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「グオオオオオオッ!」

 ケイブベアは咆哮を上げつつ、今度は右腕を振り上げ、クルト()の左肩をえぐり取らんと狙ってくる。


 舐めるなよ。攻撃の効果が出ることを狙って、大きく振りかぶった時が一番隙が出来やすいんだ。クルト()は右に回避しつつ、ケイブベアの喉を狙う。 


 刺さった。「グオッ」。ケイブベアが声を上げる。だが、残念なことにダメージを受けての悲鳴ではない。小物と思った敵が思わぬ反撃をしてきたので驚いたというレベルか。


 そして、クルト()としてはケイブベアの攻撃を完全回避したつもりだったんだけど、奴の爪がの左肩をかすめたらしく血が噴出する。


 クルト()はケイブベアが予想外の反撃に当惑して間に後退して、自らに治癒(キュア)魔法(マジック)をかける。出血はすぐ止まり、傷は塞がる。


 相手は手強い。肉を斬らして骨を断つ覚悟で戦っていくしかない。クルト()はすぐにケイブベアに向かって突進。またも左肩を裂かれるも、相手の喉を突くことに成功。裂かれた傷は素早く治癒(キュア)魔法(マジック)で修復。


「グッ、グウウグワオオオッ!」  

そして、五回目の攻撃でついにケイブベアに痛みからくる悲鳴を上げさせられることに成功した。


 よしあと一歩と思ったその時だった。ケイブベアがクルト()に向けて突進を始めたのは。相手を倒すには本気になった相手と対峙しなければならないのは避けて通れない道だ。


 だが、突進してくるケイブベアの衝撃力は相当なものになる。馬車との衝突とまでは言わないが、それに近いくらいのものはあるだろう。これはギリギリまで引きつけて回避するしかないな。


「!」

 いや、その方法はダメだ。後ろにはデリアと負傷したミルマとトジュリ、それにエフモとカルフがいる。


「みんなっ! 逃げろっ!」

 叫びはした。だが、ミルマとトジュリは負傷している。迅速な避難は難しいだろう。ならば受け止めるしかない。


 (スピア)を真っ直ぐに構え、歩幅を広げて、どっしり構える。我が(スピア)の穂先が狙うのはケイブベアの喉のみ。うまくすれば奴の突進力を利用して、その喉を突けるかもしれない。今はそれに賭けるしかない。


 ケイブベアが凄まじい音をたてて迫ってくる。怖い。とても怖い。逃げ出したい。ソロで冒険していた頃ならこうなる前に逃げ出していた。だが、今のクルト()には守るべきものがある。普段、守るべきものたちから生きていく力をもらっているのだ。逃げるわけにはいかない。


 もうケイブベアは目前だ。(スピア)を握る両手に力を込める。奴の喉を貫くのだ。


 ドガッ


 轟音と共にクルト()とケイブベアは激突した。そして、クルト()の持った(スピア)の穂先は確かに奴の喉を刺した。更に奴を止めることにも成功した。だが、そこまでだった。


 クルト()の身体は(スピア)から引き離され、大きく撥ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。あまりの衝撃に声も出ない。


 倒れたままクルト()は見た。ケイブベアがクルト()の手から離れた(スピア)をその喉からぶら下げ、ヒューヒューと荒い呼吸音をたてながら、クルト()の方にゆっくりと近づいてくるのを。とどめを刺すつもりなのだ。


 逃げなければ。まずは何を置いてもこの場から逃げなければ。そうしないと奴を、ケイブベアを仕留められない。


 だけどクルト()の身体は動かない。気合を入れても、力を込めても動かない。くそっ、くそっ、動けっ! クルト()の身体っ! 


 とうとう荒い息をしたケイブベアがすぐ近くまできた。血の匂い。奴も相当出血しているらしい。だが、奴はここまで来てしまった。クルト()にとどめが刺せる位置に。


 なのにクルト()の身体は動かない。ケイブベアの奴がクルト()にとどめを刺すために右腕を振り上げてもクルト()の身体は動かない。くそっ、いよいよダメかっ!


 ◇◇◇


 ドカッ


 確かに打撃音はした。血がポタポタと流れている。だが既に死んでしまったクルト()の勘違いでなければ、まだクルト()は生きている。しかも誰かに運ばれている。クルト()を運んでいるのは誰だ? あっ!


「ミルマ?」


「クルト……もう……大丈夫……デリアの……ところで……魔法(マジック)……かけてもらう」


「ミルマ。ケガしていたんじゃないの? 血が流れているよ」


「大丈夫……これは……さっき……ケイブベアから……受けた傷……クルトと……一緒に……デリアに……魔法(マジック)……かけてもらう」


 ここまでの会話をしたところでクルト()の意識は朦朧としてきた。次に意識がはっきりとしてきたのはデリアの「治癒(キュア)」「治癒(キュア)」という声を聞いた時だった。


「デリア……」


「良かった。クルト君。気が付いたんですね」


「ミルマは大丈夫? トジュリは? ケイブベアはどうなった?」


「僕たちは……大丈夫」

 ミルマは微笑を浮かべた。トジュリは心配そうにクルト()を見つめている。


「ケイブベアはあそこです」

 デリアが指差した方向では全身を炎に包まれたケイブベアが右往左往していた。


「デリア。混乱(コンフュージョン)火炎(ファイア)魔法(マジック)をコンボでかけたんだね」


「そうです」

 デリアはちょっと微笑んで言う。

「でもこれは予めクルト君が(スピア)でケイブベアにダメージを与えておいて、更にミルマがクルト君をこちらに連れてきてくれて、距離が取れたから出来たことです。それにデリア()魔法(マジック)をかけてからしばらく時間が経っているのですが、ケイブベアはまだ生きてはいます。今後も相当手強い敵と思っていた方がいいですね」


 そうだね。そして、このケイブベアに匹敵するような魔物(モンスター)がこの山には他にもいるんだろうか。

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― 新着の感想 ―
かなりの強敵でしたね ><。
もう、ドワーフちゃんたちも、立派なパーティメンバーですね。
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