表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/28

16.お宝はどこですか? #チーズの夢

16.お宝はどこですか? #チーズの夢


〈異邦人エトランジェ〉の背中をグラディウスで突いたのは、イザルトだった。


(痛いって!)


 仕込みはない。実際にぼくの背中を刺していた。パスライから教わった高等魔法によって治癒したが、光学迷彩ではそのままになっている。


「撤退です! 火の精霊よ。いざ我らの身姿を隠したまわん」


 ベイヴィルが作戦通りに透明の魔法を唱えた。


 コカトリスに乗っていた魔術師はザイザルだった。


「〝みえている〟ぞ。パスライ」


 ブラフだ。


 泥人形ゴーレムのザイザルの目では、正確な場所は把握できない。


 近づいた透明のイザルトの胴を、ベイヴィルが横にいだ。見事だ。


 大量の出血にイザルトが治療魔術を使った。戦線離脱する。


 ぼくは地上のコカトリスを適切な場所に移動したあと固定した。


 コカトリスに乗ったザイザルは思うようにこちらに近づけない。


 ぼくが手にしていたサファイアをベイヴィルが受け取り、高くかかげた。


「ソフィア・パスライ・リヴャンテリを子爵として認めよ。さもなくば、リヴャンテリ宮殿を封印する」


「はったりだ!」


 審議官ヘンタイが声を上げた。


「我ソフィア・パスライ・リヴャンテリは、その血をもって、リヴャンテリ宮殿を封印する」


 呪文を唱えたパスライ〝人形〟の指を、ベイヴィルが少し傷つけた。


 赤い水が青いサファイアにかかる。


「まずい!」


「本当にしやがった!」


 リヴャンテリ邸にいるパスライの魔術で、青いサファイアが赤いルビィ色を変えたように見せた。


 朱色の霧。


「終末の煙霧えんむ


 倒れた兵士が声に出したが、それは違う。霧に色をつけただけだ。


 けれど、伝説でしか聞いたことがない魔の霧だと信じてくれた。




 封印のようなものがなされ、リヴャンテリ宮殿の門が閉じられた。


「マスター!」


「まだ痛いって」


 ベイヴィルがぼくを起こすが痛みはまだ続いていた。


 パスライが手をかざすと一瞬で傷が消えた。


流石さすが聖女パスライさま」


「その名を口にすることを許した覚えはない……〈異邦人エトランジェ〉」


 支えられてぼくが立つと、パスライが笑った。美人はこうでなくっちゃ。


「さて、チーズの夢でも見ますか?」#宝島


「なんですかそれ?」


 ベイヴィルが質問した。


奇妙な事件(ストレンジケース)だよ」#ジキル博士とハイド氏


「よけい分かりませんって」


「とりあえず、中で休憩しよう」


 ぼくは二人の腰に手をやった。




 まずは宝物殿だけれど、リヴャンテリの至宝と言っても金銀財宝は少なかった。というかほとんどなかった。


 欠けた銀貨が数枚。前の戦役でかなり使ったらしい。


「ないと知っていたのかい?」


 落胆した様子もないパスライにぼくが聞いた。


「あれば没落していない」


「それもそうか」


 ベイヴィルはけっこうショックだったらしい。膝に手をついて落ち込んでいた。


 一方、図書館は充実していた。十万冊はあるだろうか、現代の図書館の蔵書量としては少ないが活版印刷の前だ。これだけあると感慨深かった。


 すべての資料に魔法錠がかけられていた。一冊を開くと、炎焔の魔法が書かれていた。ぼくなら使えるだろうけれど、反応兵器なみの威力の使いどころが解らなかった。


 戦争でも使えないだろう。すべてを燃やし尽くしてしまって、なんら利益にならない。


(だからか、すべて書き物ではなく口述になったのは)


 口述なら自分の器量以上は出せない。


「過去の遺物か……」


 とても使えそうになかった。


 喉が渇いたぼくたちはパスライの案内で食料庫に向かった。


 保存魔法がかけられたワイン樽があったが、試してみる気になれなかった。


「ぼくなら毒を入れている」


 パスライも同意見らしい。


「さて、帰りますか」


「そうね」


「え?」


 ベイヴィルが振り向いた。


「ここに閉じ込められたのでは?」


「ここは王宮だったのよ? 退路がないなんてことはない」


 宮殿の外に通じる逃げ道があるに違いない。


 パスライの案内で、王妃の寝室から地下の通路に入った。


 用心して魔法で光をともした。変なガスがあるとも限らない。


 途中、何か所か分かれ道があったが、先導するパスライは間違えなかった。


「来られたことがあるんですか?」


 ベイヴィルがたずねた。


「幼いころに。父に叱られた」


 没落したとはいえ、血筋からすると正統な後継者だ。知っていて当然だろう。


「こちらが邸に通じている」


 とある分岐でパスライが立ち止まった。


「この先に罠がある。父が亡くなった。私でも治癒できない。……違うな。私たちの血ではいやせない。〈異邦人エトランジェ〉、今後もし私が倒れても助けなくていい。――ベイヴィルはくれてやる。好きにしろ」


「パスライお嬢さま……」


「その時、考える」


「意志は伝えた」


 それから黙って歩いた。


 大きな石の蓋をどけると、外の光が剣のように差し込んだ。


 静寂と光学迷彩の効果は続いている。


 外は墓所だった。


 教会の裏だ。


「さてどうするか」


 ぼくの答えは決まっていた。お風呂と食事、それにベッドだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