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「(それでも……カルフが……やりたいと……言うのなら……力になる……だけどそのためには……カルフが自分で……お金を稼がなければ……いけない……人質にされて……辛い思い出のある……ノルデイッヒに……魔法を……買いに行かなければ……ならない)」
「……」
「(カルフ……あなたには出来る?……出来ると言うなら……力になる……でも無理しないで……この道は……厳しい道)」
カルフは、デリアのその言葉に一度だけ下を向いたけど、すぐに顔を上げた。
「(やる。だってカルフはテベトゥのような薬師になりたいし、デリアのような魔法使いになりたいから。そのためにはノルデイッヒにも行く。でも、お金はどうやって稼いだらいい?)」
「(それを……クルトたちは……ここの鉱石を……ノルデイッヒで……売ることで……成し遂げようと……しているんだ)」
クルト君登場。カルフは頷いた。
「(ここの鉱石を……ノルデイッヒで売って……儲ける……そのお金で……ドワーフのみんなは……好きなものを買えばいい……魔法もね……そしてクルトも……そのお金で……新しい魔法も武器も買いたい……信頼できる仲間も集めたい……山脈越えの道も……安全に綺麗にしたい)」
「(それはミルマもそうだ。お金を稼いで、新しい武器や治癒魔法も買いたい。そして、クルトのような冒険者になりたいんだ)」
ミルマも参戦。それを聞いたテベトゥさんはジロリ。
「(やっぱりか。ミルマ、あんたもこの人間たちと一緒に鉱石の販売をしたいだね。それを兄貴のハタルが猛反対していると。まあ、ハタルの気持ちも分かるけどね。何しろ私たちドワーフは人間に十人も人質を取られて、そのうち四人しか帰って来なかったんだから)」
「(そっ、そうだけど)」
ミルマの顔は真っ赤だ。この事実は否定しようがないし、一目置いているであろうテベトゥさんにそれを言われたのでは。
「(そっ、それでもっ! ミルマはクルトのような冒険者になりたいんだっ!)」
ミルマの言葉にテベトゥさんの眼光は更に鋭くなる。きつい局面だ。デリアも何と言ったらいいか分からない。でも、この場からは逃げない。誠意と言葉を尽くすことしかできない。デリアたちは。それだけのことを死んだ兄エトムントはしでかしてくれたのだから。
「(……ぷっ)」
あれ? 今、テベトゥさん、笑った?
「(ぷっ、ぷっ、ぷはははは)」
何をこらえきれなくなったか大爆笑のテベトゥさん。へ?
「(何をびびってんだい。ミルマ。大体、テベトゥさんをここに連れてきたのは、この人間たちが信用出来るというところを見せて、兄貴のハタルを説得するためだろう?)」
「(あ、やっぱりバレてた? テベトゥのばあちゃん)」
「(分からないわけがなかろう。ミルマの何倍生きていると思っているんだ。でも、デリアにクルト。この二人の人間は他の人間とは確かに違うね。信用出来る)」
「(はああああ)」
一気に緊張感から解放され、脱力するミルマ。でもそれはデリアも同じだよ。
「(私らドワーフは一度人間にだまされ、十人取られた人質のうち、六人が帰って来なかった事実は忘れてはならない。信用出来ない人間はいるという事実はね。但し、そのことで信用出来る人間との交流を絶ち、治せる病気を治さなかったり、手に入る便利なものを手に入れなかったら、それはそれで愚か者のやることだ)」
「(テベトゥのばあちゃん、じゃあ?)」
「(ああ、あんたの思惑に乗らせてもらうよ。ミルマ。テベトゥさんは薬師だ。テベトゥさんのところに病気やケガで相談にきているドワーフはたくさんいる。みんなにここを紹介するよ。大丈夫。テベトゥさんの施薬治療だけより、治癒の魔法を併せた方が絶対に良くなるからね)」
「「(やったあ)」」
飛び上がって喜ぶミルマとカルフ。
「(ふふふ。でも喜んでばかりもいられないよ。テベトゥさんはやるとなったら徹底的にやる主義だからね)」
◇◇◇
そんなテベトゥさんの言葉通り、次の日からデリアたちの住む洞穴の前には加療希望の大行列が出来た。
来たドワーフには、エフモとトジュリが受付し、症状を聴取する。その後にデリア《私》が治癒の魔法をかける。まあ、これは症状が何でも同じなんだけどね。
最後はカルフがテベトゥさんの指導の下、製造した薬を施用する。傍で見ていてもテベトゥさんの技術は凄い。何とかデリア《私》も覚えたいな。あれ。
クルト君はミルマと一緒にテベトゥさんが教えてくれた場所に薬草の採取に行っている。
「薬草の採取のクエストはやったことなかったかも。凄く新鮮な気分だよ」
クルト君も楽しそうだ。
さすがに初めはよそよそしかったが、何日か経つとドワーフのみんなは口々に「(ありがとう)」「(随分楽になったよ)」とお礼を言ってくれるようになってきた。
こうなるとまた例の考えが鎌首をもたげてくる。つまり「鉱石の販売やって、武装商人なんかにならないで、ここでこのまま平和に暮らした方がいいんじゃないかな」と。
そして、これもまたいつものことだが、慌てて首をふる。いけないいけない。今これをやっているのは、ミルマは冒険者に、カルフは治癒の魔法も使える薬師になるためだし、デリアもクルト君もノルデイッヒギルドのトマスさん夫妻に借りを返さなければいけない。