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一人目 若い男と仲間たち

行政官「それでは、面接を始めたいと思います。えーっと、その前に一点だけ」


行政官「どうして3人でいらっしゃったんですか?」


若い男「ほら言われた」


戦士「いや、しかしだなあ」


魔法使い「心配だし・・・」


行政官「お答えいただけますか?」


若い男「すみません。彼らは、志同じく共に魔王を打倒すと約束した俺の仲間達です」


大司教「仲間たち?」


若い男「ええ。体の大きい男が戦士。ちっこいのが魔法使いです」


剣聖「この面接を受けるのは、貴様で間違いないのだな?」


若い男「はい」


剣聖「・・・何故、一人で来なかった」


若い男「すみません。俺のことが心配だって言って付いてきちゃったんです」


行政官「ついてきちゃったって」


戦士「こいつが勇者に選ばれるかどうか、この目で結末を確かめにきた」


魔法使い「ごめんなさい、彼は、その・・・なんというか、ちょっと頼りないので・・・心配で」


行政官「ま、まあ、いいでしょう」


行政官「それでは、始めましょうか」


行政官「貴方が新たな勇者たるかどうかを見極める面接を」



――――――――――――

一組目 若い男と仲間たち

――――――――――――


大司教「あれは、ダメだな。勇者には不適格だ」


行政官「いきなりですね」


大司教「先代勇者はたった一人で、魔王と戦い打倒したのだぞ」


大司教「先ほどの若い男は何だ、仲間だなどと甘っちょろいことを言いおって」


大司教「ピクニック気分で、魔王を討伐できると思っているのではないのか」


行政官「それは、女神正教の大司教としての意見ですか?」


大司教「馬鹿なことを言うな!これは、単なる個人的な意見じゃ」


行政官「なるほど、では記録には残しませんので」


大司教「そうしてくれ。・・・まったく近頃の若い者たちは。勇者を舐めているのか」


剣聖「・・・」


剣聖「・・・いや、大司教。アンタこそ魔王を舐めているんじゃないのか」


大司教「なんだと!?」


行政官「どうどう」


剣聖「・・・アンタも知っているだろう」


剣聖「魔王は復活した」


剣聖「あの勇者との戦いで、確実に致命傷を浴びたはずの男がだ」


大司教「もちろん、知っておるわ。それがどうした」


剣聖「人は失敗を糧に成長する、ならば魔物はどうだ?」


大司教「魔物など・・・人と獣とを同等に比較してどうなるというのだ」


剣聖「獣とて学ぶ、昨日罠にかかった鹿は明日罠を避ける」


剣聖「高位の魔物は、人より優れた知能をもつ。現に魔王はそうであった」


大司教「・・・」


剣聖「死を経験した魔王。ただでさえ厄介な男が、さらに経験を積んだとしたら?」


行政官「魔王は、前回より強くなっていると?」


大司教「なんの根拠もない。ただの推論ではないか」


剣聖「冒険者は常に最悪を想定する。そうしなければ生き残れないからだ」


剣聖「・・・魔王も強くなっている。そう考えて、我々は事に当たるべきだ」


剣聖「なれば、新たな勇者にも更なる力が必要だ」


剣聖「そうだな・・・例えば、常に背中を任せられる仲間とかな」


行政官「一理ありますね」


大司教「・・・ふむ、確かに軽率な発言であったかもしれぬ。すまぬ」


大司教「先代勇者の用いた手段に、新たな勇者が準じる必要はない・・・儂は、先代勇者の成し得た奇跡に目がくらんでいたようじゃな」


剣聖「伝統や慣例に縛られるのは、教会の悪いところだ」


大司教「先ほどのは、儂個人の意見じゃ。教会は関係ないわい・・・」


行政官「剣聖殿は、あの若者を見てどう感じられました?」


行政官「私や大司教様は、戦いに関しては素人ですからね。是非、プロの御意見を承りたいのですが」


剣聖「・・・剣の冴えはなかなかのものだったな」


行政官「ほお」


