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 結果的にドワーフの子どもたちが販売された記録はなかった。考えたくもなかったが好事家向けの食材に加工された可能性も考え、調べたがその形跡もない。そして、私は兄が傭兵を使ってやったことと今後やろうとしていたことの資料をとうとう見つけた。兄が本店をロスハイムからノルデイッヒに移そうとした理由も。


「デリア。急いで一緒に来て。陽が沈む前に見てもらいものがある」

 私も自分がつきとめた兄の意図を話したかったが、ここはクルト君に従おう。


 ◇◇◇


 略奪され、荒れ放題だった商品倉庫はクルト君の手で片付けられていた、そして、床にあった扉が大きく開けられていた。地下室に通じる扉だ。こんな地下室。私がここにいた時にはなかった。ぱっと見、中は建物の他の部屋に比べて真新しい。恐らく兄が作ったものだろう。


 魔法で地下室に灯りを灯す。凄い臭いがする。湿気も凄い。とても衛生的とは言い難い。


 それでもここにドワーフの子どもたちが閉じ込められていたらしい。頑丈な鉄格子に囲まれた檻が設置されている。だけどドワーフの子どもたちはもう一人もいない。


「クルト君。いったんこの地下室を出ましょう。私もクルト君に見てもらいたいものがあります」


 ◇◇◇


「クルト君に見せたい書類はこれです」


 日没はしかかっているが、まだ辛うじて明るい。私はこの書類を一刻も早くクルト君に見てもらいたかった。


 書類を見入りだしたクルト君の顔がどんどん真剣になっていく。そして、呟くように言った。

「なるほど。これが『真相』だったんだね」


 私がクルト君に見せたのは亡き兄が作成した「将来計画書」だった。


「フォーゲルスベルク山脈を越えた先にある砂漠で産する鉱石を独占的に販売することにより利益を極大化する」


「そのためにフォーゲルスベルク山脈を越える道の入り口に位置するノルデイッヒのシェアを独占する。他の商会とギルドは徹底的に排斥する」


「鉱石採掘のための労働力は現地民のドワーフを使う。安価に使うため、他の商会や冒険者との取引をさせないようにする。そのためには予め傭兵を使って、ドワーフの子ども10人を拉致。人質とする。当商会以外との取引、人質の奪還をさせないため随時傭兵に監視させる」


「鉱石搬出の拡大のため、道路を整備する。労働力は現地民のドワーフを使う。予め確保した人質を活用し、極力安価に使う」


「以上のことを効率的に推進するため、ファーレンハイト商会は本店をロスハイムからノルデイッヒに移転させる。次期当主エトムントはノルデイッヒの新本店を管轄する。次期当主の弟エルンストは支店に格下げとなったロスハイムの旧本店を管轄し、従来の取引を踏襲する」


「ふうっ」

 読み終えたクルト君は大きな溜息をついた。

「鉱石に目を付けたのはいいけれど、経費を削減しようとしすぎている。これでは恨みを買うよ」


 私は頷く。

「亡き兄がノルデイッヒに本店を移そうとした謎はこれで解けました。ただ問題は拉致されたドワーフの子どもたちがどうなったかです」


 クルト君も頷く。その時、玄関でガチャリと扉を解錠する音がした。フリッツさんたちが来たらしい。


 それでもクルト君は慎重に玄関を窺い、フリッツさんたちだということを確認してから招き入れた。


「どうです? クルトさん。デリアさん」

 フリッツさんもライナーさんも笑顔だ。だけど、私はこの後に亡き兄がしでかした、とんでもないことを伝達しなければならない。


 ◇◇◇


「そうでしたか」

 さすがにフリッツさんたちも沈痛な顔になる。

「いえそれでしたら」


「?」


「私たちからも伝えなければならないことがあります。今夜は深夜になったら、クルトさんとデリアさんは私たちと一緒にギルドに戻ってください」


「?」

 どういうことだろう?


 ◇◇◇


 人気のなくなった深夜。私とクルト君はフリッツさんもライナーさんに護衛されながらギルドに戻る。


トマスさん(ギルドマスター)、アンナさん。クルトさんとデリアさんが例の件の真相を突き止めたそうですか」


「そうか」

 トマスさんは頷く。アンナさんは隣で真剣な表情だ。

「じゃあ、こっちも例の件について話さないとな。その前にグスタフを呼んできてくれねえか。奴もいた方がいいだろう」


「分かりました」

 ライナーさんが言われるが早いか飛び出す。


 グスタフさんを待つ間、私は亡き兄が砂漠の鉱石の利権を独占しようとしていたこと、そのためにドワーフに不当な扱いをしていたことを話す。


「……」

 黙って聞いているトマスさんとアンナさん。私の話が終わるとトマスさんが口を開く。

「分かった。これで全てのことが繋がったわ。これからわしらがおめえさん方に見せることも含めてな」


 一体、何があるのだろう。


 ドンドンドンドン


 ギルドの扉が強くノックされる。


「そんなに強く叩くんじゃないよ。壊れるじゃないか。グスタフだろ? 入っといで」


 アンナさんの言葉に、グスタフさんが息せき切って、ギルドの中に入ってくる。 

「クルトとデリアが例の件の真相を掴んだって? どういう話なんだ?」


「そんな慌てなくても、すぐにデリアが話してくれるよ」

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― 新着の感想 ―
おっお兄さん……! そんなことしたらボコられても仕方ないよー! もっとやりかた考えましょうよ!
長くて大きくなりそうな仕事なのに、こんなことをしてたら、一瞬で廃業しそうですけどね。 目先の利益ばかりを目指すと、こうなりますよね。
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