25.歴史は繰り返さないって言ったよね? #お約束
25.歴史は繰り返さないって言ったよね? #お約束
リヴャンテリの別邸で、ぼくは落とされた手首をテーブルに置いて待っていた。パスライに頼めばくっつけてくれるかもしれない。
「ようこそ」
魔法錠は開けていた。
「〈異邦人〉……お前だけか?」
「そうだよ。レイティ」
ぼくは立ち上がって、出迎え椅子に案内した。
グラスは四客。ぼく以外のグラスは空なので、カルランがワインを注いだ。
「イイ線だった。ここ百年で一番イイ」
「それはどうも。後学のために何が問題でした? 教えていただけるとありがたいのですが? 考えうることはしたつもりだけれど。安全を優先するべきではなかった?」
「そうそれ。審議官を自爆させればよかったんだ。そうすれば私も弟子も平蜘蛛のように吹き飛んだ」
「慎重すぎた?」
「そうそれだ。お前、自分より賢い相手や強い相手と勝負したことがないだろう? 確かに準備は大切だが、いつでも退却できるのであれば必要以上に用意すべきではない」
「〈オッカムの剃刀〉」
「『ある事象において、必然性のない多く仮定をすべきではない』――驚かないのだな?」
たぶんそうくると思っていた。
「ぼくが地球から来たのであれば、他の誰かが来たとして不思議はない。ヒヒイロカネの存在で気づくべきだった」
「違うな。お前が話しているのは英語だろう? それもボストン訛りだ。どうしてだ?」
「知識階級の言葉だから? 違うな。あなたはそう言いたいんじゃあない」
何かしら。言葉……文化……歴史。
「……歴史? 地球の?」
「頭はイイが使い方を誤っている。――支配するためだ。英国の歴史を知らない訳はないだろう?」
かつてのスペイン帝国と同じく「太陽の沈まない国」だった大英帝国。
「だから料理が……」
料理のまずさは一級である。
「お前は見込みがある。もう一度チャンスをやろう」
「どういう――」
〝――事象の地平面まで飛ぶがいい〟
雨が降っていた。
見上げるとぼくは、数百年前からあるだろう大樹の陰で横になっていた。
「マスター!」
青い目をしたコカトリスと戦う美しい女騎士がいた。囲まれている。
「ベイヴィル……」
バジリスクを前にぼくは立ち上がり、青い色眼鏡を正した。
「リヴャンテリのコカトリスよ、我に従え」
古の魔法の呪文で、いっせいにコカトリスがひれ伏した。バジリスクが続く。
「マスター、ここは?」
ベイヴィルが長剣を左腰に戻した。右にグラディウス。
「リヴャンテリ宮殿よ」
かわいらしい声の麗しい少女が空から降りてきた。
風の魔法だろう。
「私はミッドガルド王「勇王」の末娘ディアドラの一人娘ディアドラ」
「末娘って絶姫? 人質王子の?」
「その名を口にするな!」
少女の風の魔法がぼくの首を落とした。