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 私の言葉にトマスさんとアンナさんは顔を見合わせ、大きく頷き合う。そして、トマスさんは再度口を開く。

「そのことについては、わしらも他に伝えたいこともある。だけど、それはデリアがちゃんと自分の目で確認してから伝えた方がよさそうだ。ファーレンハイト商会は何せ護衛のための傭兵が真っ先に盗賊化したから、ギルド(うち)以上に酷い略奪を受けている。だが、あいつらは金にならない書類はぶちまけても奪ってはいない。まだ分かることも多いはずだ」


「はあ」


「人目に付かない夜のうちにファーレンハイト商会の建物に入っておいて、明るくなったら建物の中で残された書類を調べたらいいだろう。


「はい。ではクルト君、行きましょう」


「待て、デリア」

 え? グスタフさん、何でここで止めるんですか?


「人目に付きにくい深夜とはいえ、誰かに見られない保証はねえ。念のため護衛を二人つける」


「え? 護衛? 僕たちはその辺の野盗がきても対応出来ますよ」

 不思議そうな顔をするクルト君。それはそうだよ。グスタフさんと互角に戦えるクルト君に何故護衛がいるんだろう?


「そうじゃねえ、人目につかねえようにということだ。クルトにデリア。おまえらは上からはおる形でいいから、オーベルタール(俺んとこ)の警備隊員の制服を着ていけ。そして、おまえらの周りに二人警備隊員を付けて、遠目には四人の警備隊員が巡回しているように見せる」


「師匠っ!」

 クルト君が立ち上がる。表情は真剣だ。

「お気遣いありがとうございます。しかし、失礼ながら、そのお二人の護衛は信用できる方なのでしょうか?


「わあっはっはっ!」

 クルト君の懸念はもっとも。そんな私の思いをかき消すかのようなグスタフさんの大笑い。

「そう思うのは当然だ。だけど、それは大丈夫なんだよなー。トマスさん」


「グスタフ-。もったいつけてねえで。とっとと種明かししてやれよ。夜が明けちまうぞ」


「おうっ、入って来いっ! フリッツにライナーッ!」


「「はいっ」」


 二人の護衛隊員らしき人が入ってきた。あ、一人目の人は……


「クルトさん、デリアさん、昼間はお世話様でした。私が警備隊の副隊長のフリッツです」


 そうだ。この人はノルデイッヒ(この町)の城門の前でグスタフさんの言葉を伝えてくれた小隊長ぽい人だ。副隊長だったのか。


「初めまして。クルトさん、デリアさん。警備隊員のライナーです。ロスハイムギルドでは弟や妹がお世話になりました」


「!」

 あっ、この人たちは……


「そうだよ」

 トマスさんが笑顔で頷く。

「こいつらはもともとノルデイッヒ(うち)のギルドメンバーなんだ。ノルデイッヒ(うち)のギルドが立ちゆかなくなってきたので、グスタフに無理を言って、レベルの高いこいつらはオーベルタールの警備隊員にしてもらった。そして、レベルが高くなかった奴らは……」


「……」


「知ってのとおり、ロスハイムのギルドマスター(ゼップ)に無理を言って、引き取ってもらった。クルトとデリアがロスハイムのギルドで面倒を見たあの連中だ。そして、フリッツとライナーはあの連中の兄貴なんだよ」


「ありがとうございます。クルトさん、デリアさん」

 フリッツさんとライナーさんはクルト君と私に丁寧に頭を下げる。

「弟や妹たちからお二人にとても親切にしていただき、尊敬できる方と聞いています。今後のことについて、出来るだけバックアップさせてください」


 そういうことか。心遣いがありがたい。そして、やはり、人には親切にしておくものなのだろう。


「そういうことだ」

 グスタフさんは腕組みをしてドヤ顔だ。

「デリアがファーレンハイト商会の建物の中を本格的に調査するにしても、それが終われば、また人目を忍んでギルド(ここ)に戻ってこなけりゃなんねえ。その時にも護衛はいる。それにデリアの調査が何日かかるかは分からねえが、その間の食事や生活必需品も必要だろう。それはこいつらに届けさせる。こいつらなら巡回しているようにしか見えないからな」


 ありがたい話だ。涙が出そうだ。これはもう何としても死んでしまった兄エトムントがどういう意図があって、本店をロスハイムからノルデイッヒに戻そうとしたか突き止めなくては。私は当代のファーレンハイト商会の当主なのだから


 ◇◇◇


 ガチャリという音と共にファーレンハイト商会の建物の扉が開錠される。随分としっかりした鍵で施錠してくれたようだ。


「元あった鍵と同じくらいの鍵を取り付けました。ここは重要なところだからというグスタフ警備隊長の指示がありました」


 ファーレンハイト商会は、この一連の騒動の原因を作ったところだから。私ではなく、両親と兄がやってくれたこととはいえ、何だか申し訳ない。


 予想はしたが中は真っ暗でほこりっぽい。しかし、ここで魔法で灯りをつけるわけにはいかない。どこに外部の人の目があるか分からない。ファーレンハイト商会の商隊(キャラバン)が大野盗団に襲撃されて潰滅してから空き家だったこの建物に突然灯りが点れば怪しむ人も出てくるだろう。


 幸いこの建物は私が生まれ育った建物だ。目をつぶっていても中を歩ける。だけど、床には書類が散乱している。無造作に土足で入って踏み潰していったのだろう。これは書類整理に骨が折れそうだ。

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いい人たちに恵まれましたね (*´▽`*)
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