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聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します  作者: 陽炎氷柱
第二章

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34.飲めないなら溶かしてしまえばいいじゃない

 重傷者が出たときに備えて、薬局の奥には休憩室がある。

 といっても保健室のようなこじんまりとしたもので、ベッドだって寝れる程度の物が四つあるだけだ。一応プライバシーに配慮してベッド同士を木の板で隔てているが、現時点まだ使われたことはない部屋である。



 金髪の青年を薬局の簡素なベッドに寝かせて、どこか挙動不審な少年にも横になるように促す。やはりまだ私のことを信用してないのだろう、彼は頑なに首を縦に振らなかった。


 それどころかそのままずっと立っているような雰囲気だったので、邪魔だと言って何とか座らせた。よくあの怪我と出血量で強気に出られるものだ。しゃべる度に痛そうにしているのに。

 色んな意味で見張りとしてフブキを残して、私は丸薬を取りに部屋を離れる。普通の丸薬しか残ってないから、丸薬自体に治療効果は期待できない。こっそり治癒魔法をかけないといけないんだけど、彼らは村人と違って簡単には誤魔化せないだろう。



(治さなきゃ命が危ないのに、治し過ぎても怪しまれるとか塩梅が難しすぎるでしょ!)



 あの少年も気を失ってくれるのが一番楽なんだけど、そんな都合のいい事があるはずもない。警戒心が丸出しだし、なんなら先に丸薬をのむとか言いそうである。



「そうだ、気絶してるから丸薬のままじゃ飲めないじゃない!」



 無理に飲ませても、逆に丸薬を喉に詰まらせてトドメを刺しかねない。あとは砕いた欠片を何回かに分けて食わせる手もあるが、何回も魔法を使えば当然バレるリスクが上がるから却下。

 他は水に溶かして薬湯として飲ませるかだが……まあ、気絶している状態ならどれだけ苦くても問題ないか。

 そう考えた瞬間、私は頭の中で電流が走るのを感じた。


 __今のうちに水に溶かして治癒魔法をかけておけばバレないのでは!?


 今のところ、付与魔法はなぜか私が”作った”ものにしか使えない。

 ただの水に魔法をかけることはできないが、私が混ぜて作った薬湯なら問題ないはずだ。正しい飲み方を知らないんだから、少年に薬湯を渡しても問題ないだろう。

 聞かれたときは「とても飲み込めるような怪我ではなかったので」とでも言って誤魔化そう。

 苦いのは我慢してもらうとして!


 そうと決まれば、私は流しに行って洗ったばかりのコップを二つ取り出す。

 そして水魔法で水を出したら、空中で球体を保つように調節する。失敗して薬局を水浸しにしないように意識を集中させつつ、火魔法を使って加熱する。数秒もしないうちに球体になった水から湯気が立ち上がり、かなりの温度になったと分かる。


 魔法で出した水はとても綺麗だから、沸騰していなくても問題ない。火魔法を止めて、私は水の球を二つに分けてコップの中に入れる。うん、意外にもいい温度だ。



(本当は目の前で丸薬を混ぜた方が良いんだろうけどね)



 ちゃんとした薬湯に見えるように、一つのコップに丸薬を何個もいれる。

 どんどん青汁のような色合いになっていくそれに気持ち強めに治癒魔法を練り込んでやれば、案の定ちゃんと成功している手ごたえがあった。正直匂いと色に目をつむれば、改良版丸薬効果を望めるだろう。

 ……色と匂いが本当に酷いけど。



「砂糖も牛乳もないから、素材の味百パーセントって感じね。うう、まるで雑草にハーブを添えたような苦みだわ……」



 私は絶対に飲みたくないが、まあ死ぬよりはマシだろう。私は絶対に飲みたくないが。

 完成した治癒魔法がかかった薬湯を持ち、私は優しさに溢れた笑顔を浮かべる。毒と思われたくないので。



「お待たせいたしました。薬を持ってきましたよ」

「……薬?」



 部屋に戻れば、とっくに私に気付いていたフブキが窓辺に避難していた。

 白銀の毛におおわれたその顔を心なしか青ざめていて、なるほどすでにこの薬湯の匂いにやられてしまったらしい。少しもこの匂いを体内に入れたくないようで、口をきっちり閉じていた。


 少年はまだこの匂いに気付かないようで、不思議そうに眉をひそめただけだった。



「その、気遣いは本当に嬉しいが、俺たちの怪我は上級ポーションじゃないと治らないと思う。休める場所を提供して貰っただけで十分だ」



 薬という言葉に、おそらく少年はポーションを連想したのだろう。

 そしてこんな村にはいいポーションがないと考えた上で、珍しく申し訳なさそうな顔をした。



「私も薬師ですので、怪我の具合くらい分かりますよ。これはポーションじゃなくて、私が開発した薬です。ほら、オリジナルレシピ持ってるってさっき言いましたでしょ?」

「……あの噂は本当だったのか」

「噂、ですか?」

「ああいや、何でもない。それより、それは本当に__」



 何か言おうとした少年は、私に手渡された薬湯を見て動きが止まった。

 そして数秒後。

 汚い悲鳴が薬局に響き渡り、フブキが耳を抑えて倒れた。




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