文化祭編8-7
告白をされてから数日が経った今でも休み時間の度に色々な人に告白の件について聞かれる。流石に毎日言われると疲れてしまう。昼御飯は生徒会室で食べようかな。
「会田さん、今日の昼は生徒会室で一人で食べるね」
「了解~。最近疲れてそうだしゆっくり昼寝とかしてきたら」
「うん、そうする」
午前の授業が終わったと同時に教室から出て生徒会室に向かった。こういう時だけは生徒会長になって良かったと思う。
生徒会室で弁当を食べようとしたら、ドアがノックされた。
誰だろう?昼休みに僕がここにいるのを知っている人は会田さんくらいしかいないはずなんだけど。
「はい、開いてますよ」
ドアが開くと、今はあまり二人きりで会いたくない人がいた。
「やっぱり居ましたね」
「一ノ瀬さん。なんで生徒会室に?」
「そんなの伊澤先輩に会いに来たからに決まってますよ」
「そっか。ここにいるってよくわかったね」
「教室に行ったらいなかったので、ここだと思いました」
たしかに僕が行くとしたら生徒会室かトイレくらいしかないしすぐわかるよね。
「伊澤先輩、前に迷惑がかかるから誰とも付き合えないって言ってましたよね」
いきなり、直球すぎる質問が飛んで来た。
「うん…そうだね」
「それは今も変わってないんですか?」
「今でもそう思ってる」
「それだと十川先輩も私も振るってことですよね」
「…」
何も答えることができずに無言になってしまう僕を特に気にすることなく一ノ瀬さんが話し続ける。
「確かに他の人と付き合ったら後から迷惑をかけるかもしれませんけど私達は男だって知ってるから、付き合えるじゃないですか?」
「それは関係ないよ。バレたら迷惑をかけるのは同じだし」
「全然違いますよ。私達は覚悟して付き合うんです」
「それでもだよ。神無と一ノ瀬さんは大企業の一人娘で将来が期待されているのに僕なんかと付き合って迷惑をかけるわけにはいかない」
自分でも情けないことを言っている自覚はある。でも、僕と出会ったせいで後々迷惑を掛けるわけにはいかない。
僕がそれだけ言うと無言で一ノ瀬さんが近寄ってきた。目線をあわせなくても怒っているのが伝わってくる。
触れるくらいのところまで近づかれ、一ノ瀬さんの腕が振り上げられた。
平手打ちされると思って、反射的に目を閉じるとほっぺたが潰されている感覚がした。
「え?」
目を開けると両手で頬を挟まれていて、目を逸らせない状況になっていた。
「こっちを向いて話しましょうよ。
私の価値観を伊澤先輩が勝手に決めないでください。私は伊澤先輩と付き合えるならどんなことになってもいいと言ってるんです。私にとっては迷惑じゃないんですよ。それは十川先輩も同じです」
今日、初めて一ノ瀬さんの目を見た。
僕は神無みたいに目を見るだけで考えていることはわからない。でも、今一ノ瀬さんが本当に一番言いたいことはわかった。
『本心で返事をくれないほうが迷惑だ』
『言い訳しないで答えを出せ』
と伝わってきた。こんな目を見せられてちゃんと返事をしないのは男じゃないよな。
「ごめん。ちゃんと自分に素直になって返事をするよ」
「当たり前です。だいたい美女二人から告白されたんだから喜んでくださいよ」
納得してくれたのかやっと一ノ瀬さんは僕の頬から手を離してくれた。
「いや、驚きのほうが大きかっただけですごく嬉かったよ」
一ノ瀬さんがきょとんとした表情を浮かべてこちらを見ている。
「そうなんですか。普段は顔に出やすいのにそんな時だけ出ないのはずるいですよ」
「いや、急に二人から告白されたら驚きのほうが勝つよ。二人ともすぐに教室から出たし」
「まあ、それはそうですね」
「そういえば劇のことなんですけどちょっと変更してもいいですか?」
一ノ瀬さんも恥ずかしかったのか、急に話題を変えてきた。
「え、今から?」
文化祭まであと数日だけど今から間に合うのかな。
「はい、十川先輩と台本を直すことになる天野先輩はちょっと大変になるかも知れませんが多分オッケーしてくれます」
「二人が良いなら僕は大丈夫だよ」
「じゃあ、私から伝えておきますね」
結局、昼休みのギリギリまで一ノ瀬さんと話していたので弁当は食べられなかったし、昼寝もできなかった。でも教室から出る前よりも元気になっていた。
教室に戻ると、会田さんが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
「なんかさっきより元気になった?」
やっぱり僕って顔に出るんだな。神無とか一ノ瀬さんには完全に筒抜けなのも納得できてしまう。
「うん、決心がついたからね」