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聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します  作者: 陽炎氷柱
第三章

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58.黒霧の蝿2

 再び宙に逃れた蝿だが、その動きは明らかに鈍くなっている。ちゃんと魔法が効いている証拠だ。

 私は蝿に向かって手をかざし、狙いを定める。今度は迷いなく、炎の上級魔法を使う。



「一気に焼き尽くすわ――フレイムバースト!」



 呪文を口にするのと同時に、蝿は爆発したかのように燃え上がる。通常の火魔法をはるかに凌駕するその勢いに、蝿は咄嗟に逃げようと身をよじる。



「ギィィィィ……!」



 耳障りな金属音のような叫び声を上げながら、蝿は炎に飲み込まれていく。わずかに治癒魔法が込められた炎は、力強く燃え上がる。

 やがて蝿の巨体は先ほどの足のように大きく揺らめき、一瞬膨張したのちに霧散した。魔法の炎は対象を失い、他の調度品を燃やすことなくわずかな火の粉を残して消える。

 主体である蝿が消えたことで、同時に部屋に渦巻いていた黒い霧も綺麗さっぱりになくなった。

 完全に消滅したのを確信して、私は急いで膝をついてうずくまっているミハイルを覗き込んだ。



「ミハイルさん、怪我は!? 見せてください!!」



 そう尋ねれば、ミハイルは顔をしかめながらも、表情を和らげて笑ってくれた。



「……うん、おかげで大丈夫だ、もごっ!?」

「大丈夫なわけないので大人しく丸薬飲んでくださいね」



 治癒魔法で怪我はかなりふさがっているとはいえ、あんな状態だったのだ。今も血が止まっていないし、どう見てもやせ我慢である。

 鞄から丸薬を取り出して、大口を叩くその口に放り込む。

 苦さに呻くミハイルは水なしで何とか丸薬を飲み込み、その傾国の美貌に涙を浮かべた。

 ミハイルは口を抑えながら、苦笑を浮かべて私を見上げた。



「コハクちゃん、もう少し優しくしてほしいなぁ。ぼく一応怪我人なんだよぉ」

「苦いと感じるのは生きている証拠ですよ。ミハイルさんみたいな無茶をする人には、このくらいでちょうどいいんです」



 冷静な口調でそう返しながら、今度は止血処置のための布を取り出して彼の腕に巻きつけた。ミハイルが苦笑を深める一方で、その目に少しだけ安堵の色が見えるのを見逃さなかった。

 やっぱり、本当は痛かったくせに。……生きてて、本当によかった。



「……本当に、心臓が止まるかと思いました」

「ごめんね。魔力が足りなくて、ああするしかなかったんだ。君がいれば、きっとなんとかなると思ったし」

「これからは、私もちゃんと戦います。戦えます。……だからこんなの、もうやめてください」



 言葉が上手くまとまらなくて、しどろもどろになりながらも素直な気持ちを口にする。目の前で崩れ落ちるミハイルの姿に、どれだけ肝が冷えたことか。

 ミハイルは驚いたように目を見開いたが、すぐに困ったように笑いながら頷いた。



「前向きに検討するよ」

「検討じゃなくて、ちゃんと約束してください。魔導士らしく、一緒に後ろで戦いましょう」

「はーい」



 肩をすぼめて頷く姿に、少しだけ緊張が解けた。

 戒めとばかりに布をきつく巻き上げて、私は立ち上がった。



「倒せた、のか……?」



 後ろの方でジェラルドは剣を下ろしながら声を上げ、クロヴィスも慎重に辺りを見回す。

 ジェラルドの問いに、私は黒い霧が完全に消え去ったことを確認しながら頷いた。



「ええ、たぶん……もう大丈夫だと思う」



 戦いが終わった後の部屋は、予想よりも荒れていなかった。

 黒い霧の不気味な気配は完全に消え去り、心なしか部屋全体が清浄な空気を取り戻しているように感じる。



「コハク、君の力がなければ、父上はあのまま……本当にありがとう」



 真っ先に国王の様子を確認したクロヴィスは、私に向かって深く頭を下げた。



「いえ、まだ問題は解決していないわ。治療が成功したのは良かったけど、また別の問題が残っているよ。一体どうしてこんな魔道具が国王陛下に仕掛けられていたのか……」

「父上の指輪が一つ、割れていたんだ。状況から考えて、これが魔道具だと思う」



 クロヴィスが上質なハンカチを差し出せば、その上に金色の指輪がのせられていた。リングの部分は問題なかったが、そこについていたと思われる大きなルビーが粉々に割れていた。

 それも地面に落として割れたという感じではなく、まるで内側から外に向かって爆ぜたような壊れ方だ。



「うん、確かにさっきと同じ魔力を感じるね」

「やはりそうか……」



 ミハイルとクロヴィスが話し合っている間、不自然に壊れた指輪を眺める。一体日本円にするといくらだろうかとぼんやり考えていれば、ふとリングの裏に何か傷があることに気が付いた。



(これは……模様?)



 ものすごく小さく、その上擦れていて分かりにくいが、ツタのように見える。凄く繊細に彫られているが、魔道具である以上ただの装飾ではないだろう。

それにどこかでこの模様を見た気がして、妙に気になってしまう。なかなか思い出せなくてじっと指輪を見つめていれば、それに気づいたクロヴィスが首を傾げた。



「何か気になることでもあったのかい?」

「いえ……大したことではないのですが、この模様、どこかで見たような気がして」



 まだ指輪をちゃんと見ていないのか、クロヴィスは険しい表情で指輪に視線を落とす。

 そして一拍後、綺麗な空色の瞳が大きく見開かれる。


いつもブクマ、評価ありがとうございます。

大変励みになっております!


前回間違えちゃって前書きに描いちゃったせいで読みにくかったですよね…今更気づいて悲しみ

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