剣聖「ただし、絶対的な強さを持っているわけではない・・・若いから今後の成長に期待は持てるのだが」


行政官「現時点で言えばどうです?先代勇者と比べて」


剣聖「遥かに劣るな」


行政官「なるほど」


剣聖「一つ二つ死地を繰りぬけることができたなら、あるいは・・・」


剣聖「まあ、勇者として認めて差支えは無いほどの腕前ではあった」


大司教「それって、どれくらいの強さなんじゃ?」


剣聖「・・・やり方次第では前回の魔王から逃げおおせるぐらいはできるやもな」


大司教「・・・それって、すごいのか?」


行政官「さあ?」


剣聖「強さなんて、そう簡単に測れるものではないということだ」


行政官「じゃあまとめると、剣聖殿は勇者として認めて差し支えない。ということでよろしいですか?」


剣聖「そのとおりだ」


大司教「行政官、お主の意見はどうなのだ?」


行政官「私ですか・・・うーん・・・」


行政官「あの若い男には、勇者の印が見当たりませんでしたよね?それが気がかりですね」


剣聖「確かに、あの若者には勇者が持つという鳥型の印はなかったな」


大司教「神託で言われている『勇者の印』か?神託は正直、当てにしてはあかんぞ」


剣聖「・・・大司教のアンタが、それを言うのか」


行政官「神託は私たちが唯一持つ、勇者の身体的特徴を記したものですよ?だいたい、神託を役所に持ち込んだのは教会じゃありませんか」


大司教「神託と言っても、そんな便利なものでは無いからのう」


大司教「神託というものは大抵、いくつかの単語やイメージが降りてくるだけのものじゃ」


大司教「それを、教会の神官共が云々かんぬん言いながら尤もらしい文章に書き起こすからな。誤訳、意訳はあたりまえの世界じゃ」


行政官「えぇ・・・」


大司教「それに、ほら先ほどの若い男じゃが。頬に黒子が三つほど並んでおったろ?」


行政官「確かに、ありましたね」


剣聖「あれを、勇者の印言い張るつもりか・・・」


行政官「ちょっと、無理がありませんか」


大司教「お主らは、夜に空を見上げたことがあるか?」


行政官「そりゃあ、まあ」


大司教「想像してみるがいい、お主らの目には何が映る?」


剣聖「・・・月か」


大司教「残念!」


剣聖「む」


行政官「星?」


大司教「お、惜しいぞ」


剣聖「彗星だ」


大司教「大外れじゃ」


剣聖「むぅ」


大司教「よく思い起こしてみよ、夜空にひしめき合ってる者どもが居ろう」


行政官「星ではなく・・・ひしめき合っている『者』どもですか」


剣聖「宇宙人だな」


行政官「―――星座・・・ですか」


大司教「大正解!」


剣聖「む・・・」


大司教「我らが夜には、数多の神々が。女神正教36柱がおる」


剣聖「・・・?」


大司教「鈍いやつじゃのう、ただの星の羅列ですら神の姿になぞらえられ崇められるほどなのじゃ」


大司教「黒子の並びを、勇者の印に見立てても罰はあたるまいて」


剣聖「お、横暴な・・・」


大司教「ははは、伝統と慣例に習うのが教会じゃ。星座を考え出した、古代の人々に習って何が悪い」


剣聖「・・・ぐぬぬ」


行政官「うーん、まあ言いたいことはわかりました。教会の方から、そのような意見がでるなら是非もないです」


剣聖「では、大司教は彼の者を勇者と認めるということでいいのか?」


大司教「早まるでない」


大司教「儂は反対じゃ」


剣聖「・・・さっきまでの話はなんだったんだ」


大司教「勇者の印など、どうでもいいという話じゃ」


行政官「反対の理由をお聞かせ願えますか?」


大司教「彼らは、決して勇者足り得ぬ」


大司教「なぜならば、彼らは普通過ぎるからじゃ」


行政官「普通じゃ駄目だと?」


大司教「まあ、納得いかんじゃろうな」


大司教「そうじゃのう、儂が勇者に初めて会った時のことを話してやろうか」


――――――


先代勇者が、魔王を討伐し世界を救った褒美として

その功績を国からたたえられ、自治領土と爵位を与えられたのは知っておろう?


