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ドカッドカッ
二人の野盗にかなりのダメージを与える。だが倒れない。やはりかなり強いようだ。
「(やるじゃねえか。クルト)」
「(そちら……こそ……凄い……トップヘビーな……戦斧を……そこまで……使いこなすとは)」
「(へへへ。褒めてくれてありがとうよ。ドワーフの中でも戦斧を水平に使えるのはハタルだけなんだぜ。他の奴は全員真正面から振り下ろすことしか出来ねえ。ハルパもな)」
◇◇◇
クルトとハタルが結構強いということを理解した五人の野盗は、距離を取り、遠巻きにし始めた。
一方、後方のハルパ・ミルマ・デリア・カルフは別の五人の野盗と互角の打ち合いをしているようだ。
ハタルは一人ごちる。
「(そういうことかい)」
クルトにも今のハタルの言葉の意味が分かった。
「(クルトよお。敵は戦闘力の高いハタルたち二人をこっち側に釘付けにしようってんじゃないのか? ハルパたちは今は互角に戦っているが、あっちは女と子どもだ。どうしたって体力で劣位に立つ。敵はそれでハルパたちを倒してから、ハタルたちを総掛かりで倒そうってつもりじゃねえのか?)」
クルトの考えもハタルと同じだ。持久戦に持ち込まれると厳しい。しかし、敵は何としてでもそちらに持ち込もうとするとするだろう。
「(クルト。ハタルはこれでもハルパにミルマ、カルフ。そして、今はあの魔法使いの姉ちゃんも何としても守らにゃならねえと思っている。それはおまえもそうだろ?)」
もちろんクルトは頷く。
「(ならここはハタルたちゃ出血、大ケガ覚悟で無茶するしかねえよな?)」
「(そうだね)」
クルトとハタルは頷き合うと、それぞれ槍と戦斧を握りしめた。
「(行くぜっ!)」
「(おおっ!)」
クルトとハタルは全速力で前方の五人の野盗に向かって突撃をかけた。
前方の五人の野盗は一瞬慌てるが、すぐにクルトたちから距離を取ろうとする。
しかしそうはさせない。敵が距離を取る前に槍と戦斧で一撃を加える。
そうなると敵も応戦してくる。敵の武器は全て剣だ。クルトたちの武器は槍と戦斧だ。どうしても横に薙ぎ払った後に隙が出来る。敵はそこを狙って斬撃を加えてくる。
だが、クルトもハタルもそれを回避もしくは受け止めることをしない。一刻も早く敵に次の一撃を加える。ハタルの言うところの出血、大ケガ覚悟の上だ。
それにしても敵もしぶとい。もう何撃加えたろう。五、六回はいっているはずだ。だけど、まだ倒れない。こっちも相当出血しているから、数なんか数えられなくなっている。
ハタルは大丈夫なんだろうか? クルトが相手している敵の数が二人で変わらない以上、ハタルも戦えているはずだ。
ダメだ。出血のせいで朦朧としてきた。デリアたちの体力も問題もあるし、そんなに時間をかけていられない。
クルトは意を決すると思い切り槍を後ろに引くと、一人の敵の心臓に向かい、全力で突き出した。
「ぐおっ!」
さすがに刺された敵は噴水のように血を噴き出して倒れる。その代償にクルトの背中はもう一人の敵の斬撃で深手を負った。
気が遠くなる。だが、ここで気を失ってはダメだ。目もよく見えなくなってきているけど、恐らくこの辺がもう一人の敵の心臓があろうかというところに槍を突き出す。
「ぐわっ!」
やった。ビンゴだったようだ。しかし、まだだ。ここで気を失ってしまっては元も子もない。最後の気力を振り絞って、魔法をかける。「治癒」「治癒」「治癒」
ふふふ。意識がはっきりしてきた。目もよく見えるようになった。僧侶戦士の面目躍如だ。そして次だ。今度はハタルに魔法をかける。「治癒」「治癒」「治癒」
「(ぬおっ!)」
ハタルから驚きの声があがる。
「(たまげたぜ。クルトも治癒魔法を使えるたあな。これで決めてやるっ!)」
元気を取り戻したハタルは渾身の一撃を三人の野盗に加えた。驚いたことにこれでも敵は倒れなかったが、さすがにフラフラしている。クルトは一人の心臓を背中から刺し、ハタルは一人の頭蓋を叩き割った。最後の一人は自分から倒れたが、念のため心臓を槍で刺した。
「(ようし、クルト。ハルパたちを助けに行くぜっ!)」
「(おおっ!)」