7・精霊さんの声で果物採集
「かんせーい!」
私は出来上がった家を見上げて、そう両手を上げた。
『時間かかっちゃったねー』
『だが、そのおかげでクラリスにふさわしい家を作ることが出来た』
『これが今日から、クラリスのおうちになるんだね!』
クーちゃんやミニクーちゃん、そして精霊さんたちのテンションも高い。
「ルーシーも手伝ってくれて、ありがとね」
『我はほとんどなにもしていない。家の耐久性と防犯性を上げるために、ちょっと魔法を使っただけだ』
「耐久性? 防犯性?」
『うむ。いちいち説明しなかったが、家の素材に常時発動する結界魔法を張っている。この家の中にいたら、万が一外部から人間が森に侵入してきても、バレることはないだろう。あと、嵐が来ても持ち堪えられる』
淡々と語るルーシー。
さらっと言ってるけど……それってかなりすごいよね!?
さすが神様!
私は最悪どうなってもいいけど、一緒に暮らすルーシーに危ないことがあっちゃダメだしね。
「そうだ」
パンと手を叩く。
「せっかく家が完成したんだから、みんなで新築パーティーしようよ」
『しんちくぱーてぃー?』
『なにそれー?』
「人間は家が新しく建ったら、人を招いてパーティーするんだよ。お腹減ったでしょ? 美味しいご飯も出るよ」
『それはいいですね』
ジャイアントベアのクーちゃんも賛成してくれる。
ちなみに……この家が完成するまで、私は森に茂っていた木の実を主に食べていた。
ルーシーは『もっとちゃんとした食事を用意出来るぞ』と言ってくれたが、贅沢はいけない。
それに実家では木の実さえもろくに食べさせてくれなかったし、空腹には慣れているのだ。
「とはいっても、また木の実ばっかじゃ味気ないよね……なにか良い方法はないのかな」
『それでしたら、森の果物を集めてみれば?』
「果物? そんなの、この森にあるの?」
『はい。我々は基本的に、そういったものを口にしています。生きるためには、時折生き物の命を頂くことがありますが、殺生はなるべく避けたいですからね。果物、美味しいですよ』
うーん、この森に来てから何度も気付かされるけど、基本的に魔物さんって考え方がしっかりしてるよね。
神官よりも神官らしい性格をしてる。
私の知ってる神官、普通に肉食ってるし。
「ふーん、じゃあ摘んでくるよ。それでみんなで新築フルーツパーティーをしよ!」
『我も付いていくぞ。クラリス一人では危険だ』
『神様が付いていれば安心ですね。我々はもう少し作業を続けたいと思います。いってらっしゃいませ』
とクーちゃんが頭を下げる。
クーちゃんの言う『作業』というのが少し気にかかったが、私は果物探しに出発するのだった。
果物を求めて、森の中を歩きながら。
『クラリスよ。何度も言うが、お腹が減ったなら我に言ってくれればいいんだぞ? わざわざこうして、食料を探し集める必要はない』
「ありがと。でも、いいんだ」
私は首を左右に振る。
「人間ってね、便利さに慣れちゃう生き物なんだよ。ちょっとしたことでルーシー……神様の力に頼っちゃったら、きっと私はそれに慣れちゃう。そうなった私はルーシーの力なしでは、なにも出来ない人間になってしまう」
『そういうものか?』
「そういうものだよ。だから有り難いけど、ルーシーの力はなるべく使いたくないんだ。ルーシーだって、いちいち力を求められたら鬱陶しく感じるだろうしね」
『我がクラリスを鬱陶しく思う可能性など、万が一にでもない』
「ルーシーは優しいから、そう言ってくれるんだね。だけどこうやって、森の中を歩いてるのも結構楽しいんだよ? だから大丈夫。あっ、でも、どうしようもなくなったらルーシーの力を借りるかも。その時はよろしくね!」
と言うと、ルーシーは『全く……』と溜め息を吐く。しかしその表情は優しかった。
『普通なら、神の力を利用することを考えるというのに。しかし、そんなクラリスだからこそ、我は人間界に干渉してでも汝に力を貸したいと思ったのだ。困ったことがあったら、すぐに言うんだぞ』
「うん!」
明るく返事をする。
それにしても……さっきから三十分くらい森の中を歩いているけど、果物が見当たらない。
どこにでも生い茂っているわけではなさそうだ。
