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「クルト君」

 私はさっきの疑問をクルト君にぶつけてみる。どうして兄は真っ当な取引を続けずに、ノルデイッヒでの取引を独占するような行動に出たのだろうかと。


「……」

 クルト君はしばし黙考してから、口を開いた。

「僕にはデリアのお兄さんが何を考えていたかは分からない。だからこれは推測でしかないけれど、そこまでやったというのは何かノルデイッヒで莫大な利益が望めるものが他にあったんじゃないかな。その事業を軌道に乗せる前に亡くなってしまったんじゃあ」


「!」

 私の脳裏に電撃が走った。

「ありがとうっ! クルト君っ! これは凄いヒントだよっ!」


 私はもう一度徹底的に仕入れを洗い直す……わけにはいかなかった。もう陽が沈みかけている。


 ここは速やかに夕食を済まして、寝よう。そして、また明日、朝一番で調査再開だ。


 ◇◇◇


 私は見つけた。怪しいものを。


 金、銀、銅、そして、ミスリル。いずれも少量ずつ仕入れた記録があった。少なくて大規模な取引ベースには乗っていない。仕入れたのはノルデイッヒの支店。それも最近。そして、ロスハイムの本店に送っていない。まあ、こんな量では取引にならないというのもあるけど。しかしっ!


 ノルデイッヒの西側には峻険な山脈が南北に走り、そこでは豊富な木材資源はある。だけど、鉱物を産するなんて聞いたことがない。これは一体?


「クルト君」

 何だか困った時のクルト君頼みみたいになっているけど、頼りになるから仕方がない……ということにさせてもらおう。

「ノルデイッヒの周辺で鉱物が取れるという話を聞いたことはある? 金、銀、銅、そして、ミスリルなんだけど」


「……」

 またも黙考するクルト君。しかも今度は長考だ。

「聞いたことがあるとすれば……、随分昔の話だけど」


「……」


「ノルデイッヒの西側にある山脈の向こう側には砂漠が広がっていて、そこには豊かな鉱物資源があるという話がある」


「!」


「ギュンター商会もその取引をしようと計画したことがあるとも聞いた。だけどいろいろと条件が悪すぎて、立ち消えになったって」


 条件が悪いと言うのは分かる。ノルデイッヒの西側にある山脈、フォーゲルスベルク山脈。その山脈の向こう側に砂漠があるのは分かっている。クルト君に言われて思い出したけれど鉱物資源があるらしいという話も聞いたことがある。


 なのに、どこの商人も手を出さなかったのはいろいろな意味で条件が悪すぎるからだ。峻険な山脈を越えていくまともな道がない。通れても人間一人がやっとくらい。馬車にたくさんの鉱石を運び出すようにするためには、どれほどの予算・人員を割かなければならないのか想像もつかない。


 もう一つの問題は向こう側の砂漠のことが何も分からないことだ。鉱物を産出すると言っても、どこのどの辺で採れるのか。砂漠に住んでいる者が採ったのか、ロスハイム周辺地域から誰か乗り込んで行って採ったのか。まるで分からない。


「デリア。大丈夫?」


 ◇◇◇


 あ、いけないいけない。考え込んじゃったよ。


「あまり考え込むと煮詰まるから、他の資料も見てみたら、他にも怪しいものが見つかるかも」


「そうしてみるよ。ありがとう。クルト君」


 ◇◇◇


 そうこうしているうちに私は、もっと怪しいもの、いや、ファーレンハイト商会としては恥ずべきものを見つけてしまった。


 仕入れ票に「ドワーフ 子ども 10」と書かれたものがあったのだ。


 めまいがして、大きな溜息をついて、私はその場にへたりこんだ。全く兄は何てことをしてくれたのだ。ドワーフは牛豚でもなければ、犬猫でもない。ゴブリンでもコボルドでもない。家畜でもペットでも魔物(モンスター)でもない。別の言語を話す別の人間系(ヒューマノイド)の種族なのだ。それにしてもここまでやってくれるとは。儲かればいいという考え方にも限度というものがあるだろう。


「デリア。どうしたの?」

 へたりこんだ私を気遣うクルト君。


 そんなクルト君に私は先ほどの仕入れ票を渡す。

「クルト君。これ見てください」


 仕入れ票を見たクルト君も青ざめる。

「信じられないけど、事実なんだね。商人が偽物の仕入れ票を紛れ込ませるなどということはあり得ない。総勘定が合わなくなってしまう。いくら仕入れの元値が0だったとしても」


 私も頷き、そして、うなだれる。


 クルト君も下を向いていたが、すぐに顔を上げた。

「このことが分かった以上、調べておかないといけないことがある。このドワーフの子どもたちがどうなったかだよ。助けられるものなら助けないと。デリアは販売票や将来計画とかを調べて。売られた先が分かれば、打つ手があるかもしれない」


「分かりました」

 亡くなった兄が本店をロスハイムからノルデイッヒに移そうとしていたこととは直接関係がないかもしれない。でも、これは現ファーレンハイト商会当主としてもはっきりさせておく必要がある。

「それでクルト君はどうします?」


「僕はこの建物を徹底的に探し直す。実は商品倉庫も掃除と書類探しで一通り見て回ったんだけど、ドワーフの子どもたちは見られなかった。でも、もう一度調べ直してみる。もし見つかったら、すぐに助けなければならないからね」


「はい。お願いします」

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― 新着の感想 ―
おお!? よくある奴隷ではなく、ドワーフの子供。
おっ、お兄さん……!? なんてことをっ……!
人身売買に、手を出していたとは…… なんたる外道!
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