12・邪竜さんの封印が解かれたけど、なにか事情があるみたい
『こっちだ』
家を出て、先頭を歩くルーシーに私とロランが付いていく。
「本当にその犬が……」
「ルーシー」
「す、すまない。そのルーシーが邪竜の封印場所を知っているのか? 我が一族ですら『邪竜は奈落の森にて封印されている』という情報しか知らず、細かな場所の記録は残されていないんだぞ?」
「うん。説明し遅れたけど、ルーシーは私なんかよりここでで長年暮らしてたんだ。だから知ってるんだと思う」
「どうしてただの犬が……い、いや、すまない。お互い詮索はしないと決めていたんだ。今はそういうことにしておこう……」
ぶつぶつと呟くロラン。
彼に迷惑をかける類のものじゃないけど……嘘を言っているので、ちょっと罪悪感。
でも仕方がない。私の楽しい奈落の森ライフを守るためなのだ。
そんな会話をしながら歩いていると、ルーシーが崖の前で立ち止まった。
『この下に邪竜が封印されている』
とルーシーが顎で崖の下をしめす。
その場でしゃがみ、私とロランは崖の下を覗く。
「深いね……下が見えないや」
「地面に大穴が空いたような形になっているな。ご先祖様……俺はようやくここまで辿り着きました」
ロランが感慨深そうに言う。
彼は邪竜を守る一族の生まれだと言っていた。
それがどこまで本当か分からないけど、色々と思うところがあるんだろう。
『…………』
しかし一方、ルーシーは腑に落ちない表情をしている。
「どうしたの、ルーシー? なにか気になることでも」
『うむ……それがだな』
ゆったりとした口調で、ルーシーがこう続ける。
『どうやら、昨日の嵐が原因だったらしい』
「原因?」
『我もここに来るまで気付けなかった。やはり、我の力も完全ではないということか……不覚だ』
「ねえねえ、さっきからなにを言ってるの──!?」
と言いかけた時、崖の下から禍々しい魔力が生まれ、一気に私たちのところまで雪崩れ込んできた。
魔力感知なんて得意じゃない私でも、分かるくらいの膨大な魔力だ。
「こ、これは!?」
『来たか』
驚き目を見開くロランの一方。
ルーシーは表情一つ変えず、私たちにこう告げた。
『邪竜の封印が解かれたらしい』
その瞬間だった。
私たちの前を覆うのは黒い煙のような闇。
反射的に両目を腕で覆う。
そして……腕をどけた時には、漆黒のドラゴンが私たちの前に姿を現していたのだ。
「BUOOOOOOOO!」
ドラゴンの咆哮。
大地が震える。
その絶対的な強者の威圧感に、私はその場に立っているだけで精一杯だった。
「クラリス! 俺の後ろに!」
とロランがすかさず、ドラゴンの前に立ち塞がってくれる。
「ど、どうして封印が解かれたの!?」
『言っただろう? 昨日の嵐が原因だと。長年の劣化により、封印に綻びがあった。嵐はその最後の一押しだったというわけだ。これは一本取られたな』
「クーちゃんの時もそうだったけど……なんでこんな非常事態なのに、ルーシーは落ち着いてるの!?」
神様だからと言われれば、そんなものかもしれないけど!?
焦る私。
しかしロランはそんな私を安心させるかのように、こっちを振り向いて優しく笑った。
「安心しろ。俺がなんの準備もなしに、ここまでやってくると思ったか?」
と言って、ロランは胸元からなにかを取り出す。
それは……水晶?
ロランは水晶のようなものを高く掲げ、こう口を動かした。
「我が一族はいつか、邪竜の封印が解かれると予測していた。ゆえに仮に復活したとしても、邪竜を再び封印させる術を準備していたのだ。そのために使うのが──この『竜の宝玉』だ」
ロランが魔力を込めたためだろうか。
宝玉が輝きを放つ。
それは周囲を真っ白に染め上げ、邪竜の闇を上書きしているようにも見えた。
「天より降り立つ聖なる力よ、我が呼び声に応え。邪悪な竜を再びこの地に封印せん。我が名は……」
ロランが目を瞑り集中して、封印の呪文を唱える。
邪竜は宝玉が放つ光によって、苦しそうに雄叫びを上げている。
彼に任せておけば、邪竜は再び封印される。
それにいざとなったら、ここには神様のルーシーもいる。
邪竜によって私たちが殺されることは、万が一にもでもないだろう。
しかし本当にいいのだろうか。
それで本当にハッピーエンド?
ロランから最初に話を聞いた時、私が抱いた違和感の正体。
そしてなにより、雄叫びを上げ続けている邪竜からは戦意は感じ取れなくて、どちらかというと苦しむ病人のような……。
──助けて。
声が聞こえた。
続けて、私だけに聞こえる声で、邪竜はある事実を訴えかけていた。
それを聞いて、私が抱いていた違和感が全て解消される。
「待って!!」
私はロランの前に立ち、両腕を広げる。
「な、なにをしているんだ!? まだ再封印は完了していないんだぞ!? 危険だ!」
「ううん! 危険じゃないよ!」
首を左右に振り、私は邪竜の代わりにこう声を張り上げた。
「この子! 病気なんだ! この子に私たちと戦う意志なんて、初めからなかったんだよ!」




