1-4 大きな虫ほど気持ち悪いわけで
1-4
早朝より雰囲気の変わった道を歩く。以前の道より植物が金属質のような質感へと変化していた。
「ボス、食べれそうにない植物ばっかりじゃないですか?」
「・・・お腹空いているのに残念だよねぇ」
朝ごはんと称して大量に調査名目で収集していた食材を食べたことを知っているケイトは頬をひくつかせている。同心円状に植生が変わっているのでその中心部に植生を歪めている相手がいているのは明白だ。許すまじ。
以前とは違い襲いかかってくるモンスターも無機物としての特徴を強く有している。ケイトがいつの間にか繋ぎ目が目視では分からないほどの関節を切り裂いたり、打撃に気を乗せて相手に攻撃を通すなど成長をしているのを横目に見ながら辛うじて食べれそうな植物や果実を収集していく。少ないなぁ。
そんな工程を半日ほど費やすと同心円の付近に到達した。ドリアードと争っているせいか範囲こそ広くは無いが神化しつつあるドリアードに抗える実力を持つ魔物ということになる。そこに鎮座して居たのは鎧兜そのものに見える小屋ほどもあるカブトムシであった。
「ケイト、これは君には相性が悪いね」
そういうとリュックを地面に置いて短杖を構える。どこから出しているのかわからない叫び声を上げるカブトムシに対して無造作に近づいていく。リズムよく杖を振りながら体の周囲に複数の魔法陣を蓄積させていく。突如ボスに向けてカブトムシから光線が放たれる。ぶつかる瞬間に魔法陣を展開し光線を吸収しつつ何気ない調子で歩いていく。光線が吸収されることに苛立ったのかカブトムシが羽を広げて飛び上がった。古屋一つはありそうなカブトムシが飛翔する様はなかなか趣があったが翅を動かした際に生じる風がものすごい。周辺に集まってきていた雑魚モンスターが吹き飛ばされる。何度となく繰り返される突撃をひらりひらりとかわしながらもボスは周辺に魔法陣を展開し続ける。
「こんなもんかな。カブトムシにしてはがんばったね」
ニコッと笑って短杖を一振りすると周囲に展開していた何十もの魔法陣が複雑な立体を形成し始める。
危ないと本能で察したのかカブトムシは魔法陣に対して幾度も光線を浴びせかけるが魔法陣は次第に意味をなし始めていく。
「命だけは持っていっていいけど体はダメ」
魔法陣に向けてボスがそう言うや否や、完成した魔法陣から大きな黒い腕が飛び出しカブトムシを掴むとナニカを引き剥がして魔法陣の中へと帰っていった。その場に残されたのは大きなカブトムシの死骸だけだった。