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ただ貴方だけの鎮魂歌を  作者: 白本つづり
CASE.1 松原 楓
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CASE.1-1 依頼

「…………暇」


都内某所。都心とも郊外とも言いきれない、悪く言えば中途半端な立地にある雑居ビルの3階。ゲーミングチェアに深々と腰を降ろし、炬坂暝(かがりざか めい)は煙草に火を付け、紫煙をくゆらせる。彼の背後にある換気扇が、その煙を吸い込んでは外に吐き出されていく。


「先生ってば頑なに宣伝したがらないからですよ。もっとこう、SNSを使って広く宣伝していかないと」


炬坂の左手にあるデスクで、画面に集中しながら瑞戸(みずべ)ほたるが軽口を叩く。同時にキーボードを叩き、画面には数字の羅列が所狭しと並べられていた。


「それに、それだけ暇ならそのご立派なパソコンでゲームでもやってればいいじゃないですか。仕事用とは言ってますが、それでゲームもやっていること、隠してるわけでもないんですし」


炬坂の眼前にあるのは、3台横に並べられた大画面のモニター。デスクの下には、、LEDライトこそ取り付けられていないが、プロゲーマー顔負けのスペックを持ったモンスターPCがアルミラックに丁寧に置かれていた。


「面倒なんだよ。この時間海外のチーターくっそ多くて」

「ああ、そういう……」


瑞戸がそれを聞きため息を漏らすと、部屋に静寂が訪れる。聞こえてくるのは換気扇がごうごうと響く音と、瑞戸がキーボードを叩き、マウスを数回クリックする音のみ。


「…先生、帳簿つけ終わりました。共有していますので確認お願いします」

「おう。急かしたようで悪かったな」

「ぶっちゃけ私も暇でしたので」


瑞戸がふふっと笑いながら、引き出しからイヤホンを取り出すと、彼女がそれまで数字を並べていたノートパソコンに接続する。


「また『推しの子』の配信かい?」

「それは3時からですね。それまでは動画ニュースで『天寿症』の情報を調べようかと」

「いつものやつね。りょーかい。…………っと、1つ記載漏れあったから修正しておいたよ」

「え、どこですか?」

「14日の打ち合わせの喫茶店代。ほたるちゃん、自分のお金から出してたでしょ。経費であれ落とせるから。来月分の給料に経費補填の名目で足しておくね」

「あ、ありがとうございます」


再び室内に静寂が訪れる。その静寂を破ったのは、瑞戸がひとしきりニュースサイトを回り終え、備品のコーヒーを淹れ始めた時だった。チャイムの音色が響き渡る。


「炬坂さん、調子はどうだい」


チャイムが鳴ってすぐ、返事を聞かずドアが開かれる。姿を見せたのは、60歳くらいの女性だった。


「大家さん?どうしたんですか?まさか家賃の滞納……!?」


普段大家が部屋を訪ねてくることはないようで、瑞戸は驚きを隠せていなかった。瑞戸の脳裏に、家賃滞納から強制撤去という最悪のシナリオがよぎる。


「あら、この子が新しく入った子ね。安心してちょうだい。彼は滞納はしないわよ」


大家の声で瑞戸は我に返った。と同時に思わず口にした言葉を思い出し、顔を赤らめる。


「こいつ、勤務初日に俺が言ったこと忘れてやがったな?家賃は半年分先払いしてるから時期になったら言うって教えたろ」

「ごべんなさい……」


2人のやり取りをみて、大家はクスリと笑う。その手にはいくらか野菜が入ったビニール袋。


「そうそう。これ、サトコさんからたくさんもらったから、おすそ分け」

「いつもありがとうございます」

「いいのいいの。いつもお歳暮とか豪華なもの貰ってるし、お互いさまよ」


炬坂と大家が雑談を交わしていると、大家の背後にちらりと影が映った。瑞戸からは完全な死角となっており気付かなかったが、炬坂からはその影が鮮明に見える。


「おっと、大家さん。用事はこれだけじゃないですよね」

「あら、うっかりしていたわ。私の本題はそのおすそ分けだけど、貴方たちの本題はこれからよ」


大家はそう言い、顔を後ろに向ける。目配せで合図をしているようだ。


「依頼者よ。お仕事、頑張ってね」


そう言って、大家は部屋を去っていった。

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