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「でも……」

 エフモは真っ直ぐに私の目を見据えて言う。

エフモ()は……エフモ(自分)の……他に……カルフとトジュリを……守りたい」


「デリア……カルフ()も……カルフ(自分)の……他に……トジュリを……守りたい」

   

 何なんだろう。この自分より年少者を守るという徹底した意識は。ドワーフって凄い。暴力や経済力で他者を押さえ込み、そのあげくが恨みを買って、襲撃されて殺されるなどということをやっている人間(ヒューマン)よりはるかに立派だ。


「ねえ……デリア……どうしたの?……考え込んじゃって」


「!」

 っと、いけないいけない。ついつい物思いにふけっちゃったよ。

「うん。年下の者を守るのは良いことだよ。でも無理をしないでね」


 ◇◇◇


 私は地下室への扉を静かに開ける。ドワーフ少女三人の様子を窺うと、やはり緊張の面持ちだ。


 自分たちから言い出したこととはいえ、やはり自分たちがかつて閉じ込められていた檻のあった場所にはトラウマがあるのだろう。


 しかし、申し訳ないが、杖を使った訓練をするにはどうしても大きな音が出る。対外的には空き家ということになっているファーレンハイト商会の建物から音が聞こえるのはよろしくない。


 そうなると音が漏れない地下室で訓練するしかないのだ。


 しかし、彼女たちはまだ恵まれている。先客がいるからだ。彼女たちから見て兄貴分になるミルマが既にクルト君から特訓を受けているのだ。


 ガチンッ パシーンッ ドンッ


 おおうっ、凄まじい音がしている。これはドワーフ少女たちには悪いが、一刻も早く地下室に入らなくては。


 見ると(スピア)を持って、クルト君に突進したミルマが、クルト君に(スピア)を撥ね飛ばされた上、(スピア)の尻で胸部を打たれ、倒されたところだ。


「どうする? ミルマ。そろそろ治癒(キュア)魔法(マジック)をかけようか?」


「まだまだっ!」

 クルト君のそんな問いかけをミルマは飛び起きて否定する。

「まだ……まだ……大丈夫……今度は……倒されない」


 ドガンッ ガシンッ


 再度、激しい(スピア)の撃ち合いが始まる。私も三人のドワーフ少女も食い入るようにそれを見つめる。


 最初に我に返ったのはエフモだった。

「凄い……ミルマ兄ちゃんが……あんなに……頑張っている……エフモ()も……頑張らないと……デリア……早く……教えて」


 エフモ。やっぱり長女気質なのかな。凄く責任感が強い気がする。おっと、また、何考え込んでいるの? って言われちゃうね。こっちも特訓始めないと。


 結局、エフモとカルフには木の杖を購入した。彼女たちはドワーフなので、人間(ヒューマン)よりは背が低い。だから、杖の長さは短めに、代わりに太さを太めにしてもらった。力持ちだから、その方がいいだろう。


 そして、トジュリ。際だって背が低い上に、筋力も他の二人に比べても、まだ弱い。なのでこん棒にした。


 例によって不満たらたらだったが、私とエフモとカルフ三人がかりで「もうちょっと大きくなったら杖も装備させるから」と言って説得した。何とか最後は受け入れてもらったけど、トジュリは末っ子気質だなあ。エフモとは対照的だ。 


 私は三人にそれぞれ武器を持たせる。そして、にっこり微笑む。

「さあ、どこからでもかかってきて。三人いっぺんにね」


 この発言にはさすがに刺激されたらしくて、エフモとカルフは叫び声を上げて突進してくる。


 バシーン バシーン


 はい。そういう単純な突進では簡単に杖を撥ね飛ばされますよ。


 しかし、理屈では分かっても、それを修得するには、やはり実践経験がいる。エフモとカルフは何度も突進を繰り返し、その度にデリア()に杖を撥ね飛ばされた。


「アプサーッ」

 それでもエフモは叫び声を上げて突進してくる。「くっそー」みたいな意味のようだ。デリア()はそれも難なく撥ねのける。すると、その撥ねのけた瞬間にカルフがデリア()に撃ち込みをかけてきた。話し合った様子は見られなかった。ということは阿吽(あうん)の呼吸での行動? なかなかやるね。だけど……


 デリア()はすばやくカルフの撃ち込みをかわすと、その背中に杖を撃ち込む。


「ギイイイ」

 悲鳴が上がる。悪いとは思うけど、実際、野盗や魔物(モンスター)から攻撃を受けた時の痛さはこんなもんじゃないからね。


 座り込み、デリア()(にら)み付けるカルフ。


 私はあえて厳しい言葉をかける。

「どうしたの? もう降参かな?」


 エフモとカルフは顔を見合わせると頷き合う。二人とも立ち上がるとデリア()に杖を向ける。


「アプサーッ」

 叫び声を上げて、今度はカルフが突進してくる。デリア()が杖を撥ね飛ばさんと待ち受けると、何と踏み込むと見せかけて一歩引く。


 何と……と思っていると、後方からエフモが接近。大上段に振りかぶらずに、横に振って、デリア()に一撃を加えようとする。


 それを回避すると、前方で一歩引いたカルフが最接近。やはり横に振って、デリア()への痛撃を狙う。それをかわすと、またもエフモが……


 なかなか見事なコンビネーションだ。この短い時間によくぞここまで上達した。それにこちらも応えないと。


 デリア()は一段ギアを上げる。ただ、かわすだけではなく、返す刀で次々とエフモとカルフの横腹に一撃を加える。


「ギッ」

「ギイイイ」


 倒れ込むエフモとカルフ。しかしすぐに立ち上がり、デリア()(にら)み付ける。

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