後輩6-14(花宮葵視点)
この話は花宮葵の過去の話になります。
伊澤先生と初めて会ったのは1年前の丁度今ごろで、私が通っていた中学の屋上だった。
その頃の私は外部進学をするかこの高校に内部進学をするか、かなり迷っていた。内部進学を迷っていた理由はとにかく同級生と話が合わなかったからだ。
そもそも、中学生なのに海外旅行がどうとかパーティーのドレスの色はどうとか、そんな話をされてもわかる訳がない。
私の家は世間一般の中では平均くらいの家庭だが大手企業の社長令嬢や医者の子供などがほとんどを占めているこの学校の中では貧乏人のレッテルを貼られていた。
ただ、私の成績はトップクラスで特待生として、学費免除をされていたので、お金に関してはそれほど問題はなかった。
両親からすれば内部進学をしてくれれば今のようにほとんどタダで、最高峰のお嬢様学校に娘がいけるのだから内部進学を望んでいるだろう。
担任も学力や部活に秀でている生徒は無理矢理にでも内部進学を勧めるような人だった。
そのため、三者面談でも私の話など聞いてもらえず、外部受験も考えていると言っても担任と親は内部進学だけ考えていればいいと言って聞く耳を持ってくれていなかった。
三者面談が終わり、母さんとは一緒に帰らずに屋上に立ち寄った。
友達ができないと言っても、麗ちゃんとだけは仲が良かったし勉強面でも特に不満はなかったから内部進学をしても良いという気持ちもあった。でも、母や担任に決められたレールの上で動くのが異常に嫌だった。
私の意見を全く聞かない母親と担任の言葉を思い出すと腹が立ってきてしまった。
「私はお前らの操り人形じゃないんだよ」
あまりの怒りで思わず屋上のドアを思い切り閉めて蹴飛ばしてしまった。
「そんなに怒ってどうしたの?」
まさかこんな時間に人がいたなんて。
私が焦っていると、スーツを着た背の高い女性は特に慌てた様子もなく私に近づいてきた。
この学校の先生ではない。こんな綺麗な人がいたら絶対に気づくし一体何者なんだろう。
「何でもないです。お騒がせしました」
「あなた名前は?」
「花宮葵です」
「私はこの学校のOGの伊澤よ。
あの様子で何もないことはないでしょう。愚痴でも何でも良いから話してみなさい」
それから私はなぜか初対面のお姉さんに今までのことを話してしまった。
普段なら見ず知らずの人なんて頼らないのに何故か目の前の女性は私の欲しい答えを出してくれそうな気がしたのかもしれない。
他人からすればくだらないことを延々と言っているはずなのに彼女は馬鹿にするでもなく、淡々と私の話を聞いてくれた。
「なるほどね、それであなたはどうしたいの?」
「どうしたいって…私の自由に決めたいです」
「あなたの学力があれば他の学校に行っても学費の免除が通る高校はかなりあるわ。それか公立校にいってバイトをすれば、余裕で公立の学費と月の食費は自分で払えるわ。
そこまでやれば親は文句が言えなくなる。自由を得るには力と行動が必要なのよ。
操り人形になりたくないなら自分で糸を切りなさい」
たしかに、そうだ。現状に文句ばかりを言ってイライラして諦めて、自分で動けば変えられるという、簡単なことに気づくことができていなかった。
そんな私の顔を見てお姉さんは軽く微笑んでこちらに近づいてきた。
「もう大丈夫そうね。私は帰るわ」
私の頭をポンポンとたたいて、お姉さんは学校の方へ戻っていった。
お姉さんの表情と行動に見とれてしまっていて、私はお礼を言うこともできなかった。
それから私は色々な選択肢を自分で探した。
その中で堀江学園に進むという選択も考慮には入っていたので堀江学園のサイトも調べていた。
「この先生ってあの時の女性じゃ?」
堀江学園の先生だったのか。じゃあ何で内部進学を進めなかったんだろう。
結局私はあの時の女性にもう一度会ってお礼を言いたくて堀江学園への進学を決めた。
そして4月、私は伊澤先生のいる寮に入った。
もちろん偶然ではなく、伊澤先生のことを調べに調べて、寮長をやっていることを知ったからだ。
「伊澤先生、あの時はありがとうございました」
「いいえ。私は特に何もしてないわ。あそこにいたのもたまたま用事があって中学に寄っただけだったし」
「成績優秀者を入れたいはずの堀江学園の先生が、あんなことを言って良かったんですか?」
「あの時は先生じゃなくてただのogとして話を聞いていたからね。この学校の教師として言えば来て欲しいけどあなたの意思を無視してまで迎えたいわけではないわ」
「自分で調べて、悩んでそれでも堀江学園が良いと思ったときだけ来てくれれば良いなと思っていたのよ」
「はい、この学校に入ることも寮に入ることも全部私の意思で決めました」
堂々と言う私を見て少し笑い「ならいいわ」とだけ言って伊澤先生は寮長室に戻った。
読んでくださりありがとうございます。
次の話からは通常回に戻ります!
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