ルーシーに言ったら、果物のある場所を教えてくれそうだけど……さっきにも言った通り、神様の力はなるべく借りたくない。自分でなんとかしたかった。
「果物さーん! どこにいますかー!」
もちろん、返事がくるものとは思っていない。
だけどなんとなく、そう呼びかけてみると、
『──こっちですわー』
……と声が聞こえた。
「さっきのって……」
『こっち、こっち』
再び、声。
この感覚、私は何度も体験したことがある。
もしかしてこの声って……。
「ルーシー」
『うむ。大丈夫だ。声の主に悪意はない』
とルーシーのお墨付きをもらったので、私は声のする方へ進んでいった。
そして開けた場所に出て、私はその光景を目にする。
「果物が、いっぱい!」
りんご、バナナ、オレンジ、イチゴ、グレープフルーツ、マンゴー、パイナップル、キウイ、メロン、ブルーベリー、ブドウ、モモ、レモン、ライム、さくらんぼ……。
色とりどりの果物が生い茂っている、まるで楽園のような場所に辿り着いたのだ。
差し詰め、フルーツ園といったところか。
「森の中に、こんな場所があっただなんて! やっぱり、さっきの声は……」
『やっぱり聞こえていましたのねー』
ぽつぽつ。
フルーツ園に、桃色の光が灯り出す。
「精霊さんのおかげだったんだね。私をここまで導いてくれて、ありがと」
私がお礼を言うと、桃色の光──精霊さんが嬉しそうに光を強いものとした。
声の種類が、私の実家から付いてきた精霊さんに似ていると思っていたのだ。
だからもしかして……と思っていたけど、アタリだったみたい。
「精霊さんたちは、ここに住んでるの?」
『そうですわ。人間なんて見るの、久しぶりですの』
このフルーツ園の果物に宿っている精霊さん……というわけか。
『よかったら、ここにある果物を食べてみなさい。美味しいですわよ〜』
「いいの?」
『わたくしたちの声が聞こえる人間ですもの。悪い人間であるはずがないですわ』
じゃあ遠慮せず……。
私は艶やかな赤色のりんごを手に取り、小さく口を開けて齧ってみる。
「〜〜〜〜〜〜!」
するとりんごの甘い香りとともに、口に広がる果汁の旨みに、あっという間に心を奪われてしまった。
ビックリするくらい柔らかく、だけどしっとりとした果肉の食感。甘さと酸味がほどよく調和した味わい。
心地よさに身を委ね、一瞬時間が止まってしまったかのように錯覚してしまったほどだ。
「美味しい! こんな美味しいりんご、初めて食べたよ!」
『ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいですわー』
『精霊の加護のおかげだな。ゆえに大して手入れをしなくても害虫が果物を荒らさないし、濃厚すぎる味を実現出来るのだ』
とルーシーが補足説明する。
これ、私だけじゃなくて、みんなにもぜひ食べてもらいたい。
私だけが独占するのは、おかしいもんね!
「あの精霊さん、この果物いくつか頂いてもいいですか?」
『いいですわ。わたくしたちがここにいる限り、次から次へと果物が湧いてきますし。美味しいって言ってくれたあなたに、わたくしからもお裾分けしたいですわ』
『これも精霊の加護のおかげだな。加護のおかげで、ほぼ無限に果物が現れる』
ルーシーの補足説明、パート2。
すごっ……こんな美味しい果物をほぼ無限に食べられるなんて。
もし、悪い人間に見つかっちゃったら、悪用されそうだよね。
そう考えたら、悪いことなんて考えない……というか、考えられない私に見つかったのは良いことだったのかもしれない。
「ありがと、精霊さんたち! あっ、もしよかったら、あなたたちも私の新築パーティーに来てね。この果物をさらに美味しく料理するつもりだから!」
『まさか人間に招かれるとは思っていなかったですわ〜。全員、ここを離れることは出来ないけど、希望者だけ参加させてもらおうかしら』
精霊さんたちも来てくれるみたいだ。
よし……っ。
美味しい果物に泥を塗らないように、ここからは私が頑張らないとね。
でも、ろくに調理器具がないのに、この果物たちを美味しく調理することが出来るのだろうか?
……そう考えていたが、私のそんな心配もすぐに払拭されることになった。
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