しかし、勇者が得たものはそれだけに留まらなかった


それは勇者に取り入ることで、勇者の名誉にあやかろうとする

数多の組織や商会が、こぞって資金援助を申し出た結果

勇者には、小国の国家予算に匹敵するほどの資金が流れ込んだ


そして、勇者に取り入ろうとした有象無象の中には

我が女神正教会も含まれていた


当時、教会は一つの問題を抱えていた

この国の国教である女神正教会は、その根幹を揺るがしかねない事態に陥っていた


それは、勇者の神格化にあった


勇者は、魔王討伐において一つの奇跡を成し得ていた

それは決して魔王を倒したという偉業そのものではない

魔王を倒すことは、いかに難しかろうと、圧倒的な力さえあれば誰もが成し得たことであろうからな

教会が問題視した奇跡とは、魔王を倒すための一つの手段として

彼が、女神からの恩恵の授かっていたことだった


誰もが欲してやまないが、女神正教会の歴史上誰一人として手に入れることができなかったものを

彼は手にしていたのじゃ


勇者の神格化は、魔王討伐後に飛躍的に民衆の間に広まっていった

人々は、女神に祈る時間を削り

勇者を崇め奉るようになっていった


我々は、民衆の教会への信仰心が失われていくことに焦り

一つの判断を誤ってしまった


勇者を教会に取り込むべく

彼を『聖人』に認定し、多額の援助を申し出たのじゃ


教会が、勇者の後ろ盾としての立ち位置をはっきりさせることで

彼の奇跡が、彼自身に拠るものでは無く

女神に、ひいては教会によってなされたと民に再認識させることができると目論んだ


いまとなっては、はっきりと言える

それは、誤りであったと


教会からの強大な支援も加わり、7代遊んで暮らせるほどの資産を得た勇者は、遊蕩に贅を尽くすようになった

王国から得た領地を、雇った執事どもに託してしまい

自身は、明るいうちから酒を飲み

日が落ちれば、日ごと違う女を抱いた


まあ、執事が優秀だったのか領地はうまく収まっていたのだが

そんな自堕落な生活を送る『聖人』を教会は見過ごしておくわけには行かなかった


そういうわけで。当時、異端審問官であった儂は勇者の下に派遣されたというわけじゃ

勘違いするでないぞ、勇者を『異端者』扱いにするために送られたわけではない

『聖人』に認定した勇者を、『異端者』と認めてしまえば

それ自体が、教会の正当性を失いかねないからな


要は、私は勇者に灸を据えにいったのじゃ

異端審問官である私を送ることで、教会の援助を打ち切るばかりか

最悪『異端者』として処断してしまうぞと脅しじゃな


――――――


「勇者殿、いったい何を考えられているのですか!?教会は、貴方に堕落の味を覚えさせるために援助を申し出たのではありませんぞ!」


勇者「そう、ぎゃあぎゃあわめかないでくださいよ」


勇者「昨晩ちょっと張り切りすぎちゃって、貴方の声は頭にぐわんぐわん響くんだ」


勇者「にしても、一晩に5人はちょっとやりすぎたなあ・・・」


「もう少し、立場を考えていただきたい!いくら子を為すためとはいえ節度というものがあるでしょう」


「貴方は仮にも聖人と認められているのですよ」


勇者「ああ、別にそういうつもりじゃないですよ。子供を作る気は俺にはありません」


「なあ!?」


勇者「単に、気持ちいいからやってるだけです」


「そ、それでは生まれてくる子があまりにも・・・」


勇者「安心してください。生まれてきませんよ」


「堕胎は、最も許されざる行いの一つですよ!」


勇者「ああ、もっと前段階の。まあ、えっと何といえばいいかな。やり方次第で、意図的に子を為さないこともできるということです」


「薬品・・・それとも、怪しげな魔法かなにか・・・」


勇者「いえいえ、滅相もない。そのような背徳の術を、教会が許すはずがないでしょう」


勇者「えーっと、そうですね。何と言ったらいいのか。そうそう体位です。体位」


勇者「うん、そうそう。子ができない体位ってもんを俺は開発したんだった」


「そのような自堕落な生活を、民に見られでもしたらどうするのですか・・・?


