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(ハタル兄さん、それは違う)」

 ミルマは更にハタルをにらむ。

「(もう既に一部の人間(ヒューマン)にはここに鉱石があることは知られてしまっている。クルトたちを殺したところで、そのうちに他の人間(ヒューマン)がここを狙ってくる。それこそ、そいつらがいい奴である保証なんかない。だから、今やるべきことは……)」


「(何だっ? 何だと言うんだっ?)」


「(信用できる人間(ヒューマン)と手を組んで、悪い人間(ヒューマン)を撃退できる力をつけることだ。それには魔法(マジック)も使えるようになる必要もある。そして、魔法(マジック)を買うには金もいる。鉱石取引は必要なんだよ)」


「……」

 反論できないのか口ごもるハタル。


「(ハタル……)」

 ここでクルト君が口を開く。


「(何だっ? 人間(ヒューマン)っ!)」


「(確かに……鉱石取引をやることで……悪い人間(ヒューマン)が……やってくる恐れはある……でも、そいつらは……クルト()とデリアが……退治する)」


「(信用できるかっ! 同じ人間(ヒューマン)同士だろうがっ! 裏でどんな話になっているか分かったもんじゃないっ!)」


「(それは違うよ。ハタル兄さん)」

 ミルマはハタルをにらんだままだ。

「(ノルデイッヒの町を出てすぐにミルマ()たちは人間(ヒューマン)の野盗に襲われた。クルトとデリアはそいつらを退治したんだ)」


「……」


「(クルト)」

 ミルマはクルト君の方を向き直す。

「(クルトはミルマ()に武術を教えてくれた。今度はミルマ()以外のドワーフにも武術を教えてよ。悪い人間(ヒューマン)が来ても、撃退できるように)」


「(もちろんだよ……悪い人間(ヒューマン)は……クルト()たち人間(ヒューマン)にとっても……敵なんだ……一緒に退治しよう)」


 バン


 不意に大きな音がして、周囲はビクッとする。ハタルが持っているスコップで地面を叩いたらしい。

「(全くどうしてハタル()の言うことが聞けないんだっ! ハタル()はそんなの認めないからなっ!)」


「(ええいっ、いつまでもグチャグチャと煮えきれない男だねえ)」

 

 ◇◇◇


 その声の主は長身の女性ドワーフだった、年格好はハタルと同じくらい。筋肉質で目鼻立ちが整っている。「美人」なのだろう。


「(エフモ……あの方は?)」

 デリア()はこそっとエフモに問う。


「(ハルパ姉さん。ハタル兄さんの幼馴染みで婚約者だよ)」


 はあ。ハタルも相当な負けず嫌いだからこれくらいでないと婚約者は務まらないんだろうな。


「(ミルマ。昨日、あんたから預かった鉱石、じいちゃんたちに見せたわ。もう何年も鍛冶やってなかったけど、やってみせるって。久々で血が騒ぐって言っていたよ)」


「(良かった。ありがとう。ハルパ姉さん)」


「(てんめえ、ハルパッ!)」

 激昂したかハタルの顔は真っ赤だ。

「(何勝手なことやってくれているんだ。ミルマもミルマだが、ハルパもハルパだ。ハタル()はそんなこと認めないからなっ!)」


「(ハタル(あんた)が認めなくたって、ことは進むんだよ)」

 ハルパはハタルを一喝してから、ミルマの方を向く。

「(ところでミルマ、精製された鉱石がある程度の量になったら、人間(ヒューマン)たちとカルフと一緒に峠越えて人間(ヒューマン)の町に売りに行くって?)」


「(そのつもりだけど……)」


「(よしっ、決まりだっ! その道中にハタルとハルパ()もついて行くっ!)」


「(はあ?)」

 さすがにあっけに取られるハタル。いやデリア()もびっくりだけど。

「(何勝手に決めてんだっ! ハルパッ! ハタル()はそんなの行かないぞっ!)」


「(だからなっ!)」

 本当にハルパはハタルに全く負けていない。

「(ゴチャゴチャ言ってないで、人間(ヒューマン)たちと一緒に冒険してみればいいんだよ。そうすればいい奴か悪い奴か分かるだろうが。それでハタル(あんた)が言うように悪い奴なら、その時点で殺せばいい。それならミルマもカルフも納得するだろうがっ!)」


 えっ、えーと、凄いこと言っていません? ハルパ姉さん。


「(それからな。ハタル。人間(ヒューマン)を殺すって言うんなら、正々堂々と勝負して真っ正面から殺せ。寝込みを襲うとか、坑道の入り口爆破して生き埋めを狙うとか、セコい殺し方をするな。大丈夫だ。ハタル(あんた)の実力は幼馴染みで婚約者のこのハルパ()が一番良く知っている。殺せる。相手が本当に駄目な悪い人間(ヒューマン)だったらだが)」


 バンバンとハタルの背中を後ろから叩くハルパ。ハタルは絶句。


「(よーし決まりだ。心配すんな。ハタル(あんた)の人見知りは婚約者のこのハルパ()がフォローしてやるから。ミルマッ! 坑道の入り口の土砂を除けたら、鉱石採って、じいちゃんたちのところへ持っていけっ! ある程度の量が揃ったらすぐ出発だっ!)」


「(うっ、うん)」

 ミルマは実の兄ハタルに次々反論していた時とは打って変わり、ハルパの指示に従って、土砂の除去を始める。


「(ハルパッ!)」

 テベトゥさんがハルパに乗せられたように元気な声を出す。

「(テベトゥさん()ら治療のメンバーはいったん明日からの治療に備えて引き上げるよ。後の連中は採掘ってことだね)」


「(そういうことっ!)」

 ハルパも明るく答える。

「(さあ、みんな、どんどん掘ってっ! ハルパ()とハタルが早く人間(ヒューマン)の町に行けるようにねっ!)」


 何だかおかしなことになっちゃったなあ。テベトゥさんやカルフたちと一緒に洞穴に引き上げるデリア()の思いは複雑だった。


 思ったよりかなり早く、しかも高品質の鉱石をノルデイッヒのギルドに持ち込めそうなのはありがたい話だ。気心の知れたミルマとカルフがデリア()たちについてくるのも悪い話ではない。


 しかし、二度までもデリア()たちを殺そうとしたミルマの実兄ハタルとその婚約者で強烈な個性の持ち主ハルパも一緒に来るって。


 ただでさえ、死んだことになっていて、人目をはばかりながら戻るノルデイッヒの町。こんな個性派を二人も連れて行くって。大丈夫なのかなあ。


 デリア()はいろいろ考えたけど、先のことはさっぱり分からなかった。

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― 新着の感想 ―
仲良くなれるといいですね (*´艸`*)
ハルパ姐さん、男前でカッケー!
ハルパ姉さんカッケェ( ˘ω˘ )
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