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「どうですか? デリアさん」

 フリッツさんが恐る恐るという感じで私に聞いてくる。


「うーん」

 私は考え込む。

「明るくなってみないと分かりませんが、これは時間がかかるかもしれません」


「そうですか」

 フリッツさんも少し考え込む様子を見せた後、微笑する。

「グスタフ警備隊長からも言われていますので全面的に協力させてください。差しあたり困っていることとかありますか?」


「そうですね。暗くて分からなかったのですが、敷地内の井戸は使えそうですか?」


「あ、水は必需品ですものね。野盗は、ぱっと見、金にならないものには手を出しませんから大丈夫だとは思います」


「使えるといいですね。それで、こう暗いと実質何も出来ませんので、こちらもどこか適当なところで休ませていただきます。いったん帰られてはいかがでしょう」


「はい……」

 フリッツさんが頷く。

「では、昼頃、食べ物を持ってまた来ます。その時、井戸のことも確かめてきますね」


「はい。お願いします」


 フリッツさんとライナーさんは私たちに頭を下げ、再度、外から施錠すると帰っていった。私はクルト君の方を振り向いた。

「クルト君。さすがに今日は疲れましたよね。もう休みましょう」


 クルト君も頷く。

「そうだね」


 そうは言っても、やはりと言うべきか、ファーレンハイト家の家族の寝室は見事に略奪されていた。寝具、照明、衣類は無造作に引き出しを開けられ、全て持ち去られていた。


 それではと使用人や護衛のための控え室はと見れば、ここも全ての引き出しが開けられ、家具もひっくり返されていたが、もともと寝台は、固定された簡易式のものなので、金にならないと判断されたか残っていて、更に使い回しと思われる古い毛布も残っていた。


 私もクルト君もクエストを請け負った時には野宿を頻繁にしている。十分な寝床だ。


「デリア。疲れたよね。今日はもう休もう」


 クルト君の言葉に私も頷き、二人ともあっという間に寝入った。


 ◇◇◇


 窓から差し込む光で目が覚めた。もう陽が高い。昨日、夜更かししたせいか朝寝してしまったようだ……って、あれ? クルト君がいない。隣の寝台で寝ていたはずなのに。


 青くなって廊下に出ると、どこからかシャカシャカと音が。これはまさか……


「クルト君。何でまた掃き掃除をしているんですか?」


「あ、デリア。おはよう」

 クルト君は満面の笑顔だ。

「昨日、遅かったからまだ寝ていればいいのに。フリッツさんたちはまだ当分来ないよ。昼頃来ると言っていたし」


「いえ、クルト君。さっきの私の質問に答えていませんよ。何でまた掃き掃除をしているんですか?」


「いやだって、昨日は殆ど役に立てなかったから。せめてデリアが調査しやすいように掃除しとこうかと」


「役に立たなかったって、昨日はグスタフさんと大変な戦いをしていたじゃないですか。クルト君こそ疲れているんじゃないですか?」


「うーん。でも何かしていないと落ち着かなくて」


 どこまで真面目なんですか? 見ると廊下のほこりが一カ所に集められ、散乱していた書類が全て積み重ねられている。


「ところでデリア。この書類はどうすればいい?」


「取りあえず兄のエトムントが使っていた執務室に行ってみましょう。本来だったらそこに書類が全部あるはずなのを他にまで散乱されたはずなので、いったん書類は一カ所に全部集めましょう」


 ◇◇◇


 兄のエトムントが使っていた執務室は徹底的に荒らされていた。まあ当然で、金銭とかはこの部屋の金庫に収められていたから、狙われはする。


 書類棚とか執務机とか無残にもひっくり返され、書類はこれでもかと散乱していたが、それでも執務机が残っていたのは不幸中の幸いだった。


「クルト君。この机を正しい位置に戻すのを手伝ってもらえますか? このテーブルも」


 私は机とテーブルの上をクルト君がどこからか見つけてきたほうきで掃いた。


 凄く汚れていたのが辛うじて使えるようになったくらいだが、私はテーブルの上にクルト君が廊下に散乱していたのを集めてくれた書類を置いた。


「クルト君。この建物の中の書類を全て拾い集めて、このテーブルに置いてください。私はこっちの執務机で書類を整理します」


「分かった」

 クルト君は、ほうきを片手に執務室を出て行く。書類を集めながら掃除もするらしい。レベル18の「僧侶戦士」とは思えないマメさだ。 


 私は書類についた土ほこりを払い落としながら分類していく。手間だなあと思っていたら、クルト君がどこからかハタキを見つけてきて、「土ほこり落とすの大変でしょ。これ使えば」と言って、持ってきた。何なんだろうね。この気の回りよう。


 更に「フリッツさんたちが井戸が使えることを確認してくれても、水を貯めておける水がめがないとダメだよね」とのお言葉。確かにその通りです。書類の整理で頭がいっぱいで忘れていました。


「炊事場に行ったら、水がめがたくさんあったけど、みんな割られていたよ。中に隠し財産でもあると思ったのかな?」


 あちゃー。


「でもひっくり返されていた中で三つくらい何とか使えそうなのがあったよ。フリッツさんたちが水を汲んできてくれたら、濡らした雑巾で机とテーブルを拭いておくね」


 うーん。クルト君。いろいろ過酷な目にあったのに、根っ子のところは、いいところのお坊ちゃんなんだなあ。まあ、そういうところも好きなんだけど。

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― 新着の感想 ―
改めてこの世界の厳しさを目の当たりにした感。こういう世界でも歪むことなく育ったクルトくんとデリアちゃんだからこそ、さわやかな印象になるんでしょうね。
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