表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/28

22.人形遊びは好きですよね?「もちろんです」

22.人形遊びは好きですよね?「もちろんです」


 資料の考察を〈異邦人エトランジェ魔術師ウィザード〉に任せた私は、半日休んでいた。考えがまとまらなかったせいでもある。


(あの人、どうしても聖女パスライというのね)


 この名にはある種の敬意が含まれている。それを知っているとは思えなかったけれど。


 私がいなくなったために、ディアナ辺境伯がどう動くかはかりかねた。


異邦人エトランジェ魔術師ウィザード〉が言うような「自分がいない世界」を確かめることができた。


 映画とかいうの国の娯楽にあるらしい。#It's a Wonderful Life


 深い海の底にいるように、潜考した。


(ウェストリア大公国は「聖女の死」をしばらく公表しないだろう。私の力を誇示したいはずだから。しかし、帝国の総領事が気づくのは時間の問題だ。義父が責任を取って引退し、あれ(レオ)が子爵陞爵となれば……いや。その前にリヴャンテリの至宝を得るために宮殿を氷結するだろう……〈異邦人エトランジェ魔術師ウィザード〉が対策を見つけてくれればいいが……)


 私の風はあれ(コンジレイティオ)には通じない。相性が悪い。それに……。


(弟子のカルランは火の使い手のはずだ。あれ(コンジレイティオ)の弱点を補うように……)


 いっそ昨日の夜のようにワインを飲みたかったが、酔って何か好転することもない。


 静かに神に祈った。




 目覚めると〈異邦人エトランジェ魔術師ウィザード〉が帰ってきていた。


「パスライ。頼みがあります」


「その名を口にするなと言っているだろう〈異邦人エトランジェ〉。――何か?」


青玉サファイアの眼鏡をお願いしたいのですが……」


「サファイアでサングラス? そんなことをしてもコカトリスの邪視イーヴィルアイを避けることはできない」


「逆です。使役するために使います」


「かつてのセレネ王のようにか?」


「両手にサファイアを持っていたら、魔術が使えないでしょう?」


(そんなつまらないことで先祖は敗退したのか……)


「ただ、もう一つはあれ(レオ)の手にある。盗むのか?」


「いいえ。まだ魔力が込められていない原石を使おうかと」


「好きにせよ」


 私は立ち上がり、壁の魔法錠をはずすと革袋を取り出した。


 紐を緩めてテーブルに中身を出した。




 金貨が並べられた。


「リヴャンテリ金貨……」


 私の声が漏れた。


 幼いころ三十枚のリヴャンテリ金貨で売られたことがある身としては苦々しいしいけれど。


「手にしていいわよ、ベイヴィル」


 許可をえて、一枚手にした。重い。同じ大きさの銀貨の二倍は重い。


「これが全財産ですか?」


「家具を売ってもいい」


 死地に向かうのに、残しても意味はない。


「せめて辺境伯ですか?」


 マスターが笑ったが、目が死んだ魚の目をしていた。私がマスターの手を取った。


「冷たい?」


 肩からマスターの造形が歪み私の横まで来ると、足から成形された。かめから甕に水を移すように。


「ほう……」


 パスライお嬢さまの目を誤魔化せたらしい。


「水の人形か……。火に弱いな」


 泥人形ゴーレムを燃やされても動きが鈍くなるだけで、文字通り消し炭になるまで動く。水なら一瞬で蒸発させられてしまうはずだった。


「逆に使えば証拠を残しにくいとも考えられます」


 水が残っていれば、何らかの魔法または魔術で痕跡を調べることができるけれど、消えてしまえば調べようがない。


罪人つみびとの思考だな」


「知の始まりは悪です」


 マスターが答えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