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「そんなことは気にしなくていいよ。さっきグスタフも言っていたが、ノルデイッヒギルドは近々再開する。フリッツはノルデイッヒの警備隊長になって、そっちの復興につくが、ライナーの奴が取りまとめ役でギルドに復帰する。他にもオーベルタールの警備隊に入っている者とロスハイムギルドで修業中の連中が帰ってくる。これからノルデイッヒギルドが、ガンガン稼ぐ。金の心配はすんな」

 こう言ってからトマスさんはニヤリと笑った。

「グスタフには分からんようだが、トマス(わし)は金稼ぎもしているから分かる。ドワーフたちを故郷に連れて帰るのには、もう一つ目的があるだろう。え? ギュンター商会とファーレンハイト商会の当主?」


「さすがお見通しですね。トマスさん」

 クルト君が感心する。

「確かにドワーフ(この子)たちの親たちに謝罪するのは大変です。恨んでいるでしょうし、こちらの言うことは信用しないでしょう。だけど、それでも頑張って、信頼を勝ち取り得たとしたら?」


「!」


「分かったか。グスタフ」

 ドヤ顔のトマスさん。

「うまくすれば山脈の向こうの砂漠で産する鉱石はギュンター商会とファーレンハイト商会の独占販売になる。かつてファーレンハイト商会が汚い商売でボロ儲けしようとしたことを、今度は真っ当な商売で稼ごうってのよ。汚い商売よりは短期的には儲からないかもしれないが、信頼で結ばれた商売は長期的に儲けることが出来るんだよ」


「すまん」

 グスタフさんはまた頭をかきむしった。

「頭が痛くなってきた。俺には数字のことは分からねえ」


 みんな一斉に爆笑する。意味が分からないであろうドワーフたちまで笑っていた。


「そして、もう一つ、トマスさん。クルト()もデリアも死んだことになっている身です。鉱石の販売はノルデイッヒギルドを通す形で行いたいのですが」


「おうっ、逆にありがてえ話だ。もちろん所定の手数料はもらうがね」


「もちろんです。それでも相当の儲けになるはずです」


「そうだな」

 

 ◇◇◇


 その日から私とクルト君は四人のドワーフの少年少女と生活を共にした。


 私の方は三人のドワーフ少女「エフモ」「カルフ」「トジュリ」とずっと話していた。とは言えそもそも言葉が通じないので、私が床を指して、「床」「床」「床」と言うと、「エフモ」「カルフ」「トジュリ」はしばし考えた後、「トーモ」「トーモ」「トーモ」と言ってくる。


 次に私は床を拳骨(げんこつ)で叩く。「床 叩く」「床 叩く」「床 叩く」。すると、「エフモ」「カルフ」「トジュリ」は私の真似して床を拳骨(げんこつ)で叩きながら「トーモ コラプ」「トーモ コラプ」「トーモ コラプ」。


 更にカップに入れた水を飲みながら、「水 飲む」「水 飲む」「水 飲む」。すると、三人は「サプパ アグ」「サプパ アグ」「サプパ アグ」。


 こういうことをしているうちに私はだんだん気持ちが盛り上がってきて、ついには笑顔で三人と「握手」「握手」「握手」と言いながら、代わる代わるに握手した。三人は「サスヌ」「サスヌ」「サスヌ」と言った。


 そして、私を指差し笑顔で「ラーハ」「ラーハ」「ラーハ」と言う。

「『ラーハ』? 『笑う』?」

 そう言った私に「ラーハ 笑う」「ラーハ 笑う」「ラーハ 笑う」と口々に言う三人。正直、私の中にはロスハイムギルドで仲が良かったカトリナちゃん、ラーラちゃん、メラニーちゃんたちと当面の間、会えないという寂しさが残っていた。しかし、今回のことでそれは、ほぼ吹き飛んだ。今、私は最高に楽しい。


 そして、クルト君はと言えば、相変わらずドワーフの少年ミルマの両手首をつかみ、ミルマはそれを振りほどかんとする訓練を続けている。

「ほらほら。頑張れ頑張れ。ミルマッ、振りほどいてみろっ!」 


「クウウウウウ。クオオオオーッ」


 これを飽きずにずっと続けているのだが、アンナさんが「休憩にしなーい」と言って、昼食を持ってきてくれるまで続いた。


 と言うか、ミルマはまだまだやる気まんまんだったのだけど、クルト君の「ミルマー。食べるもの食べないといつまで経っても僕には勝てないよ」という言葉に渋々従った。


 ん? よく考えてみると、クルト君とミルマ、私と三人のドワーフ少女のように言葉の相互紹介を全くしていないのに、クルト君の人間(ヒューマン)語があっさりミルマに通じた? 戦う男たちには言葉はあまり必要でないのか? グスタフさんとクルト君の間にもある私には理解不能な世界に相通じるものがあるのだろうか。


 ◇◇◇


 私とクルト君、そして、四人のドワーフの少年少女「ミルマ」「エフモ」「カルフ」「トジュリ」は一ヶ月である程度の意思疎通が出来るようになった。そして、別の問題も発生した。


 前にもノルデイッヒのギルドマスター(トマスさん)は早期のノルデイッヒギルドの復興を計画していると言っていた。そして、いよいよライナーさんを取りまとめ役に、オーベルタール警備隊員のうち、もともとノルデイッヒギルドメンバーだった人が何人か復帰。ノルデイッヒギルドが再開されることになったのだ。


 そうなると今現在私たちが生活している部屋はもともとギルドの倉庫だったところだ。本来の用途のために明け渡さないとまずい。

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― 新着の感想 ―
楽しそうでなによりですね (*´艸`*)
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