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 来た。ここは敢えてデリア(自分)の正体を明かさず、鉱石の購入だけを希望と言ってみたい気もした。


 だけど、それではデリア()たちがどうやって砂漠で鉱石を産するか知ったか説明ができない。そして何より、後からデリア()が十人のドワーフを人質に取った当事者のエトムントの実の妹であることが分かったら、それこそ不誠実だということで信用をなくす。ここは辛くても真実を言うしかない。


「(デリア()は……ファーレンハイト商会の……現当主デリア……こちらは……ギュンター商会の……現当主クルト)」


 ◇◇◇


 ざわっ


 場は一斉にざわめく。当然だ。ファーレンハイト商会と言えば、ここで産する鉱石を安く購入するために十人のドワーフを人質にした当事者だ。極めて当たり前の反応だ。


「(人間(ヒューマン)っ! よくもぬけぬけとぬかしよったなっ!)」

 ハタルは戦斧(バトルアクス)を構え直す。


 ハタルだけじゃない。後方にいたドワーフたちがそれぞれ戦斧(バトルアクス)を手にして出てきて、デリア()とクルト君を取り囲む。


 隣のクルト君を見るといつもと変わらぬひょうひょうとした表情だ。正直、助かる。さすがはデリア()の彼氏だ。もっとも内心は恐怖に塗りつぶされているのかもしれないけど。まあ、それはデリア()も同じだ。


「(デリアとやら、分かってはいると思うが、ここでハタル《俺》がこの戦斧(バトルアクス)を一閃すれば、隣の男ともどもその首は飛ぶ。それを承知で言っているのだな?)」


「(もちろんです)」

 内心は怖くて怖くて仕方がない。この場から逃げ出してしまいたい。だけど、そういうわけにはいかない。ドワーフたちに失礼だし、ファーレンハイト商会の再興も夢と消え去る。

「(ミルマたちを……ここまで……送り届けた……目的は……二つ)」


「(何だ?)」


「(一つは……野盗に……殺されて……死んだ……デリア()の兄エトムントが……ドワーフから……人質を……取ったことへの謝罪と……人質の……返還)」


「(それは分かったっ! ハタル()が聞きたいのはもう一つの目的とやらだ。言ってみろっ! その答え次第では殺してやるっ!)」


 怖い。怖い。そして、死ぬのは嫌だ。だけど、ここは率直に言わないと次の道は開けない。

「(もう一つは……ファーレンハイト商会が……ドワーフとの……鉱石の……取引を……再開……すること)」


 ビュンッ


 ハタルの戦斧(バトルアクス)の先端がデリア()をかすめる。


「(本音が出たな。人間(ヒューマン)っ! やはり鉱石が目的かっ! 今度はどんな汚い手を使うつもりだっ?)」


 今の戦斧(バトルアクス)の一閃で本当にこの場から逃げ出したくなった。でもこれだけは言っておかねば。

「(死んだ兄が……いきなり子どもたちを……さらい……自分たちに……有利な取引を……しようとしたことは……おわびします……だけど……今度は……違います……対等な関係で……取引したい」)


  ビュンッ


 ハタルが再度戦斧(バトルアクス)を振る。

「(そんな話が信じられると思うのかっ? 人間(ヒューマン)っ! ミルマたちを送り届けたことに免じて、命だけは助けてやる。とっとと山の向こうに帰れっ!」

 

 ここだっ! ここが正念場だ。デリア()は最後の勇気を振り絞って、真っ直ぐにハタルの目を見据えた。


「!」

 ハタルは明らかに動揺したようだが、今はそんなことは関係ない。自分の気持ちを伝えるだけだ。

「(デリア()は……商人です……兄と違い……真っ当な商人……それが……伝わるまで……お話を……させてください)」


 ハタルは目を逸らした。

「(何を言われても、少なくともハタル()人間(ヒューマン)なんぞと金輪際取引なんかしないからなっ!)」


 ここでデリア()はクルト君と目が合った。クルト君はよくやったねという顔をしている。うん。今日はここまでくらいがいいね。

「(デリア()たちは……この集落から……少し離れたところで……野営しています……御用があれば……そちらまで)」


「(何っ? 山の向こうに帰るのではないのか?)」


「(帰りません……デリア()たちは……あなたたちドワーフと……双方に利益がある……関係でありたい……そのお話ができるまで……帰りません)」


「(くそっ! 人間(ヒューマン)めっ!)」


 デリア()はクルト君とまた向き合う。クルト君は「じゃあ行こうか」と声をかけてくれる。そうだね。この集落の周囲でどこか良さそうな野営の出来そうなところを探して……


「(待って)」

 あ、ミルマが声をかけてきた。


「(おいっ、ミルマッ!)」

 ハタルがミルマを一喝する。

「「(クルトとデリア(こいつら)をうちに泊めるなんて認めないからなっ! いきなりよそ者を集落の中に入らせるなぞできんっ! ミルマ(おまえ)は前回も人質にとられたんだからなっ!)」


「(それはおかしいよ。ハタル兄さん)」

 ミルマは反論する。デリア()たちと一緒にいろんな苦難を乗り越えてきて、本当にたくましくなったみたい。

「(クルトとデリアがミルマ()たちを人質にする気だったら、初めから集落に帰さなければいい。一度集落に帰して、また人質に取るなんて意味が分からない。それにクルトはミルマ()に武術をよく教えてくれた。人質に武術なんか教えたら反抗されるかもしれないじゃないか。人質にそんなことをするわけがない)」

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― 新着の感想 ―
難しい交渉ですね ><。 果たして誠意が通じるか??
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