生徒会長編5-8
「あなたが伊澤さんよね」
初めて会ったはずの金髪縦ロールの女の子は見下す様な目でこちらを見ている。
まあこちらの方が15センチは背が高いので、迫力がなく少し滑稽に見える。
そもそも初対面の人に悪意を向けられる様なことはしてないような気がするんだけど。
「ええ、そうですけどあなたは?」
「私は蓮川花蓮よ。最近天野様の周りをうろちょろしていますが外部編入のあなたには次期生徒会長なんてふさわしくないので辞退してもらえるかしら」
突然の喧嘩腰の言葉でやや驚いたが、内部進学組でもないし、ましてや転校生だからこういう批判もくることは予想していた。このお嬢様学校では上級生のことを様付けで呼ぶのはそこまで珍しいことではないが今の口ぶりからすると生徒会長のファンなのだろう。
普段なら選挙を辞退してもいいのだが、生徒会長との約束を守れないと退学になってしまうので蓮川さんには申し訳ないが従うことはできない。
「ふさわしくないかもしれないけど、僕は全力で勝ちにいきますよ。仮に今は認められなくても頑張って認めさせるだけです」
僕の言葉を聞いて彼女は鼻で笑い一気に捲し立ててくる。
「何を言っているの?まるで努力で才能に勝てるみたいないい方ね。努力なんて才能の前には何の意味もないのよ。あなたは去年いなかったからわからないと思いますけど、去年の天野様は才能のない他の立候補者を圧倒的な才能で蹂躙していたわ。外部編入でそんな馬鹿みたいな考えを持っているあなたは生徒会長になる資格も才能もない。私には天野様程ではないけど全てを倒せるだけの才能を持っている」
僕は蓮川さんの胸ぐらを掴みそうになる手を必死にこぶしを握って止める。僕が馬鹿にされたよりも生徒会長の努力が否定されていることに憤りを感じてしまった。去年の選挙は当然見ていないが恐らく彼女は立候補者の中で一番練習も努力もしていたと思う。まだ短い間しか見ていないが、彼女が才能だけではなく、普通の人ができないくらいの努力をしていることを僕は知っている。
才能という一言で彼女の努力がなかったことにされるのは絶対に許す訳にはいかない。
「僕が勝てば努力は無駄じゃないということが証明できますか?」
自分でも出したことの無いような低い声が出てしまった。
僕のイラつきを察したのか彼女は小動物のようにたじろいだ。
「勝てれば認めてあげてもいいわよ。そんなこと絶対にないけどね」
涙声でそれだけ言って蓮川さんは最初に座っていた位置に戻って行った。
「話はまとまったかしら?演説のルールを説明したいのだけど」
蓮川さんが戻ったところで副会長が話しかけてきた。どうやら僕達が口論している間に候補者が揃っていたようだ。
「はい。お騒がせしました」
トラブルがあったのは演説の前までて放送演説自体はつつがなく終了した。
あれだけ練習したから当然と言えば当然だけど自分でもかなり納得がいく演説ができた。
僕が終わったあと、蓮川さんが演説をしていたがあれだけ啖呵を切るだけはありそこそこ上手だった。
全員分が終わり蓮川さんが顔を真っ赤にして再びこちらに来る。
「本番は見てなさい。これで勝ったと思わないで」
いやいや、今日のは負けだって認めちゃうのか。たしかに客観的に見ても圧倒的に僕の方が上手くできていた気はするけど。彼女はそれだけ言い残して放送室を小走りで出ていった。
僕も疲れたし教室に戻ろうとした時にいきなり後ろから耳元に小声で話しかけてきた。
「あなたが怒ったのは雪のためでしょ」
他の人から見れば、僕が馬鹿にされて普通に言い返しただけに見えると思うんだけどなんでわかったんだ。僕が唖然としていると副会長はさらに話続ける。
「私、雪といとこ同士なの。だから雪が努力してるのは知ってる。私も彼女の言葉に少しだけイラついたからすぐわかったわ」
「なるほど、そうだったんですね。でもすみません、放送の前に全体の空気を悪くしてしまって」
「それは全然良いわ。でもあなたが怒りすぎて縦ロールちゃんはずっと泣きそうだったわね。自分から仕掛けておいてあれはちょっと笑いそうになったわ」
縦ロールちゃんって蓮川さんのことだよな。なんかかませ犬っぽいあだ名が付けられたな。
「まあ、縦ロールちゃんのことは気にせず普通に頑張りなさい。私はあなたに生徒会を継いでほしいから」
それだけ言って彼女は僕の肩を叩いて放送室から出た。
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