77
そして、トジュリは? あっ!
幼い分、感情が抑えきれなかったのだろう。一目散に集落に向かって駆け出した。それを見たエフモとカルフが何やら叫んで追いかける。どうも一人で走って行ってはダメだと言っているようだ。必死さが感じられる。これは一体?
「ミルマ。どうしてエフモとカルフはトジュリを追いかけているの?」
ミルマはクルトの目を見据えて言う。
「集落の……周りには……ドワーフを……狙う……魔物が……いる……ルフという奴……子どもが……一人でいると……狙われる」
「!」
そうか。ミルマとエフモとカルフは大人のドワーフたちからそれを口を酸っぱくして教えられてきたのだろう。だけど、トジュリはそれを教わる前に人質にされてしまったということか。
バサッ
少し離れたところにいたクルトにすら翼の羽ばたきから来る強い風圧が感じられた。これはっ!
巨大な鳥の魔物が両足でトジュリをすくい上げた。
「ギイイイイイ」
トジュリの悲鳴が上がる。
「トジュリッ!」
デリアが悲痛な叫び声を上げる。
「ミルマッ! あれがルフなのっ? トジュリはどうなっちゃうのっ?」
「このままなら……ルフの巣に……連れ去られ……ルフの……雛の……エサに……される」
「ルフの巣ってどこにあるのっ?」
「分からない……この広い……山脈の……どこか……ドワーフにも……その場所は……分からない」
「ぐっ」
デリアが唇を噛む。デリアの魔法ならルフにダメージを与えることは出来るだろうが、この状態ではトジュリまでダメージを受ける。下手をするとルフより先にトジュリを殺してしまう。
だけど、ここまで苦労して連れてきたトジュリを鳥のエサなんかにされてたまるか。でも、どうしたらいい。このまま連れ去られたら、もう打つ手はない。ならば、ここでやるべきことはっ!
「ミルマッ! ルフの翼の付け根を狙って槍を投げるんだ。クルトは向かって右側を狙う。ミルマは左側を狙って」
ミルマは黙って頷く。これはチャンスは一回しかない。これを外したり、刺さりが甘かったりするとルフは警戒して、トジュリを持ったまま急いで飛び去ってしまうだろう。慎重に、力強く、そして、素早く。
◇◇◇
「「せいっ!」」
クルトとミルマは同時に槍を投擲した。ここ数日の戦いで随分と息が合うようになった。
「グギャアアアア」
ルフが悲鳴を上げる。どうだ。これでもう飛び去れまい。
ルフは何とか飛行態勢を維持しようとフラフラと飛んだが、やはり翼がうまく羽ばたけないようでついには着地した。
◇◇◇
「グギエエエッ! グギャアーッ」
地面に着いた手負いのルフは威嚇の声を上げた。そして、トジュリを手放すことを期待したが、これが手放さない。意地でも己が獲物を放さないつもりか、それとも、トジュリを手放したが最後、魔法使いデリアの強力な攻撃魔法が襲いかかることが分かっているのか。
ルフの側も相当手詰まりだが、それはこっちも同じだ。武器である槍をルフの飛行を止めるために使ってしまったから、今は素手だ。これでは奴にダメージを与えることは出来ない。
クルトはエフモとカルフに頭を下げた。
「エフモ。カルフ。すまない。君たちにプレゼントした杖だけどクルトとミルマに使わせてもらえないかな?」
頷くエフモにカルフ。
「分かって……いる……トジュリを……助けて」
「杖を……使って……きっと……カルフたちが……使うより……いい」
すまない。打撃力としてはデリアの使っている鉄の杖の方が有効なんだけど、デリアはルフの奴がトジュリを手放した瞬間に攻撃魔法を喰らわせなければならない。その際の攻撃力増幅のために鉄の杖は欠かせないのだ。