「もしや勇者殿は、人々を堕落せしめようという魂胆なのですか?」


勇者「人々を堕落ねえ。まさに悪魔の所業というわけですか」


「・・・っ。貴方は聖人ですよ」


勇者「わかっているじゃあないですか、そう。俺は聖人なんですよ」


勇者「教会が認めた、聖人」


勇者「ただそれだけじゃあない。俺はただの聖人なんかじゃあないさ」


「なにを・・・?」


勇者「俺は、女神から唯一力を託された男。つまり、俺は女神に認められたということです」


勇者「教会に認めてもらうまでもないということだ」


「そ、それはあまりにも傲慢な物言いではありませんか!」


「貴方は、教会がこの国のために如何に尽くしてきたかご存じないのですか!?」


勇者「別に。教会を貶めているわけじゃあないですよ」


勇者「俺だって、女神正教徒であることには違いない」


勇者「まあ、敬虔な信者と呼べるほどじゃあないが」


「なれば、女神正教徒らしく振舞おうとは思わないのですか」


「女神正教徒は、第一に勤勉であることを求められている。堕落した生活から立ち直るのです勇者様!」


勇者「それはおかしい話だ。俺は勤勉に働いた。そして魔王を倒した」


勇者「今の生活は、その報酬。俺は俺が正当に得た報酬を、使っているだけだ」


勇者「それに、教会の訓戒は教会が作ったまやかしだ」


「!?」


勇者「現に、俺は俺の価値観、倫理観、考え方のまま生きてきて、それを女神に認められた」


勇者「なれば、女神の考える人の在り方は教会のそれとは違っているということだ」


「・・・」


勇者「沈黙は、肯定ととりますよ」


「教会の在り方に疑問を感じるということであれば、これ以上の資金援助は難しいと考えざるを得ませんが・・・」


勇者「構いません。教会からの援助が無くとも、俺はやっていけるだけの資産を得ている」


勇者「それに、貰えるもんは貰う主義ではありますが、どうも教会のそれは施しのように思えて。あまり好きではなかったんです」


勇者「施しをするならともかく、されるっていうのはどうもむずがゆい」


「教会と対立することになりますよ・・・」


勇者「俺は、簒奪者には容赦はしない。魔王がそうであったように、俺から何かを奪うというなら覚悟をするべきですね」


勇者「教会に、その覚悟はありますか?」


「暴力による、ということですか?」


勇者「時と場合によっては」



勇者は、全く話の通じない男ではなかったが

その考え方は、当時の儂からしたら自己中心的で傲慢であるように思えた


勇者の考えは、社会への奉仕の心が欠けていた

この危険極まりない世界において、相互補助は自らが生き抜くために絶対必要な生存戦略

得た報酬を、全て自らのために使うという自己完結的な思想は

絶対強者であるが故の、いわば贅沢ではなかったのであろうか


平和が確立された、今の世でこそ勇者の考え方は指示され得るだろう

だが当時の状況からすれば、勇者の考え方は革新的ともいえた

私が教会側の立場にありながら、勇者の生きざまにある種の尊敬の念を抱いてしまったことを誰が非難できようか

私もまた、若く新しいものに目移りしてしまったのだ


最終的に、教会には勇者と対立するほどの度胸は無かった

何より、自らが認めた聖人を貶めることなどできるはずもない

当然の成り行きであった。


出来たことと言えば、勇者への資金援助を打ち切る程度

それが教会が行える、勇者への精いっぱいで唯一の反抗だったのじゃ


――――――


大司教「私は、勇者とはある種の化け物出なくてはならないと考えている」


大司教「世間一般とはかけ離れた思想、振舞、そういったものが世界をかき回していくのだ」


大司教「普通でないから、やれることがある。異常でなければ成し得られぬこともある」


大司教「魔王を倒すなんてのは、その最たるものではなかろうか」


剣聖「・・・」


行政官「・・・」


大司教「だが、先ほどの若者たちは敬虔すぎる。素直すぎる。いい子過ぎる」


行政官「・・・いいことではないですか」


大司教「ありふれた市民の一人としてはな。だが勇者に課せられた使命は、魔王を倒すことだ」


大司教「戦闘について儂は素人であるが、例え剣の腕に優れようと世界の命運を凡百に頼るのは心もとないのじゃ」


剣聖「・・・」


行政官「うーん、真面目で勤勉なほうが安定的に成果をあげられると思うんですが」


行政官「私個人の意見としても、勇者には真面目で勤勉であってほしいですし」


大司教「勇者に破戒僧であれとは儂も言わんがな、しかし先の若者に勇者と同じことができるとは儂には思えない」


行政官「まあ、言いたいことはわかりました」


行政官「それでは議論は尽くされた。とは到底言えませんが、我々には何にしても時間がない」


行政官「拙速ではありますが、採決にうつりましょうか」


大司教「そうだな、構わないよ」


行政官「既にご存知かと思いますが、この決議は我々3人が全会一致でのみ成立します。よろしいですね」


剣聖「・・・うむ」


行政官「それでは、よろしくお願いします」


行政官「若い男と仲間たち、彼らは勇者足り得るか?」


行政官「可」


剣聖「・・・可」


大司教「不可」


行政官「反対1で勇者認定ならず。それでは、また次回お会いしましょう」



――――――――――――――――――――

一組目 若い男と仲間たち 勇者認定ならず

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