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 デリアはゆっくりと話し始めた。

「第一の件は、私はクルト君が気絶した後に、この町の城門にいた衛兵に助けを求めました。衛兵はノルデイッヒ市内で市民とその客人を守ることが責務です。衛兵は私と気絶しているクルト君をこの家まで運んでくれました。これは衛兵があの地点をノルデイッヒ市内と認めていたということです。クルト君は私をノルデイッヒ市内まで護衛するというクエストを達成(コンプリート)したのですよ」


「でっ、でも、第二の件の対価は支払わなくては」


「その対価も私としてはもう受け取っているんですよ。私は今まで何でも両親の言うままに生きて来ました。花嫁修業に励み、良いところに嫁げと。でも、心のどこかに違和感があったのです」


「……」


「そんな時、おばあちゃんの危篤の手紙をもらいました。何としてもおばあちゃんに会いに行きたいと言う私を両親はそんなことより花嫁修業に専念しろと許しませんでした」


「……」


「私は初めて両親に逆らい、一人でノルデイッヒに行くことを決意しました。そこであなたに出会たのですよ」


「!」


「私と同い年の十三歳なのに、自分の目標をもち、全ての責任を自ら背負って生きている。こういう人もいるんだ。自分もクルト君みたいになりたい。自分の目標に向かって生きたい。そう思ったのです」


「好きでこう生きているわけじゃないよ」


「それでもです。そして、そのことを昨日の晩、おばあちゃんに話してみたのですよ」


「おばあさん? おばあさんは大丈夫なの?」


 デリアは苦笑した。

「全然大丈夫。私会いたさに大袈裟に言ってたんですよ。そのことで私だけでなく、クルト君にまで危険な目に遭わせてしまって申し訳ないと言ってました。そして、私が自分の目標に向かって生きたいって言ったら」


「言ったら?」


「最初は驚いたけど、やってみなさいって。おばあちゃんも本当は花嫁修業より計算の勉強したかったのに出来なかったから。両親が許さないなら、ここで勉強していけばいいって」


「それは君の決意だよね。僕は対価を支払ったとは言えない」


「私としてはあなたの生き方に感銘を受けた。それが対価とは言えませんか?」


「僕は言えないと思う」


 デリアは二度目の大きな溜息を吐き、そして、苦笑した。

「クルト君は真面目な上に頑固ですねえ。では、こうしましょう」


 ◇◇◇


「クルト君。私の『友達』になってください」


「『友達』? 『友達』って?」


「ふふふ。やはりクルト君もそうでしたか。私の周りには『家族』と『使用人』しかいないんですよ」


「……」


 そうだ。かつての僕もそうだった。周りには『家族』と『使用人』しかいなかった。でも今は? ギルドの人たちは厳しくて、優しい。だけど、みんな目上の人たちだ。


「同じ立場で何でも言ってくれる人って、私、初めてなんです。これからも『友達』でいてください」


 僕は頷いた。

「うっ、うん。それでいいなら」


 デリアは満面の笑顔になった。

「良かった。では、第二の対価はなしですよ。『友達』だから」


 僕はちょっと戸惑った。

「うーん。でも。それじゃ少し悪いような……」


 デリアは笑顔のまま続けた。

「それじゃあ、クルト君はこれからロスハイムに帰るのでしょう? 私はこれからノルデイッヒ(ここ)で読み書きや計算の勉強をします。離れ離れになっちゃうけど、私は何通もクルト君に手紙を書きます。クルト君は必ず返事を書いてくださいね。私からのお願いです。これで本当に第二の対価は清算です」


「うっ、うん」

 僕は生返事をした。どうしてって、その時の僕はデリアの笑顔に見入ってしまっていたんだ。シモーネさん以外の人でこういう状態になるのは初めてだった。


「あの~? もしもし? クルト君? 聞いてますか?」

 僕にはそのデリアの言葉は上の空だった。


 ◇◇◇


 初めての「護衛クエスト」は僕に自信をもたらした。これだけでレベルは6に上がっていた。


 それからは一番安全な「配達クエスト」は後からギルドに加入した人に譲るようにして、「護衛クエスト」に限らず「調査クエスト」や「討伐クエスト」も積極的に請け負った。


 レベルが10に達し、二十個の治癒魔法と十個の異常状態回復魔法を所持した時、ついにグスタフさんが言った。

「クルト。今度のクエストのパーティーに入ってくれ。戦闘力がそこそこあって、治癒魔法と異常状態回復魔法をいくつも持っている奴は貴重な戦力だ」


 そのクエストはコカトリスを討伐するという厳しいものだったが、僕はコカトリスに石化されたパーティーメンバーをかたっぱしから回復していき、パーティーの勝利に貢献できた。


 ◇◇◇


 その日もシモーネさんは笑顔だった。

「クルト君。いい知らせだよ。ギルド評議会からクルト君がレベル15になったら、『僧侶戦士』の二つ名を名乗ることを認めるって手紙がきた」


「やっとかよ」

 グスタフさんは飲みながら、あきれ顔だ。

「大体、評議会のじじいどもは頭が固いんだよ。『前例がない』『前例がない』ってさ。そりゃあ昔はいっぱしの戦士だった人間たちだけど、今じゃ現場に出ないで、政治活動ばっかやってる連中じゃねえか」


「まあまあ」

 シモーネさんは笑顔のまま、グスタフさんをとりなす。

「ところで、クルト君。今、レベルいくつだっけ?」


「えっ?」

 僕には空返事しかできなかった。何故ならこの時も僕はシモーネさんの笑顔に見入ってトリップしていたからだ。


「全くしょうがねえな。未来の『僧侶戦士』様は……」


 グスタフさんはおもむろに立ち上がると、僕の背中を右手の平でバンと叩いた。

「おい、クルト。おまえは今レベルいくつか、シモーネが聞いているぞ」


「あっ、はい」

 我を取り戻した僕は答える。

「レベル14です」


「それじゃあ、もうちょっとじゃない」

 シモーネさんはまた(まばゆ)いばかりの笑顔を見せた。まずい。またトリップしそうだ。


 そして、自分はシモーネさんに好意を抱いている…… そういうことが自覚できる年齢になっていた。十五歳だった。

 

 「僧侶戦士」になったら、自分の気持ちをシモーネさんに伝えよう。


 僕はそう決心した。



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