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14・お別れの前にご飯を食べよう

 その後、邪竜あらためニーズちゃんは再び守護竜として、この地──奈落の森を守ることを約束してくれた。

 そして同時に、私になにか困ったことがあればすぐに呼んでくれ……ってことも。


 神様ルーシーだけでもお釣りがくるのに、魔物や精霊さんの力も借りることが出来た。

 さらには今回の件ではドラゴンだって。

 心強い仲間がまた増えたね。


 ニーズちゃんと別れた頃にはロランも落ち着きを取り戻してくれた。

 結局、あまり力になれないことを彼は謝っていたが、そんなに気にしなくていいのになあ。


 そして私の家まで戻ってきて、ロランと別れの挨拶を交わしていた。



「君のおかげで万事解決した。いくら感謝の言葉を重ねても足りない。本当にありがとう」



 とロランは口にする。


「もう行くの?」

「ああ、俺も俺でやることが多いものでな」

「ゆっくりしていけばいいのに」

「はは、気持ちだけ頂いておくよ。だが、俺が帰らなければ心配する者も多い。名残惜しいが、ここでお別れだ」


 残念。

 短い間だったけど……ロランと話している間は楽しかった。また会えればいいなあ。

 結局、彼の真の正体については分からずじまいだったし。


 寂しかったのでロランの顔をずっと見ていると、勘違いされたのか。


「心配しないでくれ。君のことは誰にも喋らないと誓おう。君にも事情があるんだろう? だから俺のことも……」

「うん、ロランのことも言わない。って言っても、こんな森にお客さんが来ることは滅多にないと思うけどね」


 と肩をすくめる。


 するとロランは穏やかな笑みを浮かべて、


「助かる。では、さらばだ」


 と歩き出そうとした瞬間。



 ぐぅ〜〜〜〜〜〜。



 彼からお腹の音が鳴った。


「…………」

「…………」


 気まずい空間が場に流れる。


 え、えーっと。


「ご飯、食べていきます?」




 ロランは「さすがにこれ以上、世話になるのは……」と渋っていたが、お腹の空かせた人をそのまま行かせるわけにはいかない。

 それに私だってロランとお別れするのは寂しい。だからちょっと延長。ロランを家の中まで招いて、私は摘んできた果物を振る舞う。


「はい。召し上がれ」


 とはいえ、用意出来るのは焼きりんごとりんごジュースくらいだけど……。


 そのことに一切不満を言わず、ロランは「ありがとう」と言ってから、まずはりんごジュースに口に含んだ。


「旨い!」


 感嘆の声を上げるロラン。


「でしょ?」

「こんな美味しいりんごジュースを飲んだのは初めてだ。まさか奈落の森で、こんなジュースを飲めるとは思っていなかった。それに……この焼きりんごも美味だ」


 と言いながら、ロランは奈落の森産のフルーツに舌鼓を打つ。


 彼のキレイな横顔につい見惚れてしまう。

 今まで邪竜なんかのことで頭がいっぱいで気付かなかったけど、ロランってかなりイケメンだよね。

 それに食べ方もキレイ。

 さぞ、女の子からモテるだろう。


「ん……どうした? 俺の顔になにか付いているか?」

「……っ! ご、ごめん!」


 気まずくなってぷいっと視線を外す。それに対して、ロランは不思議そうに首を傾げた。


「た、食べ方がキレイだったから見惚れちゃって。もしかして、ロランの一族ってかなり高貴なお方?」

「そ、それは……」


 今度はロランが焦る番だった。

 明らかに動揺して、彼は口を噤む。


「ごめん。答えにくい質問をしちゃったね。食べ方もそうだけど、庶民の中にロランみたいにカッコいい人はなかなかいないと思ったから」

「すまない……だが、貴族であることには間違いないと言っておこう」


 やっぱり……か。

 位は男爵くらいだろうか? それとも伯爵?

 ちなみに私のウィンチェスター家は伯爵家だった。まあ、私は貴族らしい生活をさせてもらえなかったので、ロランとは違ってそうは見えないと思うけど。


「それに……それは俺の方こそ、だ。君みたいなキレイな子も、王都ですらなかなかいないぞ」

「わ、私がキレイ!?」


 急に褒められたものだから、つい素っ頓狂な声を上げてしまう。


「どうした? 自覚はなかったのか? 君みたいな子だったら、男性から言い寄られることも多いだろうに」

『クラリスはキレイだぞ。もっと自信を持つがいい』


 とルーシーも言ってくれる。


「あ、ありがとう。そんなことを言われたのは初めてだよ。お世辞だとしても嬉しい」

「お世辞ではないんだが……」


 ちょっと納得がいっていない表情のロラン。


 私、顔が赤くなっていないだろうか……。

 ロランみたいにカッコいい男性に「キレイ」だなんて言われると、さすがの私もペースを崩さざるを得ないのだ。


「そ、そんなことを言うってことは、ロランは王都の人なのかな?」


 だから話を強引に変えてみた。


 王都はこの国において、最も人が集まっているところ。

 キレイな人やカッコいい人も、必然と多くなる。

 私が住んでいるところは雲泥の差だ。


 ロランは私の問いに頷いて。


「そうだ」

「だったら、王都って今どんな状況なの? 私もいつか武者修行が終わって、森から出ることになると思う。だから外の状況を知りたくて……」


 森から出ていくかは未定だが、怪しまれないようにそう質問する。


 王都は私の元婚約者、フレデリックが居を構えている場所だった。

 その関係で、私も何度か王都を訪れたことがある。


 フレデリック様は今頃、なにをしているんだろうか……。


 だけど私みたいな地味な女と別れられて、妹のエイヴリルと婚約したのだ。

 さぞ、お喜びだろう。


「状況は大きく変わっていないな。しかし治安が徐々に悪化している」

「ふむふむ」

「特に冒険者の質の低下が目立つ。最近では冒険者ギルドを通さない『闇冒険者パーティー』がでかい顔をしているんだ。その対応のせいで、王族たちはてんてこ舞いになっている……らしい」


 基本的に冒険者はギルドを通して、依頼を受けなければならない。

 ただでさえ、自由な者が多い冒険者。そんな彼らをまとめる冒険者ギルドがいなければ、誰も彼ら・彼女らを制御することが出来ないからだ。

 だが、ギルドを通しては報酬金が減るし悪事に手を染められない。だから闇パーティーというものが出来る……とフレデリック様から聞いていたが、そんなことになってたなんて。


「大変だね」

「まあ大変なのは民や王族たちで、俺はさほど困らないが……いつか闇パーティーに出くわすかもしれないからな。警戒はしておいて損はない。まあクラリスが王都に来ることがあっても、君は優秀な魔獣使いだ。闇パーティーなど返り討ちにすると思うが」

『そうだ。いかなり敵を前にしても、クラリスは我が守るのだから』


 と鼻で息をするルーシー。


 もちろん、ロランには声が聞こえていないので、ドヤ顔をしているルーシーに首をひねっていたが。


 私のことはともかく……フレデリック様、大丈夫かな?

 もうフレデリック様との縁はなくなったのに、彼のことが気になった。

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