余花追人
桜がまだ咲いていると聞きました
あなたはそこにいるのでしょうか
遅咲きの花を追って
雨降る山の中で
桜の好きな人でした
線の細い人でした
夏は水に溶けそうで
秋は山に消えそうで
いつも黙って微笑んで
愚痴ひとつ言わないあなたが
毎年ねだったひと枝は
咲きかけの桜の枝でした
冬は雪に染まりそうで
春は霞に紛れそうで
どこへも行かないようにと抱きしめた
あの高い山ではまだ桜が咲いていると聞きました
いつも雨を眺めるだけだったあなたは
桜と一緒に濡れているのでしょうか
雨をまとって
山の冷気の中で
桜を追いかけて
わたしもいつか
あなたを追いかけて
あの余花の咲くという山へ
傘をささずに
雨をまとって