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聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します  作者: 陽炎氷柱
第二章

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不思議な薬師

 少女と魔獣の気配が完全になくなるまで、息をひそめて寝ているふりをする。

 そうして二人が戻ってこないことを確信してから、私はゆっくりと体を硬いベッドから起こした。



「っ、ぃ」



 頭と体の節々が痛んだが、それは無視した。

 少女のおかげで内臓に違和感はなく、特に深かった切り傷も最低限にはふさがっている。毒のせいで釘を打ち込まれるような頭痛も収まっており、それだけでむしろ快調と言えた。


 ゆっくり周りを見渡す。

 辺鄙な村らしく古ぼけた部屋が目に飛び込んでくる。そう遠くないところに自分と同じように手当てされているジェラルドを見つけて、ほっと息をつく。

 このまま寝かせてやりたいのはやまやまだが、状況がそれを許さない。



「っと、」



 そう思って立ち上がり、立ちくらみをやり過ごしてからゆっくりジェラルドに近づいた。顔色が少し悪いようだが、あの怪我じゃあ仕方ないか。



「ジェラルド、起きてくれ」



 平素であればこれだけで飛び起きていたけど、今日はなんの反応もなかった。少し心が痛むが、そのままもう何度か呼びかける。



「……っ、なにが」



 無理に起こしたからか、少し混乱しているようだ。

 ジェラルドは寝たまま薄目で周りを見渡し、やがて私と目が合う。そして数秒ほど見つめあえば、ハッとしたように体を起こした。



「ぃ、殿下!ご無事ですか!?」

「眠っていたところ悪いね。無事……とは言えないけど、まあゆっくり動く程度なら問題はないよ」



 そういえば、ジェラルドは安心したようにため息をついた。そんな気が抜けた表情を浮かべたのも一瞬で、すぐに真剣な顔に戻っていた。



「殿下をお守りできず、申し訳ありませんでした。この罰は、」

「お前がいなければ、私は死んでいたよ。そんなことより奴らは?」

「フェンリルたちが拘束したあと、俺が止めをさしました」



 その様子だと、ちゃんと形跡も消しおいてくれたようだ。

 一番の懸念が消えて、私が気絶した間のことをジェラルドから聞いた。



「え、彼女、薬師と名乗ったのかい?」

「?はい、自作という薬湯も渡されましたし。素材の匂いしかしないのに味は刺激的でしたが……腕は確かなようです」



 情けなく眉を下げて、ジェラルドは遠い目をした。

 なるほど。ポーションが見当たらないと思ったが、どうやらヤツの自作の薬を飲まされていたらしい。



「意識がない方が良かったですよ。何しろ、俺はあれを飲んでからの記憶がありません。……くそ、まだ口の中が苦い」



 そういって口をもごもごするジェラルドに、気のせいだと押しやった考えが疑問に変わる。



(やっぱり、あの時感じたのは魔力の流れだ)



 陽だまりのような暖かな魔力が体に入り込むごとに、痛みは軽くなっていったことは覚えている。

 途中から意識が戻っていたが、最後まで何かを飲まされることはなかった、と思う。



「薬師、ねえ」



 それが本当なら、とんでもない才能だ。ポーション以外の回復薬が存在しない現在、これは戦況を大きく変えられる切り札にもなりえる。我が国がこれほどの才能を見出したとなれば、手を貸してくれる国は増えるはずだ。

 それに、魔法の腕も申し分ない。うん、情報を信じてここまで来てよかった。



「優しい子でよかったよ。あんなことがあったのに、私たちを入れてくれるなんて」

「そのことですが、どうやらコハクさんはここに住んでいないそうです。彼女は」

「私たちが探しにきた”森に棲んでいる薬師”だろう?さっき使い魔に乗って帰ったところを見ていたからね」



 ジェラルドの言葉をさえぎる。

 今考えれば、あの魔獣が私の狸の寝入りに気付かなかったのは”苦すぎる薬湯”のせいだろうな。



「見ていた!?その、殿下はコハクと話をされたのですか?」

「いや、寝たふりをしたよ。あの時はぼんやりしていたし、まともに会話できるとは思えなかったからね」

「俺もその方がいいと思います。コハクを信用していないわけじゃないですが、込み入った話ですし」



 それに、ここは彼女が借りている場所であるのは確かだ。

 怪我が完治するまではチャンスも多いだろう。先にこの村で彼女の話を聞いた方が良さそうだ。なにしろ国の諜報隊でも彼女の過去を調べられなかったんだから。



「よし。今から私たちは、黒い死から逃げてきた中級貴族とその護衛だよ。それが途中で盗賊に襲われて、この村に流れ着いたところを彼女に救われたってことで」



 この方が警戒心なく情報を引き出せるだろう。彼らは貴族なんてみんな同じ生き物だと思っているし、怪しまれることはないはずだ。



「え"!殿下、外に出るおつもりですか!?」

「自分の足で回った方が確実だからね。まあ、お前がもうちょっと社交的で噓をつけるんだったら、私も別の手を考えるけど?」

「……精進させていただきます」

「ここで任せろって言わないのがお前のいいところだと思うけどね」



 渋い顔をしたジェラルドを置いて、私もベッドに横になる。

 いくらかまともになったとはいえ、疲労がたまっているのは確かだ。やることが定まれば、早めに寝て回復に努めた方がいい。



(わざわざ防御結界と音消しの魔法もかけてあるとはね。世間知らずなのかお人好しなのか)



 とはいえ、そのおかげで私たちは安心して休めている。あの追手を簡単に退ける魔法の腕は素直に感心出来るものだ。機会さえあれば、我が国の力になって欲しいとさえ思う。


 そう考えながら、私は再び意識を手放した。


長らく開けてしまいました!

コンテスト用の作品執筆に追われてこちらの投稿を休んでおりました(´• • )


いつも読んでくださってありがとうございます!

ブクマや星、誤字報告大変嬉しいです!

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