文化祭編8-9
今回は優の両親視点の話になります。
〈伊澤武司視点〉
とりあえず屋上まで来たが、智和はどこか不服そうだった。
「状況が良くわからないんだが、お前はなんでこの学校にいるんだ?」
本当は優の女装を見て、からかってやろうと思って来たが、こいつは男の格好をしている優のことを知っているし、素直に言わないほうがいいだろうな。
「俺の娘がこの学校で教師をやっててな。久しぶりに日本に帰ってきたからちょっと会いに来たんだ」
「優愛ちゃんか?あの子ももうそんな年なのか」
「ああ、早いよな」
「そうだな。そういえばこの前お前の息子とあったぞ」
それはさっき優本人から聞いた。
「ああ、そうらしいな」
「あいつは中々見どころがある。度胸もあるしかなり強い」
「確かにあいつはそこそこ強いが、何で知ってんだ?」
「試合をしたからな」
「おまえ、俺の息子を殺す気だっただろ」
「神無との出会いがナンパみたいなものだったと聞いて、初めは捻り潰すつもりだったな」
優のやつよくそれで無事だったな。歳をとったとはいえ今でもこいつは強いだろうに。
「まあそのおかげであいつの強さはわかった。神無が優と結婚するときは婿養子としてうちの会社をついでもらおうと思っているがいいか?」
「おいおい、気が早すぎるだろ。まだ高2だぞ。」
「神無はもう結婚できる歳だし優もあと一年で結婚できるだろう。考えておいて損はないはずだ。それに俺やお義父さんに物怖じせず向かってきて、神無と神音にも気に入られる男はもう見つからないかも知れないしな」
確かに大企業の社長の一人娘と付き合ったり結婚するやつで裏がないやつはそうそういないだろう。
そういう下心があれば神音さんが見抜いて、交際を許すことはないだろうしな。その上、こんなゴリマッチョの男を目の前にして自分の意見が言えるやつとなれば見つからない可能性はありそうだ。
あいつ偽彼氏って言ってたけどばれたらマジで殺されるんじゃないか。
神音さんにはばれていて、遊ばれているような気がするけど。
「まあ、俺はあいつの自由にやらせるだけだ。無理やり結婚させるつもりなら俺がとめるが本人がその気になれば婿養子でもなんでもあいつの自由だ」
「そうだな。ところで、なんで場所を移動したんだ?」
「俺の息子とおまえの娘が付き合ってるなんて話を、おまえの娘のクラスメイトがいる教室でできないだろう」
「たしかに、そうだな」
本当は優の姿を見せたくなかったからだがなんとか誤魔化せたようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
〈早苗視点〉
「神音ちゃん?」
神音ちゃんが優の目を見てから、教室の中に入ろうとしないで立ち止まっている。
「早苗さん、ちょっと待ってください。やっぱり私達も外に出た方が良いみたいです」
「え、さっきはここで大丈夫って」
「すみません、ちょっと状況が変わってしまいました。」
神音ちゃんは昔から不思議な力を持っている人だし、ここは素直に言うことを聞いた方がいいかな。
「わかったわ。外に出て話しましょうか」
結局、私達は教室から出て学校の庭のベンチで話をすることにした。
「なんで場所を変えたの?」
「神無に私が見てしまったことを読まれたくなかったので」
「あー神無ちゃんもあなたと同じ力を持ってるのね」
「そうなんですよ。優の顔を見たときに神無に伝わったらいけないものも同時に見えてしまったので」
「なるほど。神無ちゃんが優のことを見ないように気をつけているのに、神音ちゃん越しに読めてしまったら可哀想ってことね。他人から見たら夢のような力でも良いことだけじゃないのね」
「はい、特に二人いると大変ですね」
「それで、何を読んだの?私今の状況あまり把握していないのだけど」
「実はですね~」
それから神音ちゃんは嬉しそうに、優が偽彼氏として十川家に挨拶をしに行ったところから劇で告白の返事をすることまで教えてくれた。
「そんな面白いことになっているのね。優はどっちを選ぶの?見えちゃったんでしょ?」
「私はもう見えてしまいましたけど、それはお楽しみにした方がいいと思いますよ。第三者から聞く話でもないと思うので」
「そうね、文化祭が終わったあとも何日かは日本にいるし、その時に優から直接聞くわ」
「ええ、その方が良いです」
神音ちゃんは表情を崩してはいなかったがどこか悲しい感情が伝わってきた。
優が神無ちゃんを選ぶのか一ノ瀬ちゃんを選ぶのかは私にはわからないが、どちらの結果だとしても、神音ちゃんは娘の口から聞きたかったはずだ。
「そうよね。でも見えてしまったものはしょうがないわ。久しぶりに会ったし、まだまだ話したりないから飲みにでも行こっか」
「早苗さんのそういうところ好きです。じゃあ旦那を迎えに行って飲みに行きましょうか」
「そうね」
優がどちらを選ぶのかはわからない。
でも、優自身が決めることだし、結論が出るまで楽しみに待つことにしようかな。




