2・神様の声が聞こえるようになりました
「ん……」
目を覚ますと、そこは森の中でした。
「そうだ……私、家から追い出されたんだっけ」
まだ頭がくるくるするけど、少しずつ記憶が鮮明になってきた。
私、クラリスは家族から疎まれ、実家から追い出されてしまった。スキル【聞き上手】は植物や小鳥の声を聞くことが出来たんだけど、信じてもらえず、仮にそうだとしても役立たずだと言われてしまった。
そして私は危険な魔物が蔓延る、奈落の森に捨てられて……。
「た、大変っ! すぐにここから逃げないと!」
崖の下にあるから奈落の森。
一度入ったら、二度と生きて出てこれないという。
お父様たちは崖の上から、ぽいっと私をここに捨てたのかな? だったら、どうしてまだ私が生きてるのかも疑問だけど……地面が芝生でもふもふだし、良い感じで衝撃が吸収された? そうだとしても、怪我一つしてないのは違和感だけど……。
なんにせよ。
こんなところに、私みたいな小娘がいたら、すぐに魔物に食べられちゃう。
どこに逃げていいかも分からないけど……こんなところに留まっているわけにもいかない。
『心配するな。クラリスは我が守る』
慌てて走り出そうとすると。
足元から声が聞こえた。
「誰……?」
『下だ』
声のする方に顔を向けると、白くてもふもふした犬の姿が。
ペットのルーシーである。
そうだ……私、ルーシーと一緒に捨てられたんだよね。
……って。
「しゃ、喋ってるーーーーーー!?」
『なにを今更、驚いてる。実家では植物や小鳥の声は聞こえていただろうに。我の言葉が分かっても、おかしくないだろう』
むふーっと鼻で息をするルーシー。
外見は相変わらず可愛い犬。
だけどいつもより威厳があるように感じた。
「だ、だって、今まで喋らなかったじゃん! 犬の声は聞こえないものだと思ってたよ!」
『我はあまり人間界に干渉してはいけなかったからな。しかし今思えば、それが間違いだった。そのせいでクラリスを悲しい目に遭わせてしまった」
とルーシーが申し訳なさそうに言う。
「人間界? それに、どうしてルーシーは干渉しちゃいけなかったの? ルーシーって、ただの犬だよね」
『犬ではない。我は神だ』
……はい?
神?
「冗談……だよね?」
『冗談ではない。本当だ。我は神として、クラリスの……そしてあの愚かな人間どもの行いを、近くでずっと見てきた』
澱みない口調で答えるルーシー。
どうやら、冗談で言ってるわけじゃないみたい。
「で、でも、私にどうしてルーシーの……いや、神様の声が聞こえちゃってるの?」
『汝のスキル【聞き上手】は、万物の声が聞こえるようになるものだからだ』
「へ?」
『あの家にいた人間どもも、愚かなことをしたものだ。【聞き上手】は我──神の言葉にも耳を傾けることが出来るスキルだったというのに。クラリスの価値を見出していれば、あの家はさらに繁栄していただろう。まあ、それはそれで腹が立つが……』
ルーシーはぶつぶつと呟く。
色々と言ってるけど、私はまだ信じきれていない。
だって、ルーシーは「我は神だ」と言ってるけど、目の前にいるのは可愛い犬なんだよ?
神様が地上にいるのも驚きだけど、姿が犬なんだね……。
『我の姿が犬なことに違和感があるのか?』
私の心を読んだかのように、ルーシーが問いかける。
さすが神様。すごい。
『無論、これは人間界にいる際の仮初の姿。我の姿は神々しすぎて、人間の目には毒なのだ。ゆえに愛くるしい犬の姿を借りている』
「は、はあ」
自分で愛くるしいって言っちゃうんだね……。
そのことに不満はないけど。
ほんとに愛くるしいし。
「なんだかよく分からないけど、【聞き上手】ってハズレスキルじゃない?」
『ハズレスキルなどとは、とんでもない。今までこの世界で生まれた中で、最強のスキルだ』
「さいきょう」
『うむ。スキルを人間たちに授けているのも、神である我だからな。そんな我が言うのだから、間違いない』
ちょっと誇らしげなルーシー。
『しかし、それゆえに【聞き上手】が悪用される可能性があった。しかもあの愚かな人間どもの前ではな。あんなところ、追い出された方がクラリスのためになると我は考えていた』
「えーっと、愚かな人間っていうのは実家にいた人たちのことだよね? お父様と妹とか」
『それも無論である』
整理しよう。
ペットだと思っていた犬のルーシーは神様だった。
今まで人間界に干渉してはいけないと思ってたから我慢してたけど、もうそれも限界だ。だから急に喋るようになった。
そして私、クラリスはあんな家から出ていった方がいいと思ってた……と。
「うーん……一気に色々なことが起こりすぎてて、理解が追いつかないけど……取りあえず神様は」
『ルーシーでいいぞ。クラリスに神様と呼ばれたら、むず痒い』
「じゃあルーシーは私のためを思ってくれたんだよね? だけどここは……」
と言葉を続けようとした時だった。
「ぐおおおおおー!」
雄叫びと共に、私の前に巨大な熊が現れたのだ。
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