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「二人とも強くなったね。でも、デリア()から見ればまだまだ。どう? まだ挑戦してみる気はあるかな?」


 エフモとカルフは再度顔を見合わせると頷き合う。二人ともすぐに立ち上がるとデリア()に杖を向ける。


 でももう無闇やたらに突進してくるようなことはしない。距離を取りながら、こちらの(すき)(うかが)う。なるほど、ならばこちらはわざと力を抜き、杖をだらりと下げる。


 ほら。突進してきた。かわして一撃。もう一人もかわして一撃。


「「ギイイイイ」」


「どう? まだやれるかな?」


 ノータイムで立ち上がる二人。うーむ。やるねえ。デリア()の自慢の弟子たちよ。


 あ、エフモとカルフとの特訓のことに夢中でトジュリのことを忘れていた……と思ったら、隅っこで寝ている。


 うーん。これは後でトジュリだけ何とかしないと。敵を倒せまでは求められないにしても自分の身は自分で守れるようになってほしいし。


 ◇◇◇ 


「デリアーッ、エフモーッ、カルフーッ、トジュリーッ、一息いれないか?」


 へ? 夢中になってエフモとカルフの特訓をしていたデリア()は我に返った。


 見るとクルト君とミルマが笑顔で食事を運んできている。ライナーさんが届けてくれたのを持ってきてくれたのだ。それにしてもクルト君とミルマ、さっきまで二人とも鬼の形相で撃ち合っていたのに、そんなことはなかったような笑顔だ。


 気が抜けたのはエフモとカルフも同じだ。へなへなとその場に座り込んだ。気張って頑張ってきたんだな。


 ミルマはそんなエフモとカルフの前に食事を置き、更に寝入っていたトジュリを起こして、エフモとカルフのところに連れてきて、一緒に食事を摂りだした。


 クルト君はデリア()の分と自分の分の食事を私の前に置いた。何かこういうのも久しぶりだな。ここのところクルト君はミルマと行動を一緒にしていたし、デリア()はエフモ、カルフ、トジュリと一緒にいたからなあ。


 数日間ちょっと離れていただけだけど何だか照れるねと思っていたら、何とクルト君の方が先に目を逸らした。そういうところは変わらないなあ。まあ、そういうところも好きなんだけど。


 ◇◇◇


 カツーンカツーンカツーン


 カルフが撃ち込む杖をトジュリが必死で杖で防いでいる。クルト君とミルマは、離れたところでまた二人で訓練を再開している。


 デリア()とエフモは腕組みをしながら、トジュリの訓練を見守る。


「正直……」

 エフモがゆっくり口を開く。

「この……訓練は……トジュリには……きついと……思う……」


 デリア()は黙って、腕組みをして頷く。


「だけど……これを……乗り越えないと……自分で……自分を……守れない……」


 デリア()はもう一度黙ったまま、腕組みをして頷く

   

 トジュリは涙目だ。それも必死になってカルフの撃ち込みを受け止め続ける。体力が尽き、立ち上がれなくなると、デリア()はトジュリの元に駆け寄り、治癒(キュア)魔法(マジック)をかける。


 トジュリは袖で涙をぬぐうと立ち上がる。カルフはそれを見ると大きく頷き、杖を持つ手に力を込める。これはドワーフ少女同士の絆だろう。任せておいた方がいい。デリア()が行うのは治癒(キュア)魔法(マジック)をかけることとただ見守ることだけだ。


 ◇◇◇


 ガツンガツンガツン


 真剣な表情のトジュリが全ての撃ち込みをしっかりと受け止める。撃ち込んでいるのはカルフではない、エフモだ。既にカルフの撃ち込みは全て受け止められるようになったので、更に年長のエフモに指導役を交代したのだ。


 デリア()たちがファーレンハイト商会の建物に戻り、もう十日が過ぎた。ドワーフの少年少女たちはこの短い期間に大きく成長した。


 最年少のトジュリは相手の攻撃を受け止め、自分の身を自分で守るスキルはかなり身についた。トジュリより年長のカルフとエフモは自分を守ることを最優先に、状況によっては攻撃にも参加できるレベルになってきた。


 ドワーフの中で最年長の少年ミルマ。彼についてはクルト君はこう言っている。

「スキルを覚えたい、強くなりたい、自分の仲間を守りたいという思いは、人間(ヒューマン)もドワーフも違いはない。ことにミルマには妹たちを守らなければならないという気持ちが強くて、向上心が凄い。だから、上達も早いんだ」


 見ればミルマは、もはやクルト君と互角に撃ち合っている。もちろんクルト君は全力を出しているわけではないだろうけど、デリア()の目で見ても、ミルマは頼もしい強さだ。


 初めはドワーフの少年少女たちはファーレンハイト商会の建物、中でも地下室を恐れていた。でも今はすっかりそれも払拭されている。地下室なら灯りをつけても、その光は外に漏れないから、思う存分訓練が出来る。死んだエトムント兄は不正取引のために地下室を作ったが、それがこういう形で役に立っているのは皮肉というしかない。


 ただ、それももうすぐ終わる。ドワーフの少年少女が最低限自分の身を自分で守れるようになってきた以上、もう彼らを故郷の地に帰さなくてはいけない。


 ◇◇◇


 その夜、ファーレンハイト商会の建物にはいつもより多くの来客があった。いつも食事を届けてくれるライナーさんの他に、ギルドマスターのトマスさんとアンナさん夫妻、グスタフさん。そして、新生ノルデイッヒ警備隊の隊長フリッツさんだ。


 夜だからもちろん面会は地下室だ。入るなりアンナさんが声を張り上げる。

「ちょっとっ! このドワーフの子たち。たった十日でこんなに立派になったの?」


「え? 分かるんですか?」

 思わず問い直すデリア()


「分からないでか。このアンナさん()が何年、何人の若い子をギルドで見てきたと思っているんだいっ!」


「おい、このドワーフの少年。クルトが育てたのか?」

 グスタフさんも真剣な顔で尋ねてくる。


「え、はい。そうですが……」


 その答えに真っ赤な顔になり下を向くグスタフさん。

「かーっ、もうおまえって奴はっ!」


 それからおもむろに顔を上げると、つかつかとクルト君に歩み寄ると、後ろからその首に腕を回す。


「ちょっ、ちょっと、グスタフさん(師匠)


「全くこの馬鹿野郎が。ロスハイムのギルドマスター(ゼップさん)の嘆く声が聞こえてきそうだぜ。こんなにリーダーの資質を持った奴を、当の本人が短気起こしてくれたおかげで手放さざるを得なくなったんだぜ」


 グスタフさん、お気持ちは分かります。しかし、あなただって相当短気ですよ。

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― 新着の感想 ―
一気に訓練完了ですね (*´▽`*)
クルト君は指導者の才能もありますね( ˘ω˘ )
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