ある夜・天候→曇り 建造物内 陸
ちょっとした説明回です。
「それで、あなたは何でこんなとこにいるのよ?」
青年と少女と女性は、その建物の中の食堂のような場所で、様々な料理を囲んで、話をしていた。
十数分前に大きく腹を鳴らした青年は、女性に頼んで色々な料理を作ってもらっていた。青年は、息継ぎを忘れていそうな、それでも常識的な勢いで食べ物を口に入れていく。
「ングっ。ここの建物で色々やってた人たちの中の一人がサンドイッチ持ってたんで、堪らず摺ったんですよ。食べ終わった頃に見つかって、面白半分で撃ち殺される為に連れてこられたんです」
「そ、それは…大変だったわね」
それしか掛ける言葉が思い当たらなかったのか、それで黙ってしまった。しょうがない事だろう。
青年は、女性が作ったサンドイッチに手を伸ばした。口元に持っていく直前で、青年が、あることに気づく。
「このサンドイッチ、僕が摺ったヤツと同じ作り方されてる…?」
「あら、よく覚えてるものなのね。ここの食事とかは、私が作っていたの。瑪瑙ちゃんの食事も、ね」
女性は少女の方を向いて、ニコッと笑った。少女も、同じように笑う。
何年間か、その様な関係だったのだろう。二人はとても仲がよく見える。
女性の、建物の冷蔵庫内にあった食べ物を粗方使った料理が終え、女性もテーブルにつく。
「なんでちょっと残ってるの?あまり味付けが好きじゃなかったとか?」
「いえ、そういう訳じゃないんです。ただ、芽さんも食べるかなって思ったので、少し」
青年はそう言って、自分の皿に盛ったサラダとベーコンエッグを口に入れた。
「そう、ありがとう」
女性は素っ気無く言い、程よい量が残されたチキンサラダとスクランブルエッグを皿に取り、食べ始める。
「このチキンサラダ美味しい…」
青年の隣では、少女がレタスと鶏肉が刺さったフォークに、目を輝かせている。
「ホントだよね。久々に食べるマトモな食事がこんな美味しいもので良かった…」
二人は、心から幸せそうな様子でそれぞれ食べていた。その様子を見ていた女性は、どこか嬉しそうな顔でそれを見ている。
「あ。瑪瑙ちゃん、このマヨハムサンド美味しいよ」
「え、ホント?分けて分けて!」
そして三人は、ある程度身の上話をした。
少女は、自分が15歳で、7年前にこの建物の部屋に押し込められていたこと。そして、その頃に能力が使えなくなり、顔の右半分が金属板で覆われたと言うことを話した。
7年前に離れ離れになって、顔を忘れた日は一日もない母。
物草な大学生の寮室より酷い環境の部屋で過ごした7年間。
気がおかしくならないように、色々と話をしてくれたりした女性に対する感謝。
そして、自分を連れ出してくれる青年への感謝。
女性は、自分が第一順位亜人であるアンリミデッドで、双子であること。現在23歳で、本当に(丁度青年が壊滅させた)組織で、戦闘に関わることが少なくても活動していたこと。生命線ではあったものの、嫌気が差していたこの組織を潰してくれたことに対する少なくない感謝。
妹に、もう不自由な移動をさせなくていい事への安心。
青年は、現在18歳であること。自分は3年前から、フェンス向こうと呼ばれる裏側の世界にいたということ。毎日の荒んだ習慣に、どうにも心が病んでしまいそうだったこと。この世界から、元の光ある生活に戻れる事への安心。
それぞれが、皆全て、感謝の気持があった。