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1・実家を追放されました

「クラリス。今日をもって、お前をウィンチェスター家から追放する!」


 朝。

 お父様に呼び出されたかと思ったら、私──クラリスはとんでもないことを告げられていた。


「待ってください、お父様! お許しください。この家を追い出されたら、私はどうすれば……」

「お姉様、往生際が悪いですわ! あなたのような無能を今までこの家に置いてあげただけでも、感謝するべきです!」


 お父様の傍に立つ私の妹、エイヴリルがせせら笑う。


 妹は地味な私とは違って、派手な容姿をしている。

 女の私から見ても妹は美しく、そのおかげということもあって父親からの寵愛を一身に受けていた。


「全く……スキルが覚醒する可能性があったので、十八歳まで我慢してやったが……その兆候もない。お前はとんだ無駄飯食らいだったな」

「ですわ。あなたのスキル【聞き上手】は、わたくしの【大聖女】の足元にも及びません。どうして、ここまで差が付いたのでしょうねえ?」


 妹がお父様の意見に同調する。


 悔しいけど……お父様たちの言うことは、ごもっともなことだ。



 この国では、十五歳に神様から『スキル』と呼ばれる特殊技能を授かることになっている。



 私はそこで【聞き上手】というスキルを授かった。

 どうやら前代未聞のスキルだったようで、神官もこれがなんなのかよく分かっていなかった。


 そしてそれから二年後、妹は【大聖女】のスキルを授かった。

【大聖女】は治癒魔法や結界魔法に優れた力を発揮し、歴代のスキル授与者は有名人の名が連なっている。


 この国では、スキルの優劣は先の人生を大きく左右するものだ。

 ゆえに正体不明のハズレスキルを授かった私は実家『ウィンチェスター家』で虐げられ、妹は大切に育てられた。

 妹の言うように、私と彼女とでは大きく差が付いてしまった。


「それにお前は【聞き上手】を授かってから、おかしくなってしまったな? 毎日、植物や小鳥に話しかけているのを目撃しているぞ。植物や小鳥と話せるわけがないだろ」

「なっ……! 何度も説明したではないですか。私は植物や小鳥たちの声が聞こえます。きっと【聞き上手】は、そういうスキルだったんですよ。私はおかしくなってしまったわけではなく……」

「黙れ! そのようなスキル、聞いたことがない! 百歩譲ってそれが本当だとしても、なんの役に立つ?」

「動物園の職員にでもなるつもり? あのような下賎な者がする職業、わたくしたちウィンチェスター家にふさわしくないですわ!」


 お父様と妹が口々に私を罵る。


 植物や小鳥たちと喋るのは楽しかったけど、お父様たちの言うことにも一理あるよね……。

 だけど実家でイジめられ傷ついた私を、植物や小鳥たちは慰めてくれた。彼らをバカにされているように聞こえて、私は不快感を覚えた。


 しかしこの方向で話を進めても、らちがあきそうにないので、私は違うところから攻めることにした。


「そ、そうです。私とフレデリック様との婚約は、どうなさるおつもりですか?」


 こんな私でも婚約者がいる。

 まだスキルを授かる前、十歳の頃に公爵子息であるフレデリック様と婚約したのだ。


 彼はとても優しいお方だった。

 お父様も体面が悪くなると思い、フレデリック様の前では私をイジめることもなかった。


 私を実家から追い出すとなったら、フレデリック様も不審がるだろう。隠し通せるとは思えない。


「それについても心配ない」


 しかしお父様は私の懸念を払拭するように、こう告げる。


「フレデリック子息とお前の婚約は、強制的に破棄する」

「こ、婚約破棄ということですか!? フレデリック様がそれに納得するとでも?」

「代わりに妹のエイヴリルが彼と婚約する。お前みたいな女より、エイヴリルと婚約出来る方が彼も喜ぶだろう」

「ふふふっ。安心してくださいね、お姉様。フレデリック様なら、わたくしがもらってあげますから!」


 二人の言葉に、私はぐっと拳を握りしめる。


 妹に婚約者を取られちゃったんだ、私。


 私はフレデリック様が大好きだけど、確かに彼は妹と婚約した方が彼も幸せかもしれない……。


 悔しさと悲しみが入り混じって、思わず涙を流してしまいそうになった。


「くぅーん」


 私が涙を堪えていると、足元に白い犬が寄りかかってきた。

 ペットのルーシーだ。


 ルーシーは私が落ち込んでいるといつもやってきて、こうして慰めてくれる。

 不思議なことに、ルーシーとは喋られないけど、そんなのは関係ない。

 私の大切な家族だ。


「その汚い犬ころめ! いつの間に部屋に入ってきた。お前は……こうだ!」


 しかしお父様がルーシーを思い切り蹴り上げた。


「ああっ!」


 ぶるぶると震えているルーシーに駆け寄り、私は抗議の視線をお父様に向ける。


「お父様! 私のことなら、いくらぶっても構いません! ですが、ルーシーに暴力を振るうのはやめてください!」

「ふんっ! 私は前々から、その汚い犬っころが気に入らなかったんだ! 捨てても何故かすぐに戻ってくるし、困っていた」

「そうですわ、お父様。ルーシーもお姉様と一緒に、この家から追い出したらいいのでは?」

「それはいいな。無駄飯食らいが二つともいなくなって、好都合だ。クラリスもその犬っころと一緒の方が楽しいだろうしな。私の優しさに感謝するといい! ははは!」


 お父様と妹の笑い声が、やけに私の耳にこびりついた。


 今まで虐げられてきたけど、私は二人のことは家族だと思っていた。

 だけど、ルーシーをイジめて歪んだ笑みを浮かべる二人の姿は、まるで悪魔のようだった。


「お父様、エイヴリル。考え直してください。私、なんでもしますから……お掃除だってもっと頑張りますし、なんなら私の住むところは屋敷の外でも……」



 ──ふらあっ。



 言葉を続けようとすると、不意に眩暈がしてそのまま床に倒れてしまう。


「ようやく睡眠薬が効いたようだな」

「これでお姉様のうるさい声を聞かなくても済むようになりますわね」

「こいつを家から追い出すだけでは、私の気がおさまらん。奈落の森に捨ててこい」


 奈落の森!?

 そこって、危険な魔物がたくさんいて、冒険者でもなかなか寄りつこうとしない場所だよね!?


 そんなところに捨てられるって……お父様と妹は、私に死んで欲しいってわけ!?


「や、やめて。そんなことをしたら死んじゃう……」


 抵抗としようとするが、意識が朦朧として体が動かない。

 目の前が真っ暗になる。


 最後に。



『この二人はなんと愚かな生物なのだ。クラリスがこんなところにいては腐ってしまう。追い出されて正解だったな』



 そんな声がルーシーから聞こえたような気がしたが、考えている間もなく、そのまま意識が遮断された。

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