表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/97

83

「(だけど……このままって……わけには……いかないよね……何か対策を……立てないと)」

 そんなデリア()の言葉に腕組みをして考えるクルト君。

「(こういうのは……どうだろう?)」

 

 デリア()とドワーフたちは一斉にクルト君の方を向く。


「(亡くなった……エトムントは……相当に鉱石を……買いたたいたと……思う……クルト()らは……実際に……正当な価格で……その場で……現金払をすれば)」


 このクルト君の提案にミルマは首を振る。

「(ハタル兄さんが一番それが強いけど、他のドワーフにも人間(ヒューマン)との鉱石の取引には強い警戒感がある。初めはその話をしないで、友好的に接して、警戒感を解いていった方がいい)」


「(うーん……そうかあ)」

 腕組みをして考えるクルト君。だけど、クルト君もデリア()もそう言われてもなかなか思いつかない。


「(そうだっ!)」

 ミルマがポンと手を打つ。何かを思いついた時にこういうことをするのは、人間(ヒューマン)もドワーフも変わらないんだね。


「(カルフ)」

 ミルマはおもむろにカルフの方を振り向く。

「(薬師のおばあさんは健在だったか?)」


 カルフは少し当惑しながらも答える。

「(うん。元気だったよ。相変わらず腰は痛いみたいだけど)」


「(それは好都合かもな。やってみる価値はあると思う)」


 何やらほくそ笑むミルマ。その意味が分かるのは今現在はミルマ本人だけだ。


 ◇◇◇


「(んー。痛みがスーッとひいた。今日もありがとうね)」


「(いえ……一時的な効果しか……ないのですが)」


「(いいのよ。神経を痛める時間が減るだけでも随分体の負担が軽くなる)」


 デリア()の目の前で腹ばいで横たわっているのは、カルフのおばあさんテベトゥさん。ドワーフの薬師だそうだ。


 気さくで話好きな方。こういう方と話していると、やっぱり人間(ヒューマン)もドワーフの間には種族以外の差はないんじゃないかと思う。


「(テベトゥ()たちドワーフには魔法(マジック)を使う文化がないからね。一時的と言え、こうまできれいに痛みが消えるのは驚きだよ)」


 デリア()がテベトゥさんにかけたのは治癒(キュア)魔法(マジック)。もともと治癒(キュア)は、敵から打撃や魔法(マジック)攻撃を受けた際、もしくは疲労回復に対応するための魔法(マジック)


 それが慢性腰痛。しかも、ドワーフのおばあさんに効くかどうかは、正直、 デリア()にも全く自信がなかった。それでも実行に移したのは、ミルマの「(大丈夫。テベトゥのばあちゃんは新しいものが大好きだから、効かなくても魔法(マジック)かけてもらえるだけで大喜びだよ)」という言葉が背中を押したからだ。


 実際、テベトゥさんは治癒(キュア)魔法(マジック)をかけただけで大喜びだったし、一時的とはいえ、痛みがひいたことが分かった時には更に大喜びだった。


「(さあて)」

 テベトゥさんは腹ばいになったまま、自らの孫娘カルフに声をかける。

「(痛みがひいたところで、カルフ。テベトゥ()に湿布しておくれよ)」


 カルフは頷くと、布に緑の液体を塗りつける。この液体はカルフがテベトゥさんに教わりながら、すり鉢に入れた薬草をすりこぎで潰したものだ。


「(ああー、これはこれでいいねえ)」

 カルフに腰に湿布を貼ってもらい気持ちよさそうなテベトゥさん。


 治癒(キュア)魔法(マジック)はクルト君が冒険者になって初めて覚えたくらい重要なものだし、効果もある。だけど、一つ大きな欠点がある。もともと生きの良かった細胞が敵の攻撃や疲労でダメージを受けた時の回復用なのだ。つまり、テベトゥさんの腰痛のように慢性的にダメージを受けている細胞には一時的にしか効かない。


 それとは対照的なのが、今現在テベトゥさんが孫娘のカルフに伝授した薬草だ。劇的には効かないが、時間をかけてじわじわ癒やす力がある。


 となると誰でも考えるんじゃないかな? 双方の長所をかけ合わせれば……


「(カルフ)」

 あれ、今まで静かだったクルト君が口を開いたよ。


 ◇◇◇


「(カルフは……やっぱり……テベトゥさんのように……薬師に……なりたいの?)」


 その質問はカルフの気持ちの核心を突いたのだろう。カルフは涙ぐんでしまった。

「(なりたい。カルフ()テベトゥさん(おばあちゃん)のような薬師になりたい。でもそれだけじゃないっ!)」

 

 ここでカルフはデリア()の方を向くと、駆け寄ってきて、デリア()の両手を握った。え?

「(デリアッ! カルフ()テベトゥさん(おばあちゃん)のように薬草を使いこなせるようになりたいけど、デリアのように治癒(キュア)魔法(マジック)を使えるようになりたいっ!)」


「(ふふふ)」

 いつの間にか起き上がったテベトゥさんが笑っている。

「(若い子はいいねえ。テベトゥさん()も、もうちょっと若ければ魔法(マジック)を覚えたいんだけどね。デリア。カルフ(私の孫)の願い事を聞いてもらえないかな?)」


「(カルフ)」

 テベトゥさんのそんな言葉にデリア()はカルフと向き合う。

「(カルフが……魔法(マジック)を……覚えたいのなら……デリア()は……出来るだけ……力になりたい……だけどね)」


「(だけど?)」


「(魔法(マジック)を……使うには……買わなければならない……そして、とても高価(たか)い……一つ買って……一回分にしかならない)」


「……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
リアルの腰痛にも魔法が欲しいです ><。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