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デート編9-3

神無と駅で5分ほど待っていたら母さんと父さんが駅の改札から出てきた。


「母さん、父さん。2日ぶり」

「こんばんは」


「あらーこんばんは。神無ちゃん、今日は前に会ったときよりもさらに美人さんね。ちょっと化粧もしてるし、初めて会ったときの神音ちゃんにそっくりだわ」


「おい、これやばいんじゃ」


神無を見てテンションが上がっている母さんとは対称的に、僕を軽く見た父さんが何かに焦っている様子で母さんに話しかけている。でも、神無に夢中の母さんにはそんな声は届いていない。


「それに比べて優。あなたなんでデートなのに女の子の格好してるのよ。せっかく神無ちゃんがこんなにおめかししてるのに。優は乙女心が全然わかってないわ」


「いや、それはさっき神無に言われて死ぬほど反省したからもう蒸し返さないで」


母さんの方をじっと見ていた神無は僕の袖を掴んで先程買った服を指差す。


「優、急いでこれ着て。これからお父さんと会うみたい」


「え!?」


「あ、そうだったわ。女の子の格好じゃ駄目じゃない!?」


母さんもやっとさっきの父さんの言葉を理解したのか急に焦りだした。


「いやいや、ちょっと待って。なんで神無のお父さんが来るの!?」


「私が呼んだのよ。神音ちゃんも来るわ」


追い討ちをかけるようにさらっと母さんがとんでもないことを言い出した。



「え、なんでそうなるの。神無は知ってた?」


「優のお母さんと会った時にわかった」


母さんの目を見て初めて知ったということか。

とりあえず状況は完全にはわからないけど今すぐ着替えるしかないな。

駅の多目的トイレで急いで着替える。


せっかく神無と家でデートをするために買ったのにここで着るとは思ってもみなかった。

まあ色々買っておいたおかげでこの危機を乗り切れそうだから良かったけど。


靴は男でもおかしくないようなスニーカーだし、胸パットは無理やり水で外したから女装していたことがばれることはないだろう。


トイレから出ると、神無と母さんが待ち構えていた。


「似合ってる」

「ありがとう」


「あら、いいわね。神無ちゃんが選んだの?」


こくっと頷き、神無は僕の後ろに隠れた。小動物みたいで可愛いな。


神無が選んだこの服装は茶色のチノパンに紺色のカジュアルなテーラードジャケットというかなりちゃんとした格好だった。

これが半袖半ズボンとかだったらとてもじゃないが、神無の父さんがいる所に着ていくことはできなかったので神無のセンスにかなり救われた。


「それより、どこでご飯食べるの?」


「ここからタクシーで10分くらいの刹那って店よ。神音ちゃんに今日のことを話したら智和さんが取ってくれたみたい」


僕が着替えたせいであまり時間もなくなってしまったので急いでタクシーを捕まえて店に行く。


高級和食『刹那』

接待や会食で使われる有名人や社長ご用達の料亭だ。


「あいつに選ばせたのが間違いだった」

「すごいわね」


父さんと母さんは良く調べないで了承したのか、店の外観を見て驚いている。


「神無、ここって…」


「いつも、会食でお父さんが使ってるところ」


僕が一生、来ることはないと思えるくらいの高級料亭ということが入る前からわかる。


僕にとっては神無と正式に付き合ってから初めて神無の両親に会う日だから特別な日だ。でも前から付き合っていると思っている神無のお父さんからすれば、こんな料亭に僕たちを呼ぶほど重要な日なのだろうか。


「十川で予約しているものですが」

「十川様のお連れの方ですね。お待ちしておりました。」


僕が色々考えているといつの間にか神無の両親がいる部屋に案内された。案内された場所は格調高い和室でとてもじゃないが高校生の僕がいて良い雰囲気ではない。


「おう、来たか」


「おい、智和。なんでこんな凄い所に呼んだんだよ。緊張するだろうが」


父さんが僕の言葉を代弁してくれた。


「ああ、ちょっと聞きたい話があってな。ここなら他の人間に聞かれることも無いしな」


聞きたい話?まさか僕が女子校に通ってることがばれたのか。

いや、それがばれたならこんな所で会話なんてすることはないだろう。多分道場とかに呼びだされてぼこぼこにされる。


神無のお父さんが中々話を切り出さないので重苦しい空気がこの空間を覆っている。


全員が知り合いなのに何でこんな空気になってしまうんだろう。


「優、大学は行くのか?」


えっ?聞きたいことってこれのこと?

こんな只の世間話を聞きにこんな料亭に呼んだのだろうか。


「はい、今のところは進学を考えています」


「そうか、ならば大学在学中に結婚とかは考えているか」



「学生結婚ですか。いいえ、それは考えていないです」


「なんだと?神無のことは遊びだったのか」


持っている箸が真っ二つに割れそうなくらいの怒りを僕に向けた。


「おい、この前も言ったが気が早すぎんだろ」


父さんが珍しく僕のフォローをしてくれているが、ここは僕がちゃんと答えないといけないところだ。


「いいえ、僕がちゃんと稼ぐことができない大学生のうちは結婚は考えていないという意味です。将来は神無と結婚したいと思っています」


今、ものすごく恥ずかしい宣言をしてしまった気がする。神無の方を直視することができない。


「ほお。武司、お前の息子は本当に見所があるな」


「おれも少し驚いたが、中々やるな」


母さんはニコニコし、父さんと神無のお父さんは僕の言葉に感心している。


「早苗さん、待っ」

「あらー。昨日付き合ったばかりなのに本当に仲が良いわね。胸焼けしそうなくらい甘いわ~」


神音さんが何かを言おうとしていたが母さんがあまりにも普通に口を滑らせたせいで僕と父さん、神無ですらすぐには気づくことができなかった。


「昨日?付き合ったのはもっと前だろう」


智和さんが怪訝な表情と声で母さんに話しかけたことで、全員母さんがやらかしたことに気付き、再び空気が凍った。

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