寮生活2-3
花宮さんの対応は姉さんに任せることにして、トイレに向かう。
トイレに入り、僕は母さんの言葉を思い出した。
「優。トイレは絶対座ってしなさいよ」
「え、なんで?別に監視カメラがついてるわけでもないし立ってしちゃ駄目なの?」
「家でもたまに、便座あがってることがあったじゃない。一回でも上がってたらばれちゃうわ。掃除のときくらいしか女の子は便座あげないし」
たしかに、女子寮とか学校のトイレで便座があがってたら違和感があるもんね。本当は立ってしたいけど、これからは座ってするしかないか。
葛藤がありつつ用を済ましたが、花宮さんは姉さんと話したいオーラを出しまくってたし、このまま直接食堂に戻るのも少し気が引ける。
18時まではまだ少しだけ時間はあるし、ギリギリまで自分の部屋にいることにしようかな。
2階の部屋に戻ろうと階段に足をかけると白いワンピースをきた銀髪の少女がこちらを見ていた。
白い肌、絹のようなきれいな銀髪。
全体的に色が薄いためより一層際立った赤い瞳に僕は目を離すことができなくなった。
僕がぼーっと見ていると物語の世界から出てきた妖精のような見た目をしている彼女はゆっくり階段を下りてきて不思議そうに僕を見つめる。
「誰?」
「今日引っ越してきた2年生の伊澤優です」
「十川神無。優と同じ2年生、よろしく」
十川さんは静かに淡々と話してきた。
身長は150センチもなく中学生くらいに見えるけど何か不思議な魅力がある女の子だな。
「うん、よろしくね。十川さん」
「神無」
「え?名前は聞こえてるよ。十川さん」
「神無でいい」
この子も押しが強いな。
このまま話していても彼女は折れそうにないし僕が折れることにしよう。
「うーん、じゃあ神無」
「うん」
初めて女の子のことを名前で呼んだ気がしてちょっと気恥ずかしい。
彼女がこくっと頷き急に僕のお腹辺りに抱きついてくる。
あまりに急なことで混乱してしまった。
「とがっ、神無!?」
「優って…」
「どうしたの」
「私は面白い人好き」
声に抑揚が無いので神無が何を考えているのかを掴むことができない。
一瞬僕の大事なところに神無の体が当たったかと思ったけど、触られても形がわからないように対策はしているし、ばれてはいないだろう。それでも急に抱きついてくるのは心臓に悪いからやめて欲しい。
「優はなんで部屋に戻ろうとしてたの?」
そのあと、花宮さんと姉さんが話していて、戻りづらいということを説明したが、彼女は表情を変えることはなかった。
「見てて面白い。行こ」
僕の手を取って神無は食堂に僕を連れていこうとする。無理やりほどくこともできたが、神無がいれば気まずくないかと思い、おとなしく食堂に戻ることにした。