生徒会長選挙13-8
今日は生徒会選挙の立候補者の選挙ポスターが貼り出される日の朝。
僕は覚えていたが、たとえ忘れていたとしてもこの人だかりを見ればすぐに思い出していただろう。
ポスターの量を見る限り、10人ほど立候補者がいるようだが、明らかに一人のポスターの所にだけ人だかりができている。
僕と神無がポスターの近くに行くと、僕達が見やすいようにポスターの前から人が遠ざかっていった。
案の定、先程まで人がいたところには
『より良い学校生活を』と書かれている一ノ瀬さんのポスターが貼られていた。
選挙のポスターが貼り出され、今日から本格的に選挙活動が始まるというところだが、やはり下馬評通り、一人だけ注目度が違うということがこの人だかりで証明された。
ポスターを見ると一ノ瀬さんの顔が良いというのもあるが、明らかに高校生が作れるような完成度ではない。
まるでプロが作ったかのようなポスターだ。
まず間違いなく神無が作ったものだろう。
去年、僕が神無に作ってもらった時と同じくクオリティが高すぎて他の作品と見比べると浮いている。
だが今年は浮いている物がもう一枚、一ノ瀬さんの横にあった。
『一年生だからできること』という言葉が目立つ百瀬さんのポスター。
神無は雪さんの仕事を手伝っているプロだ。
その神無が作った一ノ瀬さんのポスターに匹敵するようなレベルのポスターを作れる人など、この学校にいるはずがない。
つまり、このポスターを作った人物は神無しかいないということだ。
「神無、これはどういうこと?」
「ポスターを作った。それだけのこと」
「それだけって…僕の言いたいことを神無がわからない訳がないよね」
神無が他の人の手伝いをするのは構わない。だが百瀬さんだけは話が違う。
百瀬さんは僕や一ノ瀬さんの敵のはずだ。何故神無がそんな相手のポスターを作っているのかはわからないし理解に苦しむ。
それに、数日前に僕達の教室に百瀬さんが来た後に神無に何があったのかを聞いても何でもないの一点張りだった。
「敵じゃない。私は平等にしたいだけ」
真っ直ぐ僕を見つめる目。嘘でも僕を挑発している訳でも無い。だが、神無の言いたいことを理解することはできない。
「神無、ごめん。僕には神無の考えがわからない」
「後からわかる」
「今教えて」「嫌」
いつもと同じ声色と無表情でこちらを見ているがいつもよりも頑固だ。
神無はこうなると、てこでも動かない。だが、僕にも譲れないことがある。
僕の声に怒気がはらみ、周りで僕達のことを見ていた生徒のざわめきが聞こえる。
「二人共、こんな所で何やってるの?」
ざわつく他の人達の中に、聞き覚えのある声が混ざっている。
振り向くと困り顔をしている会田さんが立っていた。
「会田さん」
「何があったかは知らないけど、教室に行こうよ」
「いや、まだ神無との話が終わってない」
「伊澤ちゃんらしくないよ。目立ってるしちょっとは落ち着いて。神無ちゃんもね」
「穂希がそう言うなら仕方ない」
渋々了承したと言わんばかりに、神無は頷いて一人で教室の方に向かっていった。
「ほら、伊澤ちゃんも」
会田さんは僕の手を引き無理やり教室へと僕を連れていかれてしまった。
*
昼休みになり、いつも通り会田さんと昼御飯を食べることになったが未だに僕の機嫌が治ることはなかった。
「らしくないね、喧嘩?」
「喧嘩じゃない…と思う。でも、神無が何を考えているのかわからなくてちょっとイラっときた」
会田さんは呆れる様に溜め息をつき、僕の弁当のウインナーを食べ始めた。
「神無ちゃんがわかりづらいなんていつものことでしょ」
「それはそうだけど…」
「とにかく、少しは頭冷やしなよ。百瀬さんが絡むとすぐ動揺するんだから」
「え?百瀬さんのことって言ったっけ?」
「ポスターが貼られている廊下で話すことなんてそれしか無いでしょ。この前百瀬さんが直接ここに来てたしね」
相変わらず会田さんは勘が鋭い。
「神無ちゃんが間違ったことをしないのは伊澤ちゃんが一番わかっているでしょ?」
「そうだけど…なんで百瀬さんに肩入れしているのか気になるし…」
「まあ、痴話喧嘩はほどほどにね」
「そうですよ。伊澤先輩」
「え?」
急に僕の横から声が聞こえたと思ったら一ノ瀬さんが横に立っていた。
お読み頂きありがとうございます!
今回は少し短めですがキリが悪くなるので投稿させてもらいました。
次話はこれまでと同じくらいの文章量になります。




