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クルトとミルマは、デリア、ハルパ、カルフのいるところに駆け寄る。ハタルもそう離れていないところにいる。敵の正体がよく分からない以上、こちらも戦力を集中させた方がいいだろう。
「クルト君……」
さすがにデリアも真剣な表情だ。
「うん。普通の野盗ならクルトたちが先に他の野盗を全滅させたのを見れば逃走するはずだよね。それを逃げないということは自信があるということだ。ひょっとすると魔法抵抗を持っているのかもしれない」
「うーん」
デリアの顔に更に緊張が走る。デリアは鉄の杖を使った攻撃力も相当なものだけど、やはり主武器は魔法だ。もし魔法抵抗を持っているのなら、厳しい戦いになりそうだ。
敵はじわじわと包囲網を狭めてきている。やはり戦う気のようだ。
「デリア。攻撃魔法をかけてみて」
デリアはクルトの言葉に頷く。
「雷光」
デリアの魔法は前方の敵四人を直撃し、四人は態勢を崩す。
やったか。デリアの魔法が通用するのならこの戦い、かなり有利になるけど。
だが四人は一度はふらついたが、すぐに態勢を立て直した。やはり魔法抵抗を持っている。打撃系で倒していくしかないね。
ならば、デリアとハルパにカルフを守ってもらう。この二人は防御専念でいい。後はクルトが敵を防ぎながら、ミルマが一人ずつ仕留めていく方法しかない。
敵は相当強そうだから、クルトが防ぐにしても相当なダメージを覚悟しなければならないけど、やらないわけにはいかない。ミルマにしても仕留めるにはかなり手強い敵だろう。でもやってもらわなければならない。
「(行こう……ミルマ)」
「(うん)」
クルトとミルマが槍を握り直し、敵に向かい突進をかけようとしたまさにその時、その声はかかった。
「(クルト。おまえ、あの人間どもを殺す気か?)」
◇◇◇
驚いた。声の主はハタルだ。クルトのことを人間ではなく名前で呼んだことも驚きだが、「殺す気か?」と聞いてきたことにも驚いた。敵の方に攻撃の意図が感じられる場合、殺さなければ殺される。そんなことを知らないハタルではないはずだ。
「(殺す……つもりだ)」
「(何故だ?)」
ハタルの表情はいつもに増して真剣だ。
「(何故、同じ人間なのに殺せる?)」
その問いにはクルトは思っていることを言うだけだ。デリアも同じ考えだけど。
「(人間も……ドワーフも……関係ない……仲間は……守る……自分や仲間に……危害を加えようとする者は……殺す……それが人間でも……関係なく殺す)」
「(ふっ)」
ハタルは小さく笑った。
「(クルト、おまえはさっきも自分と同じ人間を躊躇なく殺していた。俺たちドワーフを『珍獣』呼ばわりした奴らをな。ようやくミルマが言ったことが分かったよ。信用出来る人間と信用出来ない人間がいる。そして、クルトたちは信用出来る人間だとな)」
やっと分かってくれたか。でも今はパーティー全体が生命の危機だよ。
「(ミルマッ!)」
ハタルはクルトのそんな思いとは全く関係なしに、指示を出す。
「(ミルマ。おまえはハルパと一緒にカルフとその魔法使いの姉ちゃんを守れっ! 魔法使いの姉ちゃんは随時治癒の魔法をかけて援護してくれ)」
デリアはデリアじゃなくて魔法使いの姉ちゃんなのね。まあ、人間と呼ばれるよりは数段いいか。
「(そして、クルト。あの人間どもを一緒にぶちのめしに行くぜ。見ていろよ。ハルパの数段上を行く本物のドワーフ剣法を見せてやるよ)」
その言葉と共にハタルは駆け出す。もちろんクルトもついていく。このことで開戦となった。
ここではっきりしたが敵の数は十人。うち五人はクルトとハタルの方に来て、もう五人はデリア・ハルパ・ミルマ・カルフの方に向かった。
「(クルトは二人を相手しろ。ハタルは三人を相手してやる)」
え? そんなこと言って大丈夫なの? 今回の相手は結構強そうだけど。でも、まあそう言うなら任せてみるか。いざとなればデリアの治癒魔法もあるし。
すると何とハタルは手持ちの戦斧を水平に構えた。これには驚いた。水平の構え自体は珍しいものではない。クルトも手持ちの槍を水平に構え、柄の部分が鉄芯であることを生かして、敵の攻撃を防ぐ。
それに何と言ってもロスハイムギルド時代の先輩ハンスさんの「水平疾風斬り」だろう。だけど、クルトとハンスさんのやっている事とハタルのそれとは大きな違いがある。
クルトの武器は槍、ハンスさんの武器は剣、それに対し、ハタルの武器は長い柄の先端についた戦斧だ。クルトたちの武器に比べ、極端なトップヘビーなのである。つまり相当の腕力がないと水平にはできない。
ハタルは特に気負うこともなく戦斧を水平に構えると、それを真横に薙ぎ払った。
ブンっと鋭い音が出る。その様子はハンスさんの「水平疾風斬り」に匹敵する。
戦斧の刃は三人の野盗をかすめ、三人から血が噴き出した。
「ぐおっ」
「くわっ」
「な、何だ? これは?」
こっちを嘗めてかかってきたような野盗たちだったら即死だろう。何とか踏みとどまったのは相手も相当強いからだ。
見とれている場合じゃあない。ハタルがここまでやってくれるならクルトも負けてはいられない。手持ちの槍の鉄芯の柄を思い切り二人の野盗にぶつける。