生徒会選挙13-7
今回の話しも百瀬心視点となります
「一ノ瀬さん……」
十川さんの横に座っていたのは一ノ瀬麗。
まず間違いなく今回の選挙では最も強い相手。できれば放送演説の時に宣戦布告をしたかったのでそれまで会うのは避けたかった。
「ああ、百瀬さんも呼んだんですね」
一ノ瀬さんも私が来ることを知らなかったようだが全く焦っているようにも怒っているようにも見えない。
私だったら仲の良い先輩がライバルに手を貸していることを知ったらそんなに冷静にはなれない気がする。
「うん、2枚分を一気にやった方が楽」
確かに2回に分けるのは十川さんからすれば面倒臭いというのはわかるがそういう問題では無い。
普通ライバル同士で一緒にポスターを作るなんてことはあり得ない。
十川さんはそういうことを気にしない人だということを忘れていた。
だが、頼んだのは私なので文句を言うことはできない。
「心、ポスターどんな感じがいい?」
空気を一切読まず十川さんは私のポスターを作ろうとする。まあ、元々はポスターを作ってもらいにきたので一切間違ってはいない。
「はい、一応簡単にレイアウトだけ考えてきたんですけど」
授業中に書いたラフ絵を十川さんに渡す。こんな落書き見たいな物を先輩に仕上げてもらって良いのだろうか。
「適当にアレンジして作る。時間かかるから麗と話してて」
十川さんはそれだけ言うと、とてつもない速さでパソコンでポスターを作り始めた。
「え?」
キラーパスすぎる。一ノ瀬さんと何を話せば良いか全く思い付かない。
とりあえず適当に思ったことを言えば言いかな。
「十川さんと一ノ瀬さんは何か他の人とは違うオーラがありますよね」
「褒める時の常套句ね。占い師みたい」
「そんな穿った見方をしないでくたざいよ」
一ノ瀬さんの声色は楽しそうだが、端々に威圧感を感じる。
それに他の人にお世辞で言うことはあるが、今のは本心だったのに。
このままだといくら私でも心が折れる。
私らしく空気を読まずに聞きたいことを聞くことにしようかな。
「一ノ瀬さんはなぜ生徒会長に立候補したんですか?お仕事も忙しいんですよね?」
「この学校を支配したいから」
「えっ」
確かに女王様みたいだと、雑誌でも中高生のカリスマや美の支配者とか書かれていたし、そういう趣味があるのかもしれない。
「冗談よ。単純に生徒会にいた一年間が楽しかったから。そんな理由じゃ駄目?」
風貌は綺麗系なのにめちゃくちゃ可愛い子供っぽい理由。男がこの場にいたらギャップで間違いなく好きになると思う。
私の中のイメージだと生徒のトップの座に立ちたいとか支配したいとかの方がしっくりとくる。
「失礼かも知れませんがちょっと意外です。支配のほうが納得できます」
「私のイメージおかしくない?あなたは何で生徒会長になりたいの?」
「入学式の時にも言いましたけど生徒会の皆さんに興味があるからです。それだけじゃ駄目ですか?」
「いいえ、良いと思う」
一ノ瀬さんの真似をして駄目かどうかを聞いてみたがまさか良いと言われるとは思っていなかった。
「良いんですか?」
「理由なんて人それぞれでしょ。そういえば私は葵に頼んだけど百瀬さんは推薦人を誰に頼んだの?」
「知っているかはわかりませんが安西湊って言う一年生です」
一ノ瀬さんが目を丸くして、突然笑いだした。
「ふふっ、やっぱりあなた面白い。十川先輩これって偶然じゃないですよね」
「うん、知っててやってる」
作業中の十川さんはこちらを向かずに反応した。
「知ってるなら丁度いいわ。本当は放送演説で会った時に言おうと思ってたんだけど、私たちも賭けをしない?」
「選挙でですか?」
「ええ。十川先輩達みたいにミスコンでもいいけど」
選挙でも厳しいのにミスコンでなんて勝てるわけがない。いくら私でも現役モデルにミスコンで勝負するほど無謀ではない。
「選挙にしましょう。何を賭けるんですか」
「相手の言うことを一つ聞くってのはどう?」
一番シンプル且つ、効果的な賭けの内容。
それこそ伊澤先輩に近づくなとか、生徒会に干渉してくるなとか言われてしまう可能性がある。だが、勝てば一ノ瀬さんに何でも言うことを聞かせることができる。
「いいですよ」
「決まりね」
不敵な笑みをこぼしながら一ノ瀬さんはこちらを見ている。表情を見る限りでは一切の不安もなく既に勝ちを確信しているようにすら見える。
「麗、心できた。とりあえずこんな感じ」
良いタイミングで十川さんがポスターの完成を告げた。
2枚ともレイアウトも色合いも全く違うのにクオリティが高すぎて同一人物が作ったということがわかる。
『やっぱりすごい。まるで本物の選挙のポスターみたい。私はもうちょっと淡い背景の方が好きだけどこれでもかなり格好良いしいいかな。先輩の時間もらうのも申し訳ないし』
「ありがとうございます。私のはこれで完成ですね」
「心、私に遠慮はいらない。納得するまで付き合う」
十川さんの前で遠慮してもバレバレなのをすっかり忘れていた。
「ありがとうございます。じゃあ甘えさせてもらいます」
「十川先輩、私の方も色合いが気になるので修正してください」
それから2時間ほど修正をして二人分のポスターが完成した。
「完璧です」「完璧ですね」
「疲れた。麗と心は人使い荒い」
「十川さんが遠慮しなくて良いって言ったんじゃないですか」
「ここまでだとは思ってなかった」
十川さんは手を伸ばし机に突っ伏している。
「ありがとうございます。こんなに人に手伝ってもらったのは初めてです」
利用したり誘導して他の人にやらせることは多いが純粋に手伝ってもらうことは今までなかった。ほとんどの場合は自分でやった方が楽で質も高いから仕方がない。
「心はそっちの方が良い」
「そっち?」
「うん、素直になった方がいいってこと」
素直。私とは一番遠い二文字だ。
自分の本心をだすことは弱味を人に見せるということ。いつか裏切られるかもしれない他人にそんなことはできない。
「素直ですか……中々難しいですね」
「そうでもない。相手がいればいつでもなれる」
言葉に説得力を感じる。私が見る限り十川さんも自分で全てのことができるから、人に頼らないタイプに見える。
「十川さんにとってのそれは伊澤さんですか?」
「優だけじゃない。今は麗や葵、穂希にも頼ってる」
「心にもすぐに見つかる。私は疲れたからもう帰る」
なぜそんなに断言できるんだろう。
そして十川さんはマイペースすぎる。
「私も帰ります。十川先輩、車乗ります?寮まで送りますよ」
「うん、おねがい」
「了解です。百瀬さんも乗る?」
「いいえ、私も車を待たせているので」
「そう、それならいいわ。今日は話せて楽しかった。お互い選挙頑張りましょう」
「はい、頑張ります」
十川さんと、一ノ瀬さんはパソコン室から出て帰って行ったが、私はこれからの選挙の作戦を練るために一時間以上パソコン室から出ることはなかった。
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