CASE.1-3 依頼完了
松原楓が事務所を訪れて数週間が経過した。
松原本人は訪れてから2日後、天寿症により永遠の眠りについた。その事はテレビやニュースでも大きく話題となり、ワイドショーは連日松原の生前の話や出演した作品の話でもちきりとなり、また葬儀が親近者のみで執り行われたことや、お別れの会を49日の後行うことなど、世間の話題にはこと欠かさなかった。
「しかし、いくら有名人だからといって、ここまで大きく取り上げるかな?外国の大統領とかが亡くなった時も2日3日でもうニュースの中心から居なくなるっていうのに」
事務所で瑞戸がコーヒーをすすりながら、自身のパソコンでネットのニュースを漁り呟く。松原のニュースは数週間経過し、もうすぐ49日になろうかというところではあるが、他に有名人の訃報を含め大きなニュースが無かったことから、未だにトップニュース扱いで特集が組まれていたりする。
「著名な人間で初めて出た天寿症での死者、というのもあるんだろうな。松原に続く患者もいないし、視聴率を上げるためによりセンシティブに報道している印象はあるが」
炬坂もコーヒーを飲みながら、パソコンに向かって作業をしている。松原からの依頼で、数日後に控えているお別れの会で曲を流して欲しい、という事だったため、現在はその曲の仕上げに入っているところだ。
「しかし、今までより納期まで長いからといって、依頼人の要望を聞きすぎた感はあるな……。ここまで生み出すのに時間がかかるとは思わなかった」
「確かに、いつもならズババーって仕上げるのに、今回は随分と時間かかってますね。あの要望を聞いたら確かにそうなってしまいますけど」
「まあ、より良いものを作るには必要なことだ。これまでもそうだったが、納期いっぱいまで曲と向き合うのが、俺のポリシーだからな」
「その分お金も弾んでくれましたしね」
「それは言うな」と炬坂は苦笑すると、カチカチッ、とダブルクリック。その後に大きな伸び。
「……っと、これでブラッシュアップも完了、と。『差し入れ』に苦慮はしたが、なんとか完成したな」
「お疲れ様です。こちらもお別れの会の主催との打ち合わせが終わりました。手筈通り行われる予定です」
「助かる」
そう言うと、炬坂は残っていたコーヒーを全て飲み干した。後はお別れの会当日を待つばかり。