ある夜・天候→雨 建造物内 伍
「そんな保証、どこにも無いわ。あなたのその能力なら、何も汚さないで私を殺せてしまうでしょう?」
青年の長台詞の間に気を取り直していた女性は、そう言い放つ。今度はその手に銃を持っていないが、代わりに、彼女の肩から、もう一対の腕が伸びていた。
その腕の先についている手は両方とも、親指と人差し指以外を曲げ、その人差し指の先は青年にまっすぐ向いている。
簡単に言えば、銃を撃つジェスチャーをしている。
その指先は、空気の流れが変化しているようで、歪んで見えた。
「(多分、この人は亜人だな。更に言えばアンリミデッド…亜人の中でも第一順位にいる種類。身体変化と能力行使を同時にやってるのが何よりの証拠。第三順位のブランクテッドとか第四順位のクリープテッドはよく見かけたけど、アンリミデッドは初めて見るな。)」
「保証…というより、そうしないって言い張れる根拠ならありますよ。この娘です」
未だ青年のパーカーの裾を握っている少女の頭を、ポンポンと優しく叩く。当の少女は、体を強張らせていた。
「この部屋にいた女の子です。名前は、知ってますよね?僕が言うのもなんですが、この娘に嫌な物を見せたくないんです。これじゃあ、保証になりませんか?」
女性は考え込む。それでも、追加された一組の腕の狙いはブレずに、青年の方を向いていた。
不意に手銃が下がり、女性は一つ、ため息をついた。
「分かったわ。それを保証ってことにしといてあげる。取り敢えず、信じるわ」
女性の声と共に、敵意の無いのを示すように、追加されていた一組の腕が元に戻っていく。
それを見て、青年はかなりホッとした表情をしている。少女は、とても嬉しそうな顔だった。
「でも、勿論いろいろな事はやってもらうわ。何せ居候状態ですもの、家事くらいは当然ね」
「当然です、住まわせてもらうんですから」
と言った。その横で、少女は急に改まった風に姿勢を整えて、
「これからまた宜しくお願いします、内海芽さんっ」
それでも、元気いっぱいな声でそう言った。また名前を呼ばれた女性は、表情を少し綻ばせて、「うん。よろしくね」と言った。そして、女性はすっと立ち上がった。
「さぁ、もうここに用は無いでしょう?早く取れるものをとって行きましょう。金庫室までは案内するわ」
青年は少女の手をとって立たせた。
グゥーーー
「「「………」」」
「今の、誰のよ?」
「私じゃないですよ?」
「私でもないわ。じゃあ誰よ?」
「………すみません、僕です。お腹空いてて…」
青年を除いた二人は、溜息をついた。
読んで頂いた通り、綾斗と芽さんの出会いです。
もし、ここで出会いがなかったら、全く違う話になっていく事でしょう。