果物以外に材料がなかったので、並べた料理はフルーツサラダや焼きリンゴ。あとはルーシーと精霊さんの力もちょっと借りて、フルーツシャーベットも作った。


 もし小麦粉や砂糖があったら、料理のレパートリーがもっと増えるんだけどね。

 それは今後の課題といったところか。


「みんな、食べてみて」

『では、早速……』


 ルーシーがテーブルに前足をちょこんと乗せて、焼きりんごに口を付けた。


『旨い。焼くことによって、りんごの甘みが際立っているな。さすがはクラリスだ』

「結構、焼き加減とか難しいんだよ? だけどルーシーが魔法で火を起こしてから、作れた料理だからね。ルーシーもありがと」

『それはこちらの台詞だ。我はクラリスが喜んでくれるだけで、嬉しい気持ちになる』


 もぐもぐ。

 ルーシーが一心不乱に焼きりんごを頬張っていく。


 神様だからすごいんだけど、可愛い犬の姿だからいまいち威厳を感じられない。


 だけど、そういう可愛いところが好き!


『このシャーベット? というのも、ひんやりして美味しいですね。お前らもそう思うだろ?』

『うんー。いくらでもいけちゃうー』

『でも、一気に食べたら、頭が痛くなるー』


 クーちゃんが言うと、ミニクーちゃんも賛同した。

 こちらもこちらで、ぬいぐるみみたいで可愛い。


「精霊さんも楽しんでる?」

『うん! 美味しいよ。ありがとう! クラリス!』

『わたくしたちのフルーツが、こんなに美味しく生まれ変わって感激ですわ〜』


 私の家から付いてきた精霊さん。

 そしてフルーツ園で果物を守っている精霊さんも、楽しそうに声を上げる。


 精霊さんってご飯、食べることが出来るんだろうか? とちょっと心配だったけど、どうやら無用だったみたい。

 緑色の光と桃色の光がフルーツサラダの周りにいくと、少しずつなくなっていく光景が見えた。

 どうやらルーシーと同じく、ご飯を食べる必要はないけど、だからといって食べられないというわけではないらしい。彼ら(彼女ら?)は彼らで楽しんでいるようだった。


「こんな風に楽しい時間を過ごせるとは思わなかったなー」


 私もフルーツシャーベットを食べながら、つい呟いてしまう。


 実家では辛いことがたくさんあって。

 しかも最終的には追い出されて、婚約破棄もされた。

 奈落の森に捨てられる……って聞いた時はどうなることかと思ったけど、魔物や精霊もみんな親切で、私に優しくしてくれる。


「なんだか、今の状況が信じられないよ」

『無理もない。それほど、クラリスには辛い経験をたくさんした。しかし、ここでは汝をイジめる者は誰一人いない』


 焼きりんごを齧りながら、ルーシーは続ける。

 

『クラリスの幸せは、我が守る。ずっと、こんな時間が続くように……な』

「うん。私もこの時間がずっと続くように、努力してみるよ」


 と微笑む。


 私って、こんな笑い方も出来るんだ……とふと思った。


 こうして楽しい新築パーティーの時間を過ごしていたが。


『……む』


 ルーシーが空を見上げ、動きを止める。


「どうしたの、ルーシー?」

『……なに、大したことではない』


 そう言って、ルーシーはこう告げた。


『嵐が来る』

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