24.負けを認めますか?「それは何ですか?」
24.負けを認めますか?「それは何ですか?」
リヴャンテリ邸の天井の魔法陣を起動させた。
ゆっくりと、静かに朱の色が描かれていく。
完成するまでぼくは静かに待っていた。
図書館にあった魔封じの陣をアレンジしたものだ。よりシンプルに。
万全の態勢で臨んだはずだった。
(いけない!)
ルドマルドが自爆魔法を発動させた。
レイティとの交渉中だというのに、急いで停止させた。
「ふう……本当に発動させるなんて……」
「貴族の考え方だ。――お前の負けだよ。〈異邦人〉
ぼくは理解できなかったが、レイティがぼくの右手首を斬り落としていた。
とっさに右手を押さえ、出血を止める。
動かしていた水の人形を消した。
信じられないことに、本当に斬っていた。こちらの位置を特定できていないのに。
「負けだ」
斬られた断面に血の紋章が浮かび上がった。
「呪われましたか……」
落ちた手首を拾い、ぼくは負けを認めた。
コンジレイティオは容赦しなかった。
ヒヒイロカネのグラディウスで〈異邦人〉の手首を斬ったうえ、魔力を流し込んだ。
「……何が……あった?」
「マヌケな罠。まんまと嵌められたってこと」
〈異邦人〉人形が水に戻り、すぐに消えた。
「どういう……」
レイティがザイザルの首を落とした。泥人形が土に還った。泥まみれの衣服だけが残った。
「こういうことだ」
「ザイザル? いや確かに本人だった。匂いも」
「腕を上げたんだろうね。私でさえ分からなかった。――匂いはどうしても残る。だから利用したんだろう」
昨日まで着ていた自分の服を着せたのだろう。
「逃がしたのか? コンジレイティオ」
「言いがかりはよせ。審議官の管理不足だろうに。それに、相手から交渉するということは、対話できるということだ。起きろ! カルラン!」
隣で眠る弟子を起こした。
「……」
「使えない弟子だな」
「……別邸……別の邸」
「いいや。〝つかえている〟よ。〈異邦人〉がいるのは、リヴャンテリの別邸だ。――行くぞ」
「何をするつもりだ?」
「交渉する」
「どうして?」
「凡庸だと思っていたが本当に――いやまあいい説明してやる。ルドマルド」
「どっどうしてその名を」
ルドマルドが後退った。
「香りには気を使っているが、そのぶん迂闊なぶんが多い。ほらその仕草。困ったときに鼻に手をやる。腰に手をおく。後ずさりする。分かりやすいぞルドマルド。――起きろカルラン! 身を正せ」
「はい……」
レイティに注意され、カルランが目をこすった。トランス状態だったらしい。
急ぐ。