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ゼップさんは寄り道を許したが、最強パーティーは僅か五日で帰ってきた。
ハンスさんは、恭しくノルデイッヒのギルドマスターであるトマスさんからの返信の手紙をゼップさんに渡した。
一度、深呼吸をしてから返信の手紙を開いたゼップさんはゆっくりとそれを読み、更に二度三度と読み返してから、大きく頷いた。
「みんな聞いてくれ。わしは直接ノルデイッヒに行って、トマスと直に話すことにした。ついては、わしの護衛をお願いしたい。もちろん、わしから報酬は出す」
「それは僕らをご指名ですか?」
ゼップさんの言葉に、すぐにハンスさんが反応する。
「いや、今回はわしが長期間ロスハイムを不在にする可能性がある。ハンスはクラーラと協力して、ロスハイムのギルドを守ってくれ」
「分かりました。では、ゼップさんが護衛クエストを発注する相手は?」
「六人の臨時編成のパーティーを組んで、それに護衛してもらいたい。メンバーはわしから指名する」
ゼップさんは、懐からメモを取り出す。どうやら、先にメンバーを選抜していたようだ。
ギルドはしんと静まり返る。ハンスさんに留守の守りを頼む以上、ナターリエさんも留守番の方だろう。なら、誰が行くのだろう?
メモの中身がゆっくりと読みあげられる。
「前衛の中央の戦士。攻撃の要だな。ここは……」
「……」
「クルト」
クルト君が指名された! 思わずクルト君の方を見ると、「え?」という顔をしている。ちょっとー、クルト君! クルト君!
◇◇◇
「クルトッ! 呼ばれたら返事をしろっ!」
ゼップさんが強い口調で言う。
「はっ、はい……]
クルト君は返事はするが、「え? 僕なの?」という表情は変わらない。
擁護すると「自分なんかまだまだ」という考え方が骨の髄まで染みついている人なのだ。私的にはそこがいいというのもあるのだけれど……
「次に他の前衛っ! 左翼にヨハンッ! 右翼にカールッ!」
「はいっ!」
「はいっ!」
クルト君のことがあったので、次に呼ばれた二人は元気よく返事をする。この二人は夜にクルト君に槍の使い方を教わっている、言わばクルト門下生だ。
「そして、後衛だっ! 第一魔法使いにカトリナッ!」
「はいっ!」
一際、元気な声がギルドを席捲する。自信満々の表情のカトリナちゃん。むむむっ。
「第二魔法使いにデリアッ!」
「はいっ!」
レベルではカトリナちゃんに及ばないけど、元気の良さでは負けるもんかっ!
チラリとカトリナちゃんの方を覗うと、何とドヤ顔!
くっそー、今は後塵を拝していますが、追い付いてやりますよ。そのうちに……
「後衛の最後、僧侶のパウラッ!」
「はい……」
うーん。ちょっと元気なかったかな? まあ、私とカトリナちゃんが威勢良すぎるという見解もある。現にゼップさんは特に注意もしない。
「以上の六名に『護衛クエスト』を発注するっ! 出発は明朝。各自準備おこたりなきように」
「はいっ!」
◇◇◇
「ふーん。十年後に僕らに肩を並べそうな有望株で固めてきましたね」
腕組をしてしきりに頷くハンスさん。
「それもあるけどね。もう一つ理由があるようだよ」
そんなハンスさんに声をかけるナターリエさん。
「ほう。何か気づいたの?」
「六人の出身地さ。クルト君はロスハイムだけど、デリアちゃんはノルデイッヒの市民権を持っていた。私の姪のカトリナは郊外のカロッテ村出身。ヨハン君とパウラちゃんはシモーネさんがオーベルタールから『武者修行』のため、送り出してきた子たち。カール君はファスビンダーから自ら希望してここに来たんだよね」
「この辺の各都市、村の出身者を出来るだけ漏れのないよう選抜した。つまりこれは……」
「恐らくゼップさんはノルデイッヒのトマスさんとの会談にこの子たちを立ち会わせるつもりだと思う」
「その意味は?」
「今回のことをこの地方全体の将来のことと繋げて見据えているのじゃないかな?」
「ふーむ」
◇◇◇
今回は私とカトリナちゃんが一緒にクエストに参加する初めてのケース。
ギルドの受付はラーラちゃんとメラニーちゃんに託した。この二人、シモーネさんがオーベルタールから『武者修行』のため送り出してきた子の中でも、際立って会計事務が優秀だ。
私とカトリナちゃん抜きで独り立ちできるようになるチャンスである。それにいざとなれば、クラーラさんがいる。うーん。ロスハイムのギルド、層が厚いね。
かくて、ハンスさんの言うところの「十年後の最強パーティー」はノルデイッヒに向かって出発した。
どうかなとも思ったが、ゼップさんはさすが昔取った杵柄。私たちに負けない健脚。これなら歩く方は心配いらない。
戦闘の方だけど、正直、ロスハイムの周辺にいるような「魔物」や野盗はこのパーティーの敵ではなかった。
私とカトリナちゃん、パウラちゃんは全くもって出番なし。
何でって、前衛の三人は敵を確認するや否や突撃。得物たる槍を振り回すわ、突き刺すわで、あっという間に相手を駆逐する。
少し知恵のある「魔物」や野盗は、向こうの方から近づいてこない